「マルコ隊長、好きです」
初めて告白した時は確か半年くらい前だったと思う。ふとした瞬間につい声に出してしまった。私もビックリしたけど、彼がひどく驚いた顔をしていたから、すぐに冷静になれた。ああ、言ってしまったと後悔しても遅くて。
「……それは、嬉しいねえ」
なんとか紡いだであろうちっとも嬉しくなさそうな言葉に、なんかこれで終わるのはすごく嫌だなって思った。もしかして私の好きって気持ち伝わってないんじゃないかと思ったからだ。だから、それからはことある事にそれも細かく好きだと伝えた。
「その表情好きです」
「そういう仕草好きです」
「そういうところが好きなんです」
「だから好きになったんです」
はじめは急にどうしたと周りも変な目で見てきたしマルコ隊長は戸惑っていたものの、いつからかありがとうの一言で終わらせるし周りも反応しなくなった。
なんか、思ってたのと違う展開になってしまった。慣れさせたいのではなくて、伝わってほしかっただけだし、あわよくば意識してもらいたかっただけなのに。
「マルコ隊長が好きです」
「そうかい」
もう目を見ることも無く、はいはいと言わんばかりの返事だ。さすがにこうなると私も傷つくわけで、この距離感に辛くなってくるだけだ。もう終わらせた方がいいのかもしれないと感じていた。
「最近元気ないな」
「だれが?」
「お前が」
食堂でカルーアミルクを飲んで寝ようと一息ついていたところだった。サッチがおもむろに声をかけてきた。
「そうかな」
「うん、わかりやすい」
どうした、と続けられる言葉に別に隠してる訳でもないしなと素直にこたえた。
「マルコ隊長のこと、諦めようと思って」
「なんでまた」
「ちょっとやり方を間違えちゃった」
「諦めれんの?」
諦められるのか、とするどいことを聞くものだ。簡単にやめられるならとっくにやめている。はじめからこんなこともしていない。でもこうなってしまっては蓋をするしかないではないか。
「いつかは、ね」
さすがに死ぬまで片想いしているとは思いたくない。時間が薬、というように私の気持ちもいつかは落ち着いてくれるだろうという期待をしている。
話している間に飲み終えたコップを洗い食堂を出た。そこにはマルコ隊長がいて、ちょうどすれ違いになることに安心した。以前であればご一緒させてくださいって隣に座ったのに。だからだろうか、私の言葉を待っているように感じたのでいつもとは違う一言をはなつ。
「おやすみなさい」
「……おう、ゆっくり休め」
どうしたんだ、と言いたげなのが伝わってくる。初めて告白した時もそうだったけど、マルコ隊長は意外とわかりやすいんだな。でも気が付かないふりをしてその場を後にした。
それからというものの彼の姿を見つける度に、顔を背けたり隠れたりとにかく距離をとるのに必死だったように思う。最後に言葉を交わしてからどのくらいだろうか。思い返すと二週間は経っている。もうひと月は過ぎたと思っていたがそうでもないようだ。もっとずっと長いことのように感じる。そのくらい今までが異常だったのだ。今の状態を考えるとゼロか百かの極端な状態なのはわかっている。だからよけいにそう感じるのだろう。
距離をおけば気持ちも落ち着くだろうと思っていたのに、実際は苦しいばかりだ。会って苦しいのと会わなくて苦しいなら、いっそ今までのように会って話してしまいたい。でもそれじゃなにもかわらない。
なんとも言えないモヤモヤを抱えて、食堂へむかう。寝つきが悪い時にカルーアミルクを飲むのが習慣になっている。今夜はサッチが当番だと小耳に挟んだから、すぐに作ってくれるだろう。そう期待して扉を開くと居たのはマルコ隊長だけだった。
「寝れないのか」
「いえ、お水をいただこうかと思って」
