初めての防衛任務でお世話になって以降、何だかんだ言いつつも二宮さんは私に目を掛けてくれるようになった。
当時中学生だった私には高校生の二宮さんは素敵な大人に見えた。ポジションすら違うくせに二宮さんの後ろを付いて回る私を見て、東さんや太刀川さんたちがよく「二宮、おまえ弟子取ったのか?」なんて笑っていた。
そういうとき二宮さんは決まって髪の毛がぐしゃぐしゃになるまで私の頭を撫でた。そのときだけは二宮さんの仏頂面が少しだけ緩むことを私は知っていた。
私は二宮さんに頭を撫でられるのが大好きだった。
ノスタルジック失恋
バキッ!という大きな音がして、太刀川さんの弧月を何度も受けたシールドが割れた。その拍子にバランスを崩して後ろに倒れ込んだ私を太刀川さんがにんまり笑って見下ろしている。まったく趣味が悪い人だ。さっさと止めを刺せばいいのに、太刀川さんは私の首筋に弧月を突き付けただけでそこから先は何もしようとしない。
思えば太刀川さんなら私の居場所に気付いたときにすぐさま真っ二つにできたはずだ。それなのに太刀川さんは執拗なまでにシールドを割ることにこだわって旋空弧月は一度も使わなかった。
まるで時間稼ぎをしているみたいに。
「…何ですか」
「いや?待ってるだけ」
「なにを、」
続くはずだった私の言葉は爆発音に遮られた。その辺一帯の建物がガラガラと音を立てて崩れていく。私の上から退いた太刀川さんは「やっぱ来たか」なんて楽しそうに言った。
「俺が山室を殺りに行ったら絶対あいつが来ると思ったんだよな」
私が殺られそうになったら絶対来る人…?もしかしてカゲを誘き出そうとしてたのかな。だけどカゲは太刀川さんに狙われた私を見捨てるような発言をしたばかりだ。ユズルもゾエも自分のことで手一杯だったみたいだし、一体誰を…。
「よう二宮、随分ご立腹じゃん」
爆発で舞い上がった土煙が晴れていく。そこに立っていたのは怒り心頭といった様子の二宮さんで、私は思わず情けない悲鳴を上げながら後退ってしまった。
「加古も言ってたけどおまえって意外と単純だよなあ。ここ最近の影浦隊とのムービー見れば誰でも気付くわ」
「何を言っているんだかさっぱりだな」
二宮さんの背後に、あの独特な形で割れたトリオンキューブが浮かんでいた。それを見て太刀川さんが弧月を構え直す。
先に仕掛けたのは太刀川さんだった。
「おまえ山室に執着しすぎ」
そう言った瞬間、太刀川さん目掛けて無数のアステロイドが飛んでいった。だけど太刀川さんにとっては予想通りだったようで、グラスホッパーを使って二宮さんの攻撃を難なく避ける。すぐ近くの瓦礫の上に着地すると、すっかり蚊帳の外だった私に向かって弧月を振り上げた。
太刀川さんの弧月から斬撃が飛んでくる。だけどそれは私に届く前に、目の前に現れた自分のよりずっと頑丈なシールドに遮られた。
「ほら」
太刀川さんがそう言ったのと、じゃり、と地面を踏みしめる音が聞こえたのはほぼ同時だった。恐る恐るそちらを見るとしかめっ面の二宮さんがこちらに近付いて来ていた。個人総合1位と2位に挟まれた私には最早ベイルアウトしか道は残されていないらしい。
「知ってるか山室。こいつはお前が他の男に落とされるのが我慢ならないんだとよ」
「根拠のないことを言うな。俺はただ、」
二宮さんが再び大量のトリオンキューブを出す。二宮さんの射殺すような視線は太刀川さんではなく私に向けられていて、太刀川さんの旋空弧月から私を守ったのは自分たちの点にするためだったのだと嫌でも思い知らされた。
「こいつを見ているとイライラするだけだ」
目の前がぐにゃりと歪む。ああ、ほら。聞きたくなんかなかったのに。
ベイルアウト用のベッドで仰向けに寝転んだまま、私は零れ落ちる雫を隠すように目元を腕で隠した。
title/すてき