#43





『Knights』四人でのパフォーマンスは、変わらず今日も優雅にスマートに。月永の音楽に乗せてステージを駆け、会場を魅力していく。

――連日のライブを指示しながらも現場には一切顔を見せなかった月永は成る程客席に居たらしい、と気付いたのは前回のライブの終わり間際のこと。
『Knights』の現状を推し量るとかそういう意図があるのだろうけれど、何の説明も無しに動くのは勘弁してほしいというか――月永の奔放さに慣れていない司くんのフラストレーションが溜まりつつあるので、話す場を設けるくらいして欲しいのが本音である。

とくに今日の司くんは集中力が欠けているのかミスも目立つし中々に不味い、気がする。
三列ほど後ろで観覧している月永といえば時折欠伸をしながら、じいっとステージを見つめている。
あんずちゃん曰く【デュエル】の予定を立てているのだと言うし、一波乱起きるのは間違いなさそうだけれど。

自分の居ない『Knights』は、彼の目にどう映っているのだろうか。




***



「お疲れ〜⭐︎思ったより出てくるの早かったな。仕事はもういいのか?」

講堂を出て自然光に目を細めていると、のしりと背に何かが覆い被さってくる。
探す間も無く降ってきた私を労う陽気な声には問い詰めることのほうが多い。にもかかわらず嬉しいが上回って表情が緩んでしまえば、脳内お花畑だと言われても仕方ないだろう。

「データ纏めたりは此処でする必要もないからね。続きは、スタジオに顔出した後かな。夜な夜な何百という『Knights』と向かい合うわけです」
「そういえば昔もそんなことしてたな。おれとかセナが声をかけても、画面の中のおれたちに夢中でさ」
「え〜。月永も似たようなものだったじゃない?」

指に携えたペンがそれだけでないことを象徴しているが、台詞からして恐らくは私を待っていてくれたのか。ようやく『Knights』の面々へ説明する気になってくれたのか。
問いかけるよりも前に、月永はどちらもだと言わんばかりににこりと八重歯を見せた。

「どうせ行き先が同じならおまえを待ってようと思ってさ。話したいことっていうか……聞きたいこともあったし」
「聞きたいこと?まあ……半年分くらいは、話題に心当たりがあるよ」
「うん、たぶんそのうちのひとつだ。鹿矢はあんまり話したくないことかもしれないけど」

くるりと背を向けて、校舎へと歩いていく月永に歩幅を合わせる。
――あ、その間。その声色は。初めてそれを話題に出したときの瀬名と、同じだ。

「……無くなるんだってな。『広報準備室』」
「耳に入るの、早いねぇ」




***



月永と肩を並べて廊下を歩くのはいつ以来だろうか。
それこそ一年前くらいか――オレンジの束が隣で揺れているのは非日常にも思えるけれど。なによりも日常に帰ってきたのだという証拠だ。

「仕事の斡旋とか『ユニット』の世話とか……おまえ、『プロデューサー』っぽいこともしてただろ。なのに『広報』とは別物だって言うし?でも無くなるとか言うし?よくわからんっ!どうしてそんなことになってるんだ?」
「た、たしかにそれは聞けば聞くほど謎だわ……」
「だろ〜?話してくれたケイトもいまいち分かってなかったみたいだけどさ!説明を要求するっ!」

日常と、日常の狭間。
月永が夢ノ咲学院を不在にしていた空白の時間はそれなりにあって、あんずちゃんや三毛縞くんあたりから聞いた話だけでは埋まらない部分は当然に存在する。
見て、聞いて、時間をかけてゆっくり理解していくことになるのだろう。
新しいメンバーを加えて、絶えず歴史を紡ぎ続けた『Knights』、夢ノ咲学院に変革をもたらすきっかけとなった『プロデューサー』のこと。――『広報準備室』の、処遇についても。

余計な、他所からのヤジが入る前に月永の問いには答えておきたいけれど。誰もが抱く疑問を度直球で投げられたのは久しぶりで、ある意味新鮮で。少しだけ言葉に詰まってしまう。

