誕生日プレゼントとして選んだそれに下心なんて全くなかった。ただ漠然と、二宮さんに似合うだろうなって。そう思って買っただけ。

二宮さんは自分の持ち物にこだわりがある人だ。渡したときはお礼を言ってくれたけど、きっと使わないだろうなと思っていた。



これ以上は裂しちゃう



「二宮さんが最近メガネかけてるんだけどさあ、ただでさえ普段からインテリっぽい雰囲気なのにさらに頭良さそうに見えるんだよね」

犬飼はそう言って溜め息を吐いた。私はと言えば犬飼の溜め息なんかより二宮さんのメガネの方が気になってしまって、適当にへーと相槌を打った。二宮さんって目悪かったっけ?普段コンタクトなのかな。

「二宮さんガリ勉に見えるねって辻ちゃんに言ったんだけど、辻ちゃんったら先輩もメガネかけたらどうですか?少しはマシになりますよ。って言ってきて」
「うん、少しは真面目そうに見えるんじゃない?」
「咲菜ちゃんまでひどい!オレすっごく真面目じゃん!」

犬飼が信じられないと言わんばかりの声色でそう言った。たぶんカゲやゾエにきいても軽薄そうとか頭悪そうとかそんな言葉しか返ってこないと思うけどな。

「二宮さんメガネ似合うだろうなあ」
「めっちゃ似合ってるよ。何か人から貰ったって言ってたけど」
「人から貰ったメガネかけてるの?度とか大丈夫なのかな」
「度は入ってないって。何て言うんだっけ、ほら。ブルーライトカットってやつ?」

飲みかけの缶ジュースが手から滑り落ちて、中身を床一面にぶちまけてしまった。





二宮さんの誕生日プレゼントに、ブルーライトカットのパソコン用メガネを買った。防衛任務の報告書とか大学のレポートとか、二宮さんがパソコンを使う姿をよく見掛けていたから。あとはただ単純に、メガネが似合うだろうなと思っただけ。だけど購入したあとで、ハンカチだろうが文房具だろうが、二宮さんは自分の持ち物にこだわりを持っている人だったと思い出した。私がプレゼントしたパソコン用メガネなんて、二宮さんは使わないだろうと思った。

「……こん、にちは」

犬飼が言っていた通りメガネをかけていた二宮さんは、作戦室に入ってきたのが私だと分かるとパソコンから顔を上げて私に視線を向けた。似合うだろうなと思ったから買ったんだけど、やっぱりダメだ。めちゃめちゃかっこいい。

「あっ…え、えっと……犬飼から今日は任務が無いって聞いたので、二宮さんと一緒に帰ろうかなと……」

そんなのはただの口実だった。本当に二宮さんが私がプレゼントしたメガネをかけているのか確かめたかっただけ。
だけど私の気持ちなんて知らない二宮さんは、「もう少しで終わるから待っていろ」と言って自分の向かい側に座るように促した。メガネをかけた二宮さんを真正面から直視するなんて無理でしょ。見たいけど。うう、やっぱりかっこいい。

「……何だ咲菜、さっきから人の顔をチラチラ見やがって」
「えっ!!?」

二宮さんの呆れたような声に思わず変な声が出た。慌てて口元を抑えつつちらりと二宮さんに視線を向けると、二宮さんがじっとこちらを見つめている。普段から二宮さんにまじまじと見つめられると照れてしまうのに、今日の二宮さんはメガネ付きだ。顔が一気に熱くなったのが触らなくても分かった。

「ええっと……あの、それ」

使ってくれてるんだなあと思って。
絞り出すようにそう言うと、二宮さんは一瞬何を言われたのか分からないと言いたげな顔をして、それからああ、と声を漏らす。

「重宝してる」
「っ、」

二宮さんがあまりにも柔らかい表情でそんなことを言うものだから、私は思わず腰を抜かしてしまいそうになった。

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