#02




賽は、割と急に投げられた。

「(転校生は特異点になり得る、か)」

春の日の午後、軽音部部室にて。
目の前で、転校生であるプロデューサーことあんずちゃんと、明星スバルら『Trickstar』による革命が始まろうとしている。
青春群像劇をみているようだ、なんてどこか他人事のように一抹の希望を抱いていると、肩をポンと叩かれる。

「と言うわけで。鹿矢、諸々のサポートは頼んだぞい♪」
「……なる、ほど…?」

にこり。有無を言わさぬように朔間さんは悪魔というよりも天使めいた笑顔で、私に託す。
血の気が引いていくのが分かる。いやいや、何を仰るのですか。なんて言える空気ではないけど。

『Trickstar』のパフォーマンスを見定めていた朔間さんは、彼らに希望を見出し指導することになった。
実力者である朔間さんの後ろ盾を得られたこともあり、『Trickstar』は革命への武器をひとつ手に入れたらしいのだが──課外活動を終えて立ち寄った部室でそんな話を聞かされたところにこのお達しである。
断る理由は特にはないし、まあいいけど。

朔間さんも一枚噛んでいるということもあって、できませんごめんなさいで終わる問題ではなさそうだし。
……そうでなくても。『プロデュース科』の転校生である彼女は私の後輩にあたり、学年が違うので時間にも限りはあるが――教師陣からも面倒を見るよう言われている。そんな状況も利用してサポートをしろということなのだろう。

決行は二週間後の『S1』。
対戦相手は、生徒会副会長である蓮巳敬人率いる『紅月』。一筋縄で勝利を掴むことはできない相手であることは明白だ。
同じ土俵に立つのならば、力をつけなければならない。それでも軽音部総出で特訓とはまた恐れ入ったものだけれど。

「あの……」
「あ、ええと。初めまして。三年の妻瀬鹿矢です。話は先生達から聞いてるけど、……あんずちゃんって呼ばせてもらってもいいかな?」
「は、はい!妻瀬先輩。私も、お話は伺ってます」

焦茶の髪を揺らす彼女と視線を合わせれば、青い瞳がきらりと光る。
ああ、確か先日の龍王戦での件で、大神くんの着地点となったんだったっけ。
こんな華奢な女の子を大神くん君という人は。その件についてはすでに朔間さんから咎められたようだが、あんな目にあっておいて怖がって逃げ出さないあたり、夢ノ咲向きの人間だったとも思う。

「広報関連については面倒を見るようにって聞いてるから、私と現場に同行してもらう形になると思う。大変だと思うけどよろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」
「うん、何かあったら相談してね。力になれるかは分からないけど一応先輩なので」
「ありがとうございます。心強いです」

数年ぶりの女の子の後輩にはドキドキするもので、若干緊張しなくもない。
先輩ってこんな感じなのか、と内心ほくそ笑んでしまったのは内緒だ。





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