永遠をあげる


好事千里を走る


「どうだった?」

顔を合わせるや否や、待ちきれないと言わんばかりの顔で米屋がそう尋ねてきた。何のことだと知らないフリをしてもよかったが、コイツは俺が#name1#に告白したことを知っている。それに何より、今回のことは誰かに相談したくて仕方がなかった。

「何だよその顔。もちろんOKだったんだろ?」
「あー、まあ、何というか…彼女は出来たん、だけど」
「おー」
「……ラブレターを渡す相手を間違えた、みたいで」
「……は?」

何やってんのおまえ。そう言わんばかりの視線を向けられた。言い訳の余地もない。だよなあ、そういう反応になるよなあ。無意識に深い溜め息が溢れる。

「いや溜め息吐きたいのこっちな。おまえ何しちゃってんの?靴箱に入れたんじゃなかったのかよ」
「入れたよ。ちゃんと京介に#name1#の靴箱聞いたし」
「じゃあアレか?宛先書いてなかったとか?」
「書いた。ちゃんと#name1#へって書いたし、#name1#の靴箱に入れた」
「そこまでやってどうしてそうなったんだよ!?」

米屋のツッコミを聞きながらテーブルに思い切り突っ伏した。そんなの俺が一番聞きたい。俺の、一世一代の告白が、まさかこんな。

「あのクラス、#name1#って女子が二人いたらしくてさあ…」
「はあ!?」
「京介はたぶん、最初に浮かんだ方の#name1#の靴箱を教えたっぽい…。なんか仲良さそうだったし…」

はああああ。本日何度目になるか分からない溜め息を吐いて頭を抱えた。
おまえまさか。震える声が降ってきて、俺はそろりと顔を上げる。

「さっき彼女は出来たって言ってたよな。まさか訂正しなかったとか?」
「言えるわけねえだろ…。全面的に俺が悪いのに、あんな、嬉しそうなあの子に言えってか?おまえ人でなしかよ!」
「おまえの方がよっぽど人でなしだわ!本命だった#name1#ちゃんにも今回巻き込まれた#name1#ちゃんにも、どっちに対しても不誠実だろ!?」

正論過ぎて最早返す言葉が思い浮かばない。
全くもって米屋の言う通りだ。だけど俺の気持ちも、理解しろとは言わないが少しは汲んで欲しい。
何も知らないあの子は自分宛じゃないラブレターを握って嬉しそうにしていた。言葉を濁した俺に不安そうな表情を浮かべていた。
あのとき俺は、本当のことを言うべきだった。そのラブレターはアンタじゃなくてもう一人の#name1#に渡したかったのだと、きちんと説明をしなければならなかった。分かっている。それが正論だ。
だけどそれは、正論ではあっても、理想論だ。

「……あの子、すっげー嬉しそうだったからさ。本当のことを言ったら絶対傷付けると思ったし…言えな、かった」
「……いやいやいや」

だからってそれはないだろ。米屋の言葉にごもっとも…と呟いて、テーブルにゴンと頭を落とした。

「出水」

米屋と二人、揃って声がした方に顔を向ける。制服のままの俺たちと違い、隊服に身を包んだ三輪がこちらを伺うように首を傾げる。

「おまえ、#name1#に告白したらしいな」
「えっ…何でそれを」
「佐鳥が言いふらしていた」

あちゃー、と米屋が片手で目を覆って天井を仰いでいた。俺は三輪の真っ直ぐな目を見ていられず、頬を引き攣らせて視線を逸らした。

「#name1#のこと、知ってんだ?」
「ああ、同じ委員会の後輩だから」
「へえ」

返した声までもが引き攣っている。俺の只ならぬ様子に気付く事のない三輪は、淡々と言いたいことを述べる。

「出水が#name1#と面識があったなんて知らなかった。真面目でいい奴だから良くしてやってくれ」
「あー……ん、」

何とも言えない返事を口にする俺に、三輪が眉間に皺を寄せる。何か言いたそうに口を開いたが、ちょうど向こうからやって来た迅さんと太刀川さんに目を止めると、不機嫌そうに口をへの字に曲げた。

「おー出水、おまえ彼女出来たらしいじゃん?とうとうリア充の仲間入りかあ」
「まったくおまえ、隊長の俺を差し置いて彼女作るなんざいい度胸だな。写真ないのか写真」
「……佐鳥ですか」

げんなりしながらそう呟くと、二人揃ってうん、と頷かれる。
人の口に戸は立てられぬとはよく言ったものだ。とりあえず佐鳥はあとでシメよう。
ゴン、と額をテーブルに打ち付けて息を吐く俺を迅さんがどんな目で見ていたのか、俺には分からない。

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