#01
春、は眠い。
しかし眠くとも、仕事は雨のようにざあざあと降りっぱなしで、なかなかにやまない。
有難い話であるのだが、この夢ノ咲学院に所属するユニット数と活動量の割に広報ひとりとなると、当然だがすべての活動を把握して回ることは現実的ではない。
アイドル科広報準備室。
それが今までの二年間の私の居場所で、最後の一年を過ごす場所だ。
今年度は次年度に新設予定の『プロデュース科』なるものの準備期間として二年生にひとり編入してくるらしい。
教師陣いわく、プロデューサーはプロデューサーであるために各ユニットのプロデュース全般に関わっていくことになるようだ。
広報活動も勿論そのうちのひとつであるが、かといって『プロデュース科』は広報のみに特化したわけではない。
つまるところ私の仕事負荷は変わらないということだ。
広報準備室は放送委員などの各委員会や生徒会との関わりが深いのだけれど、所謂“アイドル科の広報専任”であるから、どこの委員会に所属しているというわけではない。
直属の上司はいわば学院そのもの――現状では生徒会である。
ゆえに、ドリフェス運営やらの案件は生徒会の指示を受ける。が、各部活動やユニットからの依頼も受けているし、それに伴い個人での裁量権も多少は有している。
現在はドリフェスの広報や個人的に請け負ったユニットの広報関連を補助という形で活動しているのだが、運良くそれらが好調なもので、学院側としてもそれらの活動を差し置いて余命わずかな私をプロデュース科に転籍させるのも憚られたようだ。
ちなみに、『広報準備室』は今年度いっぱいで廃止が決定している。
「……そう。春は眠いので、棺桶貸してもらえませんか」
「え〜。我輩の寝床なんじゃが」
「そこをひとつ」
「鹿矢はまだ若いからのう……?」
「あんまり変わらないでしょうが」
昼下がりの軽音部の部室。
暗がりの中にどっかりと置かれた棺桶には、三奇人の一人――朔間零が微睡んでいる。
どうにも寝床を貸してはくれなさそうなので、私はつい先程まで行われていた【龍王戦】のデータ整理を再開する。
半ば暴動と化し、生徒会の介入により中止となったものの、序盤分はしっかりと収めたので――鬼龍対大神の戦いもばっちり記録されている。あの場に乗り込んだことをよくやったと褒めてやりたい。
黙々と作業をしていると、棺桶の主はゆったりと顔を出した。
「……鹿矢。わんこはどうじゃった」
「うん?白熱してたよ。空手部に渡す予定の写真だけど、これなんかよく撮れてるかな?」
「おお。随分と弾けておるのう」
「はは、確かに。良さでもあり弱点でもあり、な気もするけどまあ。男子高校生はこうでないと」
アイドルが闘う、なんて可笑しな話かもしれないが、それも味があっていいと思う。
野蛮だと罵られようが、それぞれのプライドを持って闘うと決めたのなら、正々堂々と果たし合うことは寧ろ美しいとすら思う。他所様に迷惑をかけない程度に、だが。
実質生徒会の支配下にあるこの学院の多くの生徒たちは、規律に則りあくまで“模範的”か“当たり障りのない”態度をとる。在学時の評価は、自分やユニットの将来にも関わってくるから当然のことだ。
だからこそ、【龍王戦】のような『B1』は良くも悪くも刺激になる。あと単純にカッコいいというのもあると思う。
すい、すい、とデータをスクロールしていると、大神くんがステージから飛ばされていく。すごい。合成か?と思うくらいよく飛んでる。あ、着地シーン。その下敷きにはピンクのカーディガンが。彼女は確か、今日から編入してきた新米プロデューサーか。
「あ」
「……ほう」
「あ〜……」
魔王の目がギラリと光る。
ごめんね大神くん。別にこれはチクリとかそういうのではないです。なんて心の中で謝りつつ、でもこれは女の子の上を着地地点にしてしまった君が悪い、と思わざるを得ないのだった。
彼の目が光った先が大神くんではないことに気づくのは、少し先の話。
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