今思い返すと、そいつは新入生の中でも一際浮いていた。

目はギョロリと睨み。
唇は不機嫌そうに尖り。
背は威嚇するごとく反り。
足は忍びのようにサッと動く。

この不自然な挙動にリスのような可愛らしい体格が大変アンバランスで、余計に近寄りがたかった。
確か入学初日からみんな不気味がっていたように思う。俺は祝いで配られた饅頭を食うのに夢中でそれどころじゃなかったけど。
それでも華の高校生活1日目、誰しも希望に胸がぼよんぼよんである。笑顔の爽やかなバスケ部くん(推測)が、「クラス親睦会やるから鬼束くんもおいでよ」と奴に声をかけたのだ。
こんな不良紛いでも話せば良い奴かもしれない……という期待からだろう。
俺は話しかけた奴の良心を讃えると同時に、こいつの第一声は一体何だろうかとわくわくした。
しかし。
あろうことかその鬼束くんは傍にあった机をガンと蹴り、さらにガンを飛ばしてから無言で教室を出ていってしまった。