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Imperio

リドルはよく私を呪文の練習台にする。
それは髪の毛をくるくるにしてくれるようなかわいらしいものであったり、はたまたとんでもない呪いだったり。仮にも大切な彼女で呪いの練習をするだなんて如何なものかと思うけれど惚れた弱みというものだろうか。私は今まで一度だって彼の練習台にされることを拒んだことはなかった、けれど。

「絶対イヤ」
「大丈夫だよ、痛くないから」
「そういう問題じゃないの!」

私の機嫌を取るように耳元で甘い声を出すリドルを押し退ける。私が何を嫌がっているのか分かっていないらしいリドルは不満そうな顔をしながらも、まるで子どもに言い聞かせるように腰を屈めて私の顔を覗き込んだ。

「ねえなまえ、何が不満なんだい?いつもやってることじゃないか」
「私だって普通の呪文だったらここまで拒否しないもん」
「……ああ、」

私が何を言いたいのかようやく理解したらしいリドルが腰を伸ばしてニヤリと笑う。その笑い方が何だか気に入らなくて、私はリドルから顔を背けた。

「そんなに服従の呪文をかけられるのがイヤ?」
「イヤとかそういう問題じゃないの!許されざる呪文を人間に対して使うことは違法だってこの間習ったでしょう?リドルはアズカバンに入りたいの?」
「君が黙っていてくれたらバレないし問題ないよ。優しい優しいなまえは大切な彼氏をダンブルドアに売ったりしないよね?」

私の頬をするりと撫でながらリドルは勝ち誇った顔でそう言った。全くリドルの言う通りである。私はダンブルドア先生に告げ口するだなんてリドルを裏切るような真似はできない。だけど私はリドルがやろうとしていることに賛成する気もなかった。
ここは心を鬼にしなければ。私は不機嫌な顔を保ったままリドルの手を振り払った。

「とにかく、私は絶対イヤ!許されざる呪文なんて使ったら即刻別れてやるんだから!!」

無駄に整っているリドルの顔を睨み付けながらそう訴える。リドルに対して別れるだなんて脅迫が通じるとは思っていなかったけれど、彼はそんな私を嘲笑することなく肩を竦めただけだった。

「そこまで言うなら仕方ない」

ソファーに深々と腰掛けたリドルが本当に仕方ないと言わんばかりの顔で息を吐く。いつもならどんな手を使ってでも丸め込もうとするのに珍しい。本当に諦めてくれたのかな。何だかんだ言っても彼女から別れるって言われるのはやっぱりイヤだったのかな。

なんて思ったのは一瞬のことだった。

「じゃあなまえがやってよ」
「は…?」

にっこり。さっきとは一転、有無を言わせない笑顔を浮かべたリドルが私に向かって両手を広げた。

「僕が許されざる呪文を使うのがイヤなんだろう?だったらなまえがかければいい」
「いや…え?意味分かんないんだけど」

リドルは私にアズカバンに入ってほしいのか。そこまで私のことが嫌いだったのか。
突拍子もない展開に付いていけない私の腕をリドルが掴む。片方の手で私のポケットに手を突っ込んだ彼は私の杖を取り出すとしっかりと右手に握らせた。

「なん、で」
「許されざる呪文を使う側として、かけられた側がどんな感覚に陥るのかくらい知っておく必要があると思わないか?」

思いませんけど。たぶんそんなこと思うのはリドルだけですけど。ていうかやっぱり許されざる呪文は使わないっていう選択肢はないんだねリドルさん……!!
文句を言おうと口を開いたけれど、それより先にリドルの大きくて骨ばった手が杖を握った私の右手ごと包み込んだ。その手が杖先をゆっくりと、自分の胸に突き付けさせる。

「これは君の意思じゃない。君はただ知識に貪欲な僕のために仕方なく許されざる呪文を使うんだ……。
僕に言われて、仕方なくね」

リドルに見つめられると蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなくなってしまって、何も考えられなくなってしまう。リドルはそれを分かってやっているのだからタチが悪い。
再び耳元でリドルが甘い声を紡ぐ。呪文は知っているだろう?その言葉に私はゆっくりと口を開いた。
服従の呪文なんて使わなくても、リドルは人を操ることなんてお手の物なんじゃないかな。少なくとも、私に対しては。

「……インペリオ」

震える声で、今まで知識でしかなかった呪文を唱える。人に使ってはいけない呪文を使ってしまった。いくらリドルに言われたからって何てことをしてしまったんだろう。震え出す足ではその場に立っていることすらままならず、私はリドルの足元に崩れ落ちた。

「リドル……?」

リドルは俯いたままピクリともしない。リドルはどうなったんだろう。私がかけた呪文はきちんと効いているのだろうか。

「リドル、顔を上げて?」

試しにそう言ってみると、驚いたことにリドルはゆっくりと顔を上げた。じっと私を見つめるだけで何も言わないし動かない。効いてる…のかな?これだけじゃよく分からないけど……。

「リ……リドル、ばんざーい!」

両手を天井に向かって伸ばしながらそう言えば、リドルも私と同じように両手をピンと上げた。普段のリドルだったら何言ってんだコイツって顔をするだけで絶対やってくれないだろう。
どうやら本当に、リドルは私がかけた服従の呪文にかかっているらしかった。

「ねえねえリドル、好きだよって言ってみて?」
「好きだよ、なまえ」
「おお……」

すごい。服従の呪文すごい。あのリドルに好きって言わせることができるなんて…!いつもだったら私が何回お願いしても絶対言ってくれないのに!

「えっとえっと、じゃあさ!魔法薬学のレポート見せてよ!」
「いいよ」
「うそ、マジで!?」

恐るべし、服従の呪文。人間に対して使ってはならないはずのその呪文は、俺様でドSで優しさの欠片もないリドルを従順で優しい彼氏に変えてしまった。