その彼、ときどき犬につき

マッチアップゾーン。ボールを保持しているボールマンにマンツーでディフェンスをし、それ以外の選手たちはボールマンとマッチアップ相手の直線上にポジションを取るという、半端じゃないほどの体力を使うディフェンス。

理論的には難しいことを言っているわけじゃない。
ただ物理的に、これを四十分間実践し続けることは体力的に無理がある。まして、すべてにおいて未完成な高校生ではなおさらだ。
けれど、片桐先生は「挑みたい」と言った。

「今年のチームはそれを実践できる能力を持ち得ていると確信しているからだ」

と。
正直言って感動したね、私は。最高です片桐先生。一生ついていきます。嘘です、一生は無理。

やはり、練習が辛すぎて部を辞める人も何人かいた。
だけどそういう人は仕方がないし、責めたりも、必要以上に引きとめたりもしない。
でも残った人たちの実力は、目に見えて上がっていってると思う。
私は見ていて、なんだか嬉しくなった。

穴水くんは、想像していたよりも真面目な人間だった。ただ、かなり天然が入っているだけで。
公開告白された頃のイメージが少しだけ塗り替えられた。真剣な顔をしているとなまじパーツが整っているだけあって、格好いいと思うときも、ときどき、あった。
そういうときは目ざとく私に気づき、「紬センパイ!見てた!?オレカッコよかった!?」などと大声で叫んでくるものだから、性質たちが悪い。
黙ってればそれなりに格好よく見えるのに。でも、ああやって満面の笑みで手をぶんぶんと振ってくる彼も、ちょっとかわいいかな、なんて。

「なんだ、惚れたか?」
「冗談やめて、正宗」
「案外似合いだとは思うけどな。お前みたいなやつにはああいうのがちょうどいい」
「どういう意味よそれ」
「お前みたいな変なところで生真面目なやつには、穴水みたいな無邪気なやつが一緒にいるといいと思うという意味だ」
「……クソ真面目を地でいく正宗がそれを言うかな」
「お前も大概だがな」
「うるさいな」
「セーーンパーーーイ!!見てた!?見た!?見ててよ!!」
「うるさいなっ!黙って練習してなさい!!」
「………犬とその飼い主だな、今のところ」