しまった、サッチに用事があったと言えばすぐに引き返せたじゃないか。水なんて一人でも飲めてしまう物を言うんじゃなかった。でも素直に話したらそれこそサッチが戻ってくるまで待つ流れになりそうだし、そうなったら飲み終わるまでの時間を考え咄嗟に水だと言ってしまったのだ。言ってしまってから悔やんでも遅い。サッと飲んですぐに去ろう。不自然じゃないようにシンクへ少し早歩きで急ぐ。一口だけの水を注ぎ一気に飲み干した。これでもうこの場を去れる、ホッと息が漏れる。
「最近、忙しいのか」
「え!あー、そうですね、はい」
話しかけられると思っていなくて声が上擦る。いつも声かけるのは自分からだったから驚いた。忙しいどころか暇なのに嘘をついてしまった。
「パタリと姿を見せねえから」
「今までごめんなさい、これからは最低限にしますので」
そうか、好き好き言うだけとは言え私もクルーで彼は一番隊隊長なのだ。今まで鬱陶しいくらいひっつきまわってた人が急に来なくなったら、そりゃ心配もするだろう。そう思い慌てて謝る。そしてこれからも安心してくれという意味を込めて一言足した。
「急にどうした」
「えっと、反省しました」
「なにを」
「その〜、ご迷惑おかけしていたことを……」
薄々感じていたが彼は機嫌が悪そうだ。だから一人でお酒を飲んでいるのだろうか。そこに運悪く私が来てしまったということか。今まで機嫌を損ねている姿を見たことがなく、どう対処するのが良いのか反応に迷う。
「別に迷惑だと思ったことなんてないよい」
カラリと氷の音が鳴る。
あんなに困惑させて適当にあしらわせていたのに、迷惑ではなかったと言うのか。いや、これはきっと私をフォローしてくれているだけだ。気にするなと、そんなに距離を置くことをしていないと言ってくれているのだ。でもそうではない。もちろん迷惑をかけた、という気持ちに謝罪に偽りはない。だけど本音は、ただ相手にされない片想いに疲れただけなのだ。
「勝手に始めたことを勝手に終わらせただけです」
実際、これに尽きる。でもここまで言えばきっとわかってくれるだろう。そう思ったのに、今目の前にいる彼の表情はとても怒っているように見えた。そしていつのまにか壁に追いやられている状況に嫌な汗が流れる。
「本当に勝手だねい」
「今まですみませんでした」
はあ、と大きなため息をつかれ反射的に体がビクッと揺れた。
「散々好きだと言って」
「はい」
「ちょこまかとつきまとって」
「はい」
これは説教をされているのだろうか。醜態を晒されているのだろうか。先程の言葉が嘘でなければ、なぜこんなにも怒っているのか検討もつかない。はい、と頷くしかできない。
「年甲斐にもなくその気になって」
「はい……はい?」
「嬉しいと思ってたのが馬鹿みたいだよい」
何を、言っているのだろうか。もしかして会えなさすぎて都合のいい夢でも見ているのか。
「マルコ、隊長?」
「もう、好きだと言ってくれないのかい?」
驚きのあまり瞬きができない。本当に、どうしたと言うのだろうか。目の前の彼は深く眉間に皺を寄せて、瞳の奥に寂しいという感情が見える。
「俺は、好きだよい」
「え……」
「お前のことをどうしようもなく目で追って夢でも求めるくらいに」
このまま泣いてしまうのではないんだろうか、そのくらい強い哀しさが伝わってきて、必死で精一杯の力を込めて抱きしめた。いや、体格的に抱きついたが正しいだろう。厚い胸板に腕が背中をまわりきらない。それでもぎゅうっと潰してしまうのではと思うくらいに力をいれた。そしてそっと手を離し、しっかりと目を見る。
「好きです、今も今までも、私はマルコ隊長が好きです」
「本当に?」
「一度も嘘をついたことないです」
彼の目が揺れるのと同時に、今度はキツくキツく抱きしめられた。良かったと寂しかったと泣いている子供のようで、もう一度好きだと言葉にした。またそっと背中に腕をまわし優しく抱きしめかえすと、深呼吸しているのがわかった。そんなにも追い詰めていたなんて気が付かなかった。肝心なところで感情を隠すのが上手すぎる。そんな素振り一度も見せてくれなかったではないか。大丈夫、大丈夫。そう伝えるように優しく何度も背中を撫でた。