#11





【DDD】の緒戦――私は『Knights』を初めに撮るはずだった。

「さて。鹿矢には『UNDEAD』のステージを撮ってもらいたいところじゃがのう……。なぁに、無理にとは言わぬ。『Knights』のステージへ戻るのには些か時間が惜しいがのう?」
「ははは、白々しい……」

攫った時点で、帰すつもりなんてなかっただろうに。
朔間さんの言う通り『Knights』のもとへ戻る時間もなかったので、私は大人しく彼らのステージを見守ることにしたのだけれど。

『UNDEAD』は先日の『B2』――『fine』に敗北したことで、相手ユニットから実力を侮られてるようだった。
……端的に言えば、なめられている。そんな挙動や雰囲気をひしひしと感じる。
それらを蹴散らす姿を一番に報じさせることで、『UNDEAD』の実力を示すつもりなのだろう。

「震撼しやがれ愚民ども――!」

羽風を欠いているものの、彼らは初手からその強烈な牙を隠さず襲いかかる。
怯む相手を食い散らかす狼のように痛烈なロックをかき鳴らす。相手ユニットの面々はこんなの聞いてなかったぞ、という表情で冷や汗すらうかがえる。

影が落とされたステージでは朔間さんも本領を発揮できるというものだ。
観ているひとすべてが、たちまち彼らの闇に呑まれていく。
結果は概ね予想通りになるだろう。

『UNDEAD』のステージの速報を流しつつ、私は付近のステージへ移動していく。
朔間さんが私を連れてきたルートよりもこちらの方が人混みも少なく、周るには効率が良さそうだ。
しかしこの調子だと『Knights』のステージへ戻るのは後半戦に差し掛かってからになる。……彼らのステージは“始まってしまった”というのに。

誰が『Trickstar』に戻ってきたのかは知らないが、運営である生徒会メンバーから『戦績』が共有されていないことがその証拠だ。
不戦勝となったのであれば、それはすぐに知らされるはずなのだから。

「……嫌な予感しかしないよ」

遊木くんが明星くんの手によってすぐに救出されたとして、終了間近になるかもしれないが『Trickstar』はあんずちゃんを含む四人がステージに立つことになるのだろう。
いや、それでも実力差は歴然なのだから――おちおち敗けるわけがないけれど。

緒戦の半分の時間と少しを過ぎた頃、人混みを避けた場所を駆ける彼を目にして、今日の『Knights』は星の巡り合わせが悪いことを悟ったのだった。



***


「勝利のためとはいえ、やってくれたね」

まあ、おあいこどころか、犯罪には抵触しないレベルなので衣更くんのほうがかわいいまであるけど。

瀬名の走っていく姿を見つけたあと、急いで『Knights』の立つステージへ向かうと、『Trickstar』の手によって『Knights』――もとい瀬名の蛮行がやや誇張表現ではあるものの、衣更くんの手によって暴露されていた。

それを受けた観客の反応も含めて、ステージ一帯の雰囲気は“普通じゃない”。
此処は設置された中でも隅っこのステージということもあって、『Knights』のような――清廉な雰囲気のユニットは些か分が悪い立地である。どちらかというと『Trickstar』のような親しみやすいユニットにこそ有利に働くステージだ。
なぜか客層は他校の生徒ばかりのようだし、『Knights』にとって不利な条件に拍車がかかっているという状況下であることは容易に把握できた。
……このままでは『Trickstar』へ票が集まるだろう。

愛ゆえとはいえ。この状況への引き金を引いてしまったのは紛れもなく瀬名だ。
司くんは衣更くんの言葉をそのまま信じてしまっているようで、瀬名と口論している。
端とはいえステージ上で言い合いをする彼らを、フォローすることは出来ない。
凛月もなるくんも苦い表情をしていたので、現状は理解しているのだろう。
お互い譲らずに言い合っている瀬名と司くんを御しきるほどの時間的余裕は無く、無常にも最後のパフォーマンスが始まる。

