#10
『Trickstar』の陣取っていたステージにたどり着くと、舞台上には覆面を被りユニット衣装を纏ったあんずちゃんと、明星くんが待ち受けていた。
「おい、『Knights』!」
強烈な個性の集まりである『Knights』の面々にやや気圧されていたものの、移籍したはずの遊木くんがいないことを察知すると――明星くんは勢いよく噛み付いて彼の所在を問うた。
しかしなるくんも司くんも、質問に答えるというかほぼ無視をするようなかたちで戯れ始める。凛月に至っては会話をしようという姿勢すらもない。
すると、先ほどから戸惑いながらも私に視線を送っていたあんずちゃんが、口を開く。
「……鹿矢先輩。先輩は、遊木くんがどこにいるか知ってるんですか」
『Knights』の面々よりは聞きやすいと思ったのだろう。
いつもなら、それに応えてあげられるのだけれど。
やや怒気の含んだ声をかわすように、私は淡々と答える。
「ごめんね、あんずちゃん。明星くん」
仲間だった者が裏切って実は悪の組織の人間だった、みたいな表情をするものだから、きゅっと心臓が締め付けられる心地だ。
後輩に嫌われる覚悟とかまだなかったなあ、と少しだけここに来たことを後悔した。
「そっか。最近俺たちのこと避けてる、って思ってたけど……鹿矢先輩、『Knights』の仲間だったんだね」
「うん。そう捉えてもらって構わないよ」
何か言いたげなあんずちゃんに私は首を振って、大丈夫だよと笑ってみせる。
あんずちゃん個人には差し入れをしたりしていたから、弁解してくれるつもりだったのだろうけれど。私には、過ぎた配慮だ。
続けて朔間さんからの視線も注がれて――これはこれで正直合わせる顔がないのでしんどい。実は彼とも『B2』前に会話して以来の邂逅だ。
『UNDEAD』が【DDD】に出場することはもちろん知っていたけれど。
まさか『Trickstar』のステージのそばに居るだなんて、思っていなかった。なるほどまだ彼らへの希望を失っていないらしい。
失望したというよりも納得したように朔間さんは息を吐いた。
「ふむ。やはり、『Knights』の肩を持つか。……おぬしは使命感の強い子じゃ。最後まで『Trickstar』の味方をすると思っておったのじゃが」
「……ごめんなさい」
「いや、骨の髄まで染み込んだ信条までは変えられんじゃろうて。それを責めてはおらぬよ」
「鹿矢」
痛烈な視線から庇うように、凛月は私を自分の後ろに控えさせる。
『Trickstar』や朔間さんへ余計な情報を与えないように、という理由もあるのだろうけれど。これ以上私の心労を増やさないためにも、なのだろう。
赤い瞳同士の視線がかち合って、凛月は目を逸らす。
それを寂しそうにしながら、朔間さんは私や『Knights』の面々を静かに牽制した。
「……しかし。あまり優雅なやりくちではないのう、『Knights』の諸君」
五奇人として討伐されたといえ、根を張っていたすべてのが燃え尽きたわけでは無い。
今でも学院で知らないことはないだろう朔間さんは、遊木くんが無理矢理移籍させられようとしていて、どこかに監禁されていることを、知っているらしい。
『Knights』の名が泣いている、という言葉はもっともだった。
決して瀬名の行為を肯定しているわけではないなるくんは、代表するように苦言を零す。瀬名の行為そのものが『Knights』のやり方だと思われるのは本意ではない。
司くんに至っては何が起きてるのかほとんど知らないので、可哀想ではあるのだけど。
こうしている間にも、緒戦の開始時刻は迫っていた。
凛月はめんどくさそうに、ステージへ近づいていく。続くようになるくんや司くんも登壇して、『Knights』は戦闘態勢に入った。
私もいつものように舞台裏の木陰にクーラーボックスを置いて、ステージの見える場所に陣取って気怠げな凛月の声を受け取る。
「だるいけど、適当に頑張ってくるねぇ」
「うん、無理しないで。頑張れそうなら、頑張ってね。勝つんでしょ?」
「当然」
『Knights』は『Trickstar』相手に敗けるはずはない、のである。この胸騒ぎは、戦前の武者振るいのようなものだ。
だから凛月が不戦勝を狙って策を巡らせて、朔間さんがそれを紐解こうが、情熱のままに明星くんが遊木くんを探しに行こうが、覆らない。
懸命に『Knights』の面々から遊木くんの情報を聞き出そうと奮闘するあんずちゃんの努力も、徒労に終わるはずだったのだ。だって、開始時間に規定の二人が揃っていないユニットは失格になって、不戦敗となる。
――こんなギリギリの時間に、遊木くんを探しに行った明星くんが開始時刻までに戻って来れるわけがないのだから。
ただ、どうしても拭いきれない恐怖が在る。
『Knights』は強い。実力者の集まりだ。瀬名を、月永を欠いたところで敗けるはずはない。
けれど、『Trickstar』を――あんずちゃんを前にすると、なんでも覆ってしまうそんな奇跡へ帰結してしまいそうな予感がする。
物語の中心はあの五人なのではないかと思ってしまう。
眩しくて、眩しくて、仕方がない。
『Trickstar』の彼らに似た光は彼女からもずっと、絶えず放たれているのだ。
――ああ。この前のステージも、アンコールが終わるまで居れなかったっけ。
その感覚に、よく似ている。
ステージから視線を逸らすと、自陣へ戻ろうとする朔間さんと目が合う。
彼は、綺麗な顔を歪めて私を見つめていた。
「……鹿矢のそれは最早『呪い』じゃ。心が食われてしまう前に、どうにかするべきじゃのう」
「呪いだなんて。私は選んで、ここに居るの」
「それでも、じゃ。そんな表情をしている後輩を放っておけるほど我輩は腐ってはおらぬ。……ゆえに、此処から連れ出す」
「えっ、ちょ、……わっ!?」
ふわっ、と足が地面を離れて至近距離に朔間さんの顔がやってくる。お姫様抱っことか、いうやつだ。
「と言うのも建前でのう。『広報準備室』の妻瀬鹿矢ちゃんや。我ら『UNDEAD』の緒戦、いの一番に報じてはくれぬか」
「いっ、」
イエスノーを答えるも間なく、朔間さんは機材が入った私のカバンも軽々みたいに背負って、あっという間に『Knights』ステージから駆けていく。
『Knights』の面々が何か言っているのが聞こえたけれど、それは雑音に紛れて消えていく。
条件反射で抱きついてしまったけど、そうでもしていないと振り落とされそうだ。
陽の光を、人混みを避けるように朔間さんは『UNDEAD』のステージへ向かっていく。
まるで逃避行みたいだ、なんて思いながら、私はされるがままに運ばれて行ったのだった。
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