#8.5




「……とまあ、そんなわけで【DDD】はそういう方針になるから、緒戦は『Trickstar』と対戦することになると思う。なにかあれば瀬名に直接聞いてね」

セッちゃんから託されたらしい方針を話して、彼女は困ったように笑う。

曰く、この間の『S1』では『Trickstar』の肩を持ったらしい。それを裏切ることになるからか表情は明るくない。
黙って聞いていたナッちゃんも思うところはあるようだったけど、状況が状況ということもあって、仕方ないと首を縦に振った。

「スマートじゃないけど……とりあえずは了解。泉ちゃんも“彼”に構ってばかりだし、そんなことだろうとは思ってたけど。司ちゃんにはなんて説明するの?」
「良心は痛むけど、いい感じに言いくるめるしかないかなあ」
「面倒だけどねぇ。そのへんは俺たちの仕事だよ、ナッちゃん」
「オーケー。でもなんだか嫌な立ち回りねェ」
「……私がどうにか説得出来たらよかったんだけど。申し訳ない」
「鹿矢ちゃんが謝ることじゃないわよォ」

鹿矢は基本的に、セッちゃんに意見しない。
意見は言っても、真っ向から対立はしない。
……今回はちょっと反論したみたいだけど、本能で、衝突するのを回避してしまったようだ。

「じゃああとはアタシたちに任せて、いってらっしゃい。今日は打ち合わせなんでしょ?」
「うん。終わったら顔出しに行くよ。色々任せっきりでごめん。あと、よろしくね」

生徒会から『広報』として振られてる仕事に忙殺されている彼女は、目にクマをつくりながらも懸命にそれをこなしている。この後も、パンフレットの打ち合わせに行くらしい。
ひらひらと手を振って、廊下を駆けていく。

「……相変わらずよねェ。鹿矢ちゃん」
「ん〜、なにが?」
「泉ちゃんと対立するの、基本的に嫌っぽいじゃない。まぁ今回のはどちらかというと“止められなかった”んだろうけどさ」
「ああ……まぁ、そうだろうね」

どうやら、ナッちゃんも鹿矢の“それ”に気づいているみたいだ。

鹿矢が、セッちゃんの敵にならない理由は、なんとなく予想がつく。
たぶん、『王さま』が居なくなってしまってから――自分が嫌われて、セッちゃんのそばから居なくなるのが嫌だったのだろう。
せめて自分は離れずに寄り添っていたかったのだと、思う。
【チェックメイト】の時に『王さま』となにか話していたのは、二人にしかわからないことだから考慮しないけど。

常にではないけれど長い時間を一緒に過ごしているからか、鹿矢はセッちゃんが素直になれない性格だってことも、厳しい言葉のなかにも彼なりの優しさが含まれていることも理解している。
セッちゃんも、そんな鹿矢を理解してか受け入れているし身内のように思っているのだと思う。俺やナッちゃんの入る余地のない不思議な信頼関係だ。

二人の間に絆を確かめ合うような言葉はないし、セッちゃんなんかは鹿矢を雑に扱うことも少なくない。鹿矢はそれを信用の裏返しだって分かっているから、なんにも言わずにいるんだろう。

「(でもそれは、呪いみたいなものだ)」

セッちゃんの言葉の棘は小刻みに突き刺さり続けて、長い時間を経て鹿矢の心臓の一部になってしまっている。
理不尽な怒り方をするわけではないけど言葉は結構刺々しているし、認めるときは認めてもはっきりした言葉にはしないから。
たぶん、鹿矢が一番欲しいのはセッちゃんからの『それ』なのに。

今はもう麻痺しているだけで、とくべつ強いわけではない彼女の自己肯定感はずっと最下層に沈んでいる。
そんなでもない。まあ、二年もやってきたから、そこそこやるくらい。みたいに。

「(……罪だよねぇ。一人だった鹿矢とはじめに友達になって――救ったのがセッちゃんで、少しずつ落としちゃったのもセッちゃんだなんて)」

まあ今の今まで、近くにいながら俺も気づかなかったんだけど。罪の所在を問い始めたら無限に遡ってしまうし、誰を責めることでもない。

勿論、セッちゃんだけのせいじゃない。だって彼にも理由とか、抱えていたものは沢山あるだろうから。ただ大きな理由のひとつというだけの話。
色んな環境とか状況が、二人をそうさせてしまったのだろう。だとしても。

……可哀想な鹿矢。
ずっと味方をしてきても、衝突のひとつで報いの「む」の字も無くなってしまうのだから。

「俺たちがどうにかできる問題じゃないだろうけどねぇ……思ってるよりずっと、根深いみたいだし」
「そうねェ。ちょっと異常だもの、アレ。どっちも無意識に受け入れてるみたいだから、手の施しようもないのよねェ。……まぁ、アタシには関係ないことなんだけど」
「ナッちゃんってば冷酷〜」
「んもう、失礼しちゃうわァ。そういうのって本人たちが分かり合わないとダメでしょ?外野が口出しするほうが無粋ってこと!」

ナッちゃんの言うことも一理あるなぁ、なんて思いながら。
介入できないなら、せめて時間が解決することを祈っておこう。それはずっと未来の話で、もしかすると、何かが爆発してしまうのかもしれないけど。

でも、こうして先送りにすることが致命傷になるかもしれないのに、俺は愚かしくも放置することにしたのだ。
一度後悔しているのに、なんだかんだで持ち直した彼女をそのままにしておきたかった。変わってしまうことを、恐れた。

俺は俺なりに、彼女のそばで“いつも”を紡ぐことにしよう、なんて暢気に笑って。






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