「……ぜんぶの運が向いてない」

この負債は不味い。
もちろん、自滅しているところもあるのだろうけど。
ステージには陽が差していて凛月は絶不調なのが見てとれるし、瀬名と司くんの間の空気は最悪だ。なるくんの心境を考えると胃が痛い。

それでも、彼らだって初心者ではないから――夢ノ咲学院のトップレベルのアイドルなのだから、持ち前の実力で圧倒的なパフォーマンスを繰り広げていく。
威風堂々と、誇らしげにステージを舞う。



***



“新星『Trickstar』、強豪『Knights』を相手に緒戦勝利。その勢いは止まることを知らず――”

簡単な速報とはいえ、自分が『Knights』の敗北を報じるのは精神的に参る。
『Knights』は『Trickstar』に及ばず、僅差で敗北を喫したのだった。

仕事とはいえ一番近しいユニットなので、複雑な気持ちだ。
他のステージの結果も生徒会のメンバーや委託業者から情報を受け取って、速報を作成する。
やはり『UNDEAD』は順当に勝ち上がり、『2wink』や『Ra*bits』も勝利を掴んだようだった。

舞台を降りてなお瀬名と司くんはなお言い合いをしているのが遠目に見えて、最早ため息も出ない。
まあ、何も言い合えずに腹に抱え続けて暴発するよりはマシなのだろうけれど。

結果はともかく労いたいところなのだが、延長戦に突入するらしいという『fine』と『流星隊』のステージへ向かわなければならない。
なので、ひと声だけかけようと私はステージ脇へと急いだ。

「妻瀬先輩!先輩はこのことを――瀬名先輩の不貞行為を知っていたのですか!?」

私の姿を一番に見つけた司くんは、騎士道らしからぬ行為に憤慨していた。彼の性格を考えれば怒りも当然である。

「……ごめん、知ってた。ごめんね。でも、いったん落ち着こう。気持ちはわかるけど、整理してからで遅くないから。ね?」
「……うう、すみません。少々熱くなりすぎてしまいました。……先ほども頭に血が上りすぎて、Performanceも精彩を欠いていたように思います」
「『Knights』を思うからこそ、力んじゃったんでしょ。私が言うのもなんだけど、まだまだこれからなんだから大丈夫だよ。次に向けてまたレッスンしよう」
「妻瀬先輩……」

司くんを諌めつつ、瀬名の方へ向き直る。
少しバツの悪そうな顔をして目を逸らした瀬名は言葉を発そうとしない。

凛月の言う通り、喧嘩をしたみたいになっていた。
自分から避けてしまっていたけど――今更ではあるけど。何があっても止めておくべきだった。だって、そんな表情をさせてしまった。

ステージを終えて乱れてしまった髪を整えて、肩をがしっと掴む。
青い瞳をまっすぐに捉えて名前を呼ぶ。

「な、なに」
「……この前は、嘘ついてごめんね。あと、避けてごめん。また頑張ろう。……でも司くんにはもっと優しくね、無理に強制するんじゃなくて説明から。二年もお兄さんなんだから」

すっかり毒気の抜けた表情で、ぽかんと口を開いている瀬名を見て――ちょっとだけそれに満足した私は彼から離れる。

瀬名は多分、私が責めるんじゃないかとかそういうことを思っていたのかもしれないけど。
そういうのは他の人がするだろうし、ペナルティを受けるだろうから。それでじゅうぶんだろう。

間違ったことに手を染めていることを知りながら、かつてあったことや、忙しさを盾に目を瞑ってしまっていた私にも非がある。
だから、私が瀬名を責める理由はひとつもないのだ。

「みんなお疲れ様。またあとでね。……なるくん、あとはよろしく。凛月も無理しないでね」
「無理、死ぬ……」
「……はいはい、凛月ちゃんはこっちよォ。鹿矢ちゃん、転けないようにねェ」
「ありがと」

なるくんも、心身ともに疲弊しているだろうに。
後処理を任せてしまうのは申し訳ないと思いながらも、私は中央に座するステージへ駆けていった。





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