第20話 新八side

叩くような雨もいつのまにか、優しげな音色に変わっていた。外に出れば傘を広げてる人と差さない人とまばらだ。



「なまえ、大丈夫アルか」
「大丈夫だよ。今日はさくら屋休みだから、ココが終わったら真っ直ぐに帰るから」



不安げな神楽ちゃんに、なまえさんは笑顔で答える。
月詠さんからあんな事件を聞いた後だ。一人暮らしのなまえさんを1人で夜道に歩かせたくない。
それは神楽ちゃんや僕、もちろん銀さんも同じ気持ちだった。



「なんで、今日に限って猫探しの依頼入ってんだよ」



銀さんが恨めしそうに頭をかく。本来ならその依頼は先日終わっているはずだったのに、と僕はため息をついた。



「銀さんがこの前逃さなければ、今日はなまえさんを家まで送っていけたんですよ」
「お前ら2人で行けばいいネ。私が店終わるまでなまえ待ってるアル」
「依頼者が言ってたろ。神楽おまえいなきゃ困るんだよ」
「それに今日こそ見つけなきゃ、あの依頼主にまた怒られるよ」



3人いるんだから、誰かがなまえさんの護衛をしても良いと思うが、今回ばかりはそうもいかない。
一日中走り回って3人がかりでやっと見つけた猫だ。2人だけで見つけるのは至難の技だろう。


しかも、その猫は女性しか触ることを許さないワガママ猫。女の子である神楽ちゃんがいなきゃ困るのだ。正直これ以上腕の傷を増やしたくない。



「猫、見つかるといいですね」



自分の心配よりも、猫の心配をするなまえさんを彼女らしいと思う。


初めて会った時も、どこの誰とも知らない僕たちの力になってくれた。下手すれば反逆者として追われる身になるのに。
変装する為に着物や髪を結ってくれたなまえさんを、幼い時に自分の世話をしてくれた姉上のようだと思ったことを覚えている。



名残惜しくなまえさんを見つめるのは神楽ちゃんでも僕でもない。銀さんだった。
何度もなまえさんが1人にならないような提案をかける。
しかし、心配しすぎだと彼女にやんわり断られ続けていた。


そこまでするのは、銀さんの世話焼きの性格からなのか、なまえさんを特別に思ってのことなのかは本人しか分からない。が、おそらく後者だろう。



「また、来て下さいね」



ニコニコと手を振る彼女に、友達を置いてきぼりにするような、複雑な感情になりながらも、また来ますと別れる。
彼女の身に何もないことを祈りながら。





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「銀ちゃん珍しくずっと難しい顔してるアル」


神楽ちゃんはコソコソと数メートルは離れた銀さんを指さす。それはなまえさんが心配だという感情だけでなく、別の何かを考えてるように思える。事件のことだろうか。

しかし、集中しすぎて、人にぶつかるわ電柱に体当たりするわで、周りが見えてない。この人は……



「銀さん、血だらけです」
「え、うおォォォ?! 世界が真っ赤に! 」
「銀ちゃん、新八! そんなことしてる場合じゃないネ! 」



一応上司が血だらけなのに、”そんなこと”で片付けられてしまう銀さんを、半ば不憫に思いながら、ハンカチを押し付ける。
神楽ちゃんの指さす方向には、探し求めていたあの猫が。



「あー! 」



声をあげたのは僕だったが、いち早く反応したのは銀さん。
それほど高くもない家の屋根に、塀を使いながら飛び乗る。
神楽ちゃんも夜兎特有の身体能力で銀さんを追いかける。
人間技じゃない。あ、元からあの人たち人間離れしてたわ。



「待って下さいぃぃ」



2人を目で追いながら、地上を走る僕に銀さんが叫んだ。



「新八ィ! 裏の通りだ! 」
「は、はいっ」



返事をしたが息が切れてうまく声が出ない。本人には届いてないだろうが、指示通り裏道に向かって急ぐ。角を曲がったその時だ。



「うわっ! 」
「ニャァ! 」



目の前にはプラプラ体を揺らして、神楽ちゃんに抱えられる猫の姿。急に飛び込んできた僕に猫は、不満げに喉を鳴らす。


遅いアルと神楽ちゃんに怒られたがとにかく見つかって安堵した。
銀さんといえば先ほどまでなかった傷が顔にあり、痛ェと小さく呟いていた。
意味ありげに神楽ちゃんと目が合う。



「銀さん行ってください。猫は僕たちが依頼主に返してきますから」
「ちょうど、もうすぐ仕事終わる時間アル」
「お前ら……」



僕の言葉に銀さんは目を丸くした。答えを聞く前に僕は神楽ちゃんとさっさと歩き出し、それと同時に銀さんの足音が遠ざかった。



「なんとか間に合ったアルな」
「うん。神楽ちゃん、今日はうちでご飯食べていきなよ。姉上も喜ぶ」
「卵かけご飯食べたいネ」



2人が上手くいけばいいけど、そんなこと誰にも分からない。
たとえ2人の気持ちが交わらなくても、なまえさんは僕らの大切な人だ。それは変わらない。


銀さんが去っていった方を振り向き、胸の中で小さく応援した。

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