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#本文# ※夏油くん出ません






 五条くんのお土産なんだろう。こうなると何を買ってきてくれるのかなと期待が膨らむ。



「なんだか嬉しそうですね」



 そう、正面に座る日本人離れした、彫刻のように端正な顔の後輩に問いかけられた。



 昼食をとるために食堂へ来ると、七海くんの姿があった。いつも一緒の灰原くんは不在。きっと任務か休みなのだろう。
 硝子ちゃんは午前中から治療に駆り出され、戻ってくる気配はない。
 夏油くんは、午前中は任務で午後からはお休みだと夜蛾先生が言っていたので、私たちはお互いに一人らしい。


 せっかくなら一緒に食べたい気持ちと、七海くんは一人で食事したいかな? とどっちつかずな気持ちで数秒立ち止まる。
 すると視線に気づいてくれた彼は「前、どうぞ」とフッと笑った。誘われて嬉しくなった私は、意気揚々と後輩の前の席に座り込む。



「七海くん、エスパーみたい」
「そこで、モジモジしてたら誰でも察しますよ。五条さんなんて、何も言わずに目の前座りますからね」


 
 やめてほしいですよ、と苦言を呈している。傍若無人の先輩に、七海くんはなにかと苦労してるようだった。
 



「それより、なにか良いことでも? 」
「か、顔に出てた? 」
「ええ」




 普段、口数が少ない彼に指摘されるほど、感情が表に出ていたと思うと恥ずかしい。
 冷静沈着、常に落ち着いていて、任務も淡々とこなす我が後輩。私の方がテンパって何度彼に助けられたことか。
 たまに、年齢を誤魔化しているのでは? と思ったりする。


 五条くんが任務先でお土産買ってきてくれるんだってと話せば、「どうせ、甘いものでしょう」と、さほど興味もない様子で、麦茶を一気に飲み干した。




「てっきり、先輩が夏油さんとお祭りでも行くのかと」
「え」




 聞き捨てならない七海くんの発言。水滴のついたコップに伸ばした手が、半端なところで止まる。中身は七海くんと同じ麦茶。
 どうして、私が嬉しそうだと夏油くんが関係してると七海くんは思うのか。
 まさか、後輩にも私の気持ちバレてる…?


 なんて返答するか言葉を選んでいると、目の前のフォークとナイフが似合いそうな後輩は、お箸をお手本みたいに綺麗に持ち、焼き魚をほぐし始めた。



「七海くん、あの…お祭りって? 」


 
 この際、夏油くんという単語をすっ飛ばして、お祭りにフォーカスを当てる。七海くんは一瞬、ん? という顔をしたが、すぐに元のちょっと無愛想な彼に戻った。
 乾いた喉を潤すために、麦茶に口をつければ、氷が入っているためか、冷たくて美味しい。



「廊下の掲示板に貼ってありました。この近くで、明日から二日間に渡って行われるお祭りですよ」



 知らないんですか? と指摘され、知らない…素直に回答すれば、七海くんは意外そうに、そうですかと呟いた。
 なんとなくお互いに次の言葉が続かず、カチャカチャと食器の音だけが響く。


 
 七海くんは私が夏油くんを好きと知ってるのかな。というか、夏油くんが、補助監督さんが好きなことも把握してたりして。
 聞いてみたいけど、もし彼が何も知らなかったら、私は墓穴を掘ることになる。
 ちらりと前を盗み見るけど、表情を欠いた彼からは何も読み取れない。
 まごついている私の視線に気づいた七海くんは、少しばかり顔をあげ、その薄い唇を開いた。




「…別に他意はありませんよ。先輩たち仲良いですから、そういう夏の行事には、誰かしらと行くのかと」
「な、るほどね! 」




 私ばかりが夏油くんという単語に意識してたようで、恥ずかしい。
 慌ててお味噌に口をつけ、冷静さを取り戻す。



「どうせなら、みんなで行きたいね。お祭り」



 きっと賑やかで楽しいよ、と七海くんに笑いかける。
 もちろん夏油くんと二人で行けるなら、ぜひとも…! って感じだけど、私はみんなと出かけるのも好きなのだ。
 私の言葉に七海くんは一瞬キョトンとするが、すぐに小さく微笑み、「先輩らしいですね」と呟いた。


 六人でお祭りに行く姿を想像すれば、自然と顔が綻ぶ。五条くんと共に、はしゃぐ灰原くん。それを見守る夏油くんと七海くん。
 いや、もしかしたら夏油くんも五条くんにつられて、はしゃぐかもしれない。それはそれで高校生らしい彼を見てみたい。
 硝子ちゃんは私の隣にいて、”バカだねアイツら” なんて笑っているのが容易に想像つく。




「先輩に誘われたら行きますよ」
 



 五条さんなら断ります。とキッパリ言い切った七海くんに笑ってしまう。でも、きっと五条くんが誘ってもなんやかんや、来てくれるんだろうなとこっそり思った。









「#name#〜! 」



 放課後、一人で廊下を歩いていれば、響き渡るくらいの音量で自分の名前を呼ばれる。驚いて振り返ると、巫女姿の歌姫先輩がブンブンと大袈裟に手を振り、猛スピードで走って来た。だんだんと近づく距離。しかし、先輩のスピードはゆるまない。