「…………どうしてか、詳しくは私も知らないよ。取り決められた仕事の範疇の違いはあるけど結局被ってる部分もあるしね。だから名前も組織も心機一転、いちからスタートのシンデレラストーリー的なやつを目指してるんじゃないかな……真新しさがあるほうが話題にもなるし、注目もされやすいし」
「……鹿矢も『プロデュース科』じゃだめなのか?」
「だめなの。“たったひとりの”っていう煽り文句にしかない旨味があるのよ」

『仕事の範疇が異なる』『一定の成果を出しているから、『プロデュース科』への合併は卒業後を予定している』なんて八割は上っ面だけの説明を当時はありのまま受け止めていたけれど。そもそもの話、私じゃダメだったのだと気づくのにそう時間は掛からなかった。
改めて思い返してみても七種くんの協力もあって得られたこの結論は覆らない自信がある。巴も勘付いていたようだし、外から見た私はけっこう分かりやすく干されている気もする。格好が付かないし、なんだか情けない。

求められた役割をこなせるうえに、肥やしにもなるから、あえて分割されたまま生き永らえてる。とか――ネガティブに塗れた持論を伝えるのは私怨や皮肉が溢れてしまって憚れる。
なので他の、思いつく限りの理由を並べる。
……ある意味では間違ってないだろう、次年度から『プロデュース科』を正式に新設するのならば旗頭である彼女の活躍は宣伝にもなるし、“たったひとり”や“唯一無二”という存在が複数居ようものなら特別感は薄れてしまうから。

「まあ、今の夢ノ咲学院はあんずちゃんを中心に据えることで良い方向に進んでるし、いいんじゃない。……月永も面白そうだって思ったんでしょ?」
「む〜……それはそうだけどっ!」

そうじゃなくて、と私の説明を大人しく聞いていた月永は不服そうに腕を引く。
心配と困惑が混ぜこぜになった瞳をまっすぐに見つめれば、想像よりも数倍平然とした私の表情が彼の瞳に揺らいでいた。

「おまえはどうなんだよ。……それなりにきつい立場なんだろ、平気なのか」
「あはは。月永の顔見たら平気になった」
「鹿矢。おれはまじめに聞いてるんだぞ」
「大真面目に言ってるよ。どんなイヤなことも吹っ飛ぶくらい、月永がいてくれることが嬉しいから」

――本当だよ。なんてダメ押しもしたいけど言ったほうが疑われてしまいそうだから、余分な一言だけは飲み込んで。
視界に広がる幸せを噛み締めながら笑ってみせれば、月永は脱力したように肩を落として盛大に息を吐く。

「降参?」
「降参。ほんっとに変わらないなぁ、おまえ……そういう意味ではむしろ安心したけどっ!鹿矢がこれだけおれのことを大好きだとレイも報われないな〜……」
「なんでそこで朔間さんが出てくるの。恋人云々の話ならもう解消してるからね」
「あれっ、おまえら別れたんだっけ。あの頃にしては明るい話題で――それこそ絵に描いたシンデレラストーリーみたいでさ、霊感(インスピレーション)が沸いて面白かったのにっ?」

そんなので沸くな、インスピレーション。

とりあえずは納得したのか月永はぽんぽんと私の頭を撫でて、仕切り直しと言わんばかりに先を歩き出す。かと思えば得意げに右折して突き進んでいく。……おっとこれは雲行きが怪しくなってきた。
ちなみにスタジオへ向かうには直進しなければならない。

「月永さん、自信満々なところ悪いけどスタジオはこっちだよ」
「む、そうなのか?だったら予定変更っ、良い天気だし寄り道していくぞ〜♪着いてこい鹿矢っ!」
「あっ!ちょ、ちょっと待ってよー!」

私の静止も聞かず月永は颯爽と駆けていく。
……スタジオに向かうつもりが話し込んでしまってさらに道草を食ってしまったのでは示しがつかない。まず説明もなく現場に参加しなかったこと自体が問題ではあるから、もう罪を重ねるだけではあるが。
『Knights』の面々に、今日は月永を連れて行きます!とか宣言をしたわけでもないし――これってもしかしてノーカンだろうか。

楽しそうに手を振って私を呼ぶ月永を見ていたら、悶々と考えていることすら馬鹿馬鹿しくなってしまって。いやいやそうやって流されてはダメだと自戒して。
こっちに寄り道しようと言って先導しつつ、スタジオへの移動を試みよう。そう心に決めて、遠ざかっていく月永の足音を追いかけた。




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