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【START GIRL】3





〜clap連載〜
※前回話はこちらから

やばい、目の前に赤髪のシャンクスがいる。記憶にある見た目よりもリアルに存在していることになんだか違和感が身を震わせた。あ、本当に私ONE PIECEの世界にいるんだなと、胸を抉られるような想いが心を占めた。相手の好意を無下に出来るほど冷たい人間でもないので、恐る恐る彼の手をとり、立ち上がる。
ずっと座っていた為、ふらりとふらつくもなんとか足を踏ん張り、持ち堪える。

「おいおい、大丈夫か?」

心配そうに声を掛けてくれる彼にこくりと頷いた。相変わらず声は音に鳴らずに喉を鳴らすだけ。自分の運のなさに溜め息しか出てこない。

「名前は?って・・・言えねェんだもんな」

へらりと困ったように笑う様はこちらがなんだか申し訳なくなる。どうやら走っている時に海兵さんにもらった紙とペンは落としてしまったようだ。私は悩んだ末に彼の手をとった。凄いゴツゴツした手だ。男の人の手というか、微かに傷もあるし・・・私は震えながら彼の手の平に自分の名前を書く。

「(アオイ・・・)」

「アオイ?そう言う名前なのか?」

またこくりと頷く。すると彼は輝かしい程の笑みを向けてくれた。

「おれはシャンクス。よろしくな!こっちは・・・」

「ベン・ベックマンだ。」

私は2人にぺこりと頭を下げた。座っていた位置からも分かってたけど、でかい。圧倒的にでかいのだ2人とも。現代だったら、バスケとかバレーボールで活躍出来たのではと思うくらいでかい。

「とりあえず、こんなところじゃゆっくり話も出来ねェからなァ・・・おれ達の船に――」

「待て待てお頭。おれ達は'海賊'だぜ?」

「おー!それもそうかッ!」

「それはまずいな!」とケラケラと笑う姿は何ら漫画の人物像と変わりはない。だが彼らは海賊なのだ。リアルとフィクションは大いに違うかもしれない。突然豹変するかもしれないし、意外と怖い人達なのかもしれない。
震える腕を無意識に押さえつけた。

「・・・・・・まずは街に行こう。」

シャンクスはアオイの様子を見ると何かを察したように静かに告げた。





少し空が薄暗くなっていた。そう言えば暴れていた海賊はどうしたのだろう。この人達がやっつけたのかな・・・でもこんなところにまで来てるということはそういうことなんだろう。街の人はどうなったかな、あの海兵さんは・・・無事かな。
悶々と悩み始めた私は、前を歩く2人に目を向けた。あの海兵さんも、やっつけちゃったのかな。

「アオイは、この島出身なのか?」

頭を横に振った。

「じゃあ、家はここにあるのか?」

また首を振った。

「・・・どこから来たんだ?」

私はその質問に対して苦い顔で返した。何とも言えないのだ。異世界から来ましたなんて信じてもらえるわけでもないし、根本的に喋れない。

「だぁー!めんどくせぇ!!なぁ!紙とペンねェのか!!」

「持ってるわけないだろう。・・・船に行けばあるがなァ・・・」

「仕方ねェか・・・」

私が話せないことに痺れを切らしたのか、頭をガシガシと搔いていた。決して嫌味な感じではなくて、本人がまどろっこしいことが嫌いなのだろう。感情が表に出ちゃうんだろうなー・・・その様子をぼーっと見ていた。

暫く歩いていると、やっと山の出口が見えた。

「アオイ・・・この先、辛い光景かもしれないが・・・行けるか?」

あれから街の様子がどうなったか知らないから、心臓が少し速くなっているのを感じる。
私はゆっくりと頷いた。
そして、山を降りる――

「・・・・・・!」

「おれ達が着いた時には・・・この有り様さ」

先程見たようなガヤガヤと活気のある街ではなくて、家は荒らされ、焦げ付いたような跡に、誰とも分からない噎せ返るような血の匂い。道の端では何人もの人が倒れている。平和な世界で生きてきた私には到底我慢出来るものではなかった。
胃から、逆流してくるのが分かった。

「・・・っ、ぁ・・・」

ゲホッと胃酸が吐き出されてしまう。
そしてその場に崩れ落ちると口を押さえて吐き気を抑えた。気持ち悪い、何で、どうして、こんなこと・・・この世界はこれが日常なの?これが・・・普通なの?
私には理解できない常識。せめてもの救いはその時の光景を見ないで済んだことだろうか。見てしまったら私は、恐らく気絶していただろう。映像となって出てきそうなそれに慌てて首を振って、意識を保つ。

「お頭!どこ行ってたんだ!」

「お、帰って来たな」

「こっちは中々やべェぞ」

シャンクスが帰還したことにより、恐らくシャンクスの仲間らしき人達は彼を迎えた。だが、なんだか慣れてると言った方がいいのか、言葉からはあまり深刻さが伝わってこない。私はそれにゾクリとした。
あ、この人達は住む世界が違う。本当に違う世界の人なんだから当たり前なのだけれど・・・私の常識は、通じないんだ。
ザワザワと少し騒がしいそれに、恐怖が身体を支配する。こんなところに居たくない、帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい・・・

途端に、シャンクス達のことも怖くなってしまった。ガクガクと身体が震える。

「・・・おまえら、うるせェぞ。少し黙れ。」

アオイの様子を見たシャンクスは周りを睨みつけた。無理もないだろう。多分こんな光景、見たこともなかったんだろうな。
先程触れた彼女の手は綺麗でサラサラとしていた。豆もなく、肌は白くて、傷も傷痕も何一つなかった。多少海に出ている者であれば、筋肉だったり、傷であったりあっても良いものだが・・・
箱入り娘か、何かだろうか。それかどこかの国のお姫様か?何故こんなところにいるのか分からないが、知らないのなら一つ一つ成長していくしかない。

シャンクスは静まり返った空気に一瞥くれると、#名前#に近付いて屈む。彼女は尚、震えたままだ。

「こんな光景見せて悪かった。だが、これが現実なんだ――そういう'世界'なんだ」

シャンクスは彼女に理解してほしかった。お姫様だろうと何だろうと、現実から目を背けることは良しとは思えない、だからこそ世界の現状を知ってほしかったのだ。
だが、そんなこと、彼女には関係なかった。
そういう問題じゃないのだ。彼女はつい数刻前までは、平和な世界にいたのだ。この世界のことよりも、自分のことでいっぱいいっぱいなのだ。

そんなこと、受け入れられるはずもなかった。

それに気付いていれば、おれはこんなこと、言わなかっただろうか。もっと気の利いた言葉をかけてやれたかもしれない。

おれを映したその瞳は――絶望に染まっていった。





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