俺には昔『お姉さま』と呼び慕う先輩がいた。
昔といっても十年や二十年前の話ではない。
それは百年も二百年も前の話、いわゆる前世というやつだ。

上流階級の娘ばかりが集まる閉鎖的な女学校。
「かわいい娘だね、まるで無垢な天使のようだ」
入学前に寮部屋で顔を合わせたとき、『お姉さま』はそう言って俺の髪をするりと撫でた。
他人に触れられることになれておらずぽかんとしていると、今度は額にキス。
そのときの『お姉さま』の黄金に輝く笑顔ったら。
当時箱入り娘だった俺は、これでころりと恋に落ちてしまったのだ。
どこか浮世離れしたお姿、凛とした佇まい、秀才と呼ばれながらも怠らぬ努力、質実剛健ながら知的なユーモアを好む。
当然、『お姉さま』は学園で誰からも慕われる人気者だった。
生真面目で有名な教師にも、頑固で意地の悪い上級生にも、果ては俺のような世間知らずで内気な下級生にも。
『お姉さま』は誰に対してもその優しさで以て接し、皆の心を溶かしていった。
そんな『お姉さま』と、同室というだけで恋人になれた俺。
毎日朝と晩に施されるスキンシップの数々に俺は耐えきれず、ある日うっかり好きだと伝えてしまったのだ。
はらはらと涙を流しながら好きだ好きだと溢す俺に、
「泣かないで、わたしもあなたのことが好きよ。そう、だからもうわたしたちは先輩と後輩じゃない。愛し合う恋人同士」
と言いそっと抱き締めてくれた。