「うたひ、うがっ! 」




 名前を呼ぶ前に、私の元へ到着した歌姫先輩に勢いよく抱きしめられる。危うく、舌を噛みそうになった。



「お、お久しぶりです」
「おひさ! 元気だった? 」



 ニコニコの笑顔で肩を揺さぶられる。私より歳上のはずなのに、子どものように笑うから、可愛いなと思ってしまう。
 しかし、その揺さぶりが急に不自然にピタリと止まった。私を、まじまじと見つめ、上から下までなぞるように視線を動かす。
 どうしたのかと思い、先輩を見つめ返せば、その頭の上にはハテナマークが浮かんでいた。




「あんた今から任務? 」
「そうですよ? 」



 ほら、と証拠を見せるように携えた呪具を見せる。それなのに、歌姫先輩はなぜか首をかしげたままだ。




「その後、どっか出かけるの? 」




 出かける用事? ないです、と首を横に振る。
 先輩の尋問のような態度に、戸惑いながら答えれば、今度は眉をひそめて、難しそうな顔をする。
 コロコロ変わる表情は見ていて飽きない。けど、何でそんなこと聞くんだろう?





「じゃあ、あれは硝子と……な訳ないわ。絶対ないわね」




 ごにょごにょと何かを言い始めた歌姫先輩に私も、どうしたんですか? と問いかける。
 すると数秒の瞬きのあと、先輩はあっけらかんに答えた。




「さっき夏油とすれ違ったのよ。アイツ私服だったから、#name#たちと出かけるのかと思って。生意気にもオシャレだったわ」
「夏油くんですか? 」
「そうよ。でも、#name#は約束してないんでしょ? 硝子が夏油と二人でわざわざ出かけるなんて考えられないし」



 え、じゃあ五条?と歌姫先輩は露骨に顔を歪める。彼のことは思い出したくもないようだ。分かりやすい。



「五条くんは一日中、任務でいないですよ」



 私、今朝会いましたと伝えれば、「アイツいないの?! 今日は平和ね」なんて語尾に音符がつきそうなくらい嬉しそう。
 硝子ちゃんは一日中、治療に駆り出さていたので、さすがに参っているらしく、先ほど教室で「今日は早めに寮に行く。任務頑張れ」と応援のメッセージを受け取ったところだ。



 でも、私には分かっていた。誰と出かけるのかを。きっとあの補助監督さんだ。もう休日に一緒に出かけるくらい仲が良いんだ。
 きゅっと制服のスカートを握る。私は先輩に動揺がバレないように、意識して口角を上げた。



「気にならないけど、気になるわね」
「あはは…誰、ですかね」




 歌姫先輩は夏油くんと補助監督さんの関係を知らない。ついでに、私が夏油くんに想いを寄せてることも。
 なんせ、歌姫先輩は私たち四人が出かけたとか報告すると、苦虫を噛み潰したような顔をする。その度に、「あんたたちは、そのままでいて」と口酸っぱく言われるのだ。



 歌姫先輩は五条くんと会う度に、喧嘩してるし、(というか、悪ガキの五条くんに対して、一方的に歌姫先輩が怒っている)夏油くんは、からかうつもりはないらしいけど、先輩に対する発言が結局、彼女の導火線に火をつけてしまう。
 だから、私の夏油くんに対する想いを話したら、きっと発狂するに違いない。




「まさか、アイツに彼女?」
「さ、さぁ? 」



 心底不満そうに言う先輩に、あはは…と軽く受け流す。先輩は「#name#、私になにか隠してるんじゃないの」と言いたげに、じとーっと疑いの眼差し。全然怖くないけども。
 しかし、まずい。これ以上話を広げると作り笑いが歌姫先輩にバレる。
 



「先輩は任務終わりですか? 」




 私の話題逸らしに、歌姫先輩は急に泣き顔を浮かべた。思ってもみない反応に少し驚く。
 ガシッと両方の腕を掴まれ、聞いてよ! と体を揺さぶられた。




「今からなのよぉ! 夜にしかでない呪霊っていうから! 任務なかったら硝子と#name#連れてご飯でも行こうと思ってたのに! 」




 歌姫先輩が子犬のように吠える。そういえば、先輩ともしばらく遊んでない。




「また今度遊びましょう。せっかくだから冥さんも誘って」



 ね? とまるで子どもに言い聞かせるみたいに歌姫先輩を覗き込めば、うん…と口を尖らせて素直に頷いた。歳上なのに、可愛い人だなぁ。




「じゃあ、またね。#name#」
「はい、任務気をつけてくださいね」




 歌姫先輩の力なら、心配はいらないだろうが、つい声をかけてしまう。
 そもそも、等級の低い後輩から気をつけて、なんて言われること自体、気に障る人もいるだろう。
 しかし、任務中は何が起こるか分からない。報告と違う等級の呪霊が現れることもある。
 それを歌姫先輩も分かっているのか、私の言葉を蔑ろにせず、




「ありがとう、行ってくる。あんたも気をつけるのよ」




 と優しく抱きしめてくれた。そして、鮮やかな赤い袴を翻し颯爽と去って行った。
 歌姫先輩が見えなくなるまで手を振る。姿がないのを確認してから、私は深く息を吐いた。


「ふぅ……」


 ちゃんと私、歌姫先輩の前で、笑えてたかな?
夏油くんどこにいくんだろう。今頃、補助監督さんと一緒なのかな。
 もしかしたら、七海くんの言ってたお祭りも彼女と行くのかもしれない。



「……いいなぁ」



 無意識に呟いた言葉にハッとして、首を大袈裟に横に振る。もう、夏油くんのことを考えるのはやめよう。辛くなるだけなのだから。
 


 廊下の窓から外に目を向ければ、太陽は沈みかけている。
 空は青色から徐々に橙色のなっている。外はすっかり夜になる準備をしていた。


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2025/08/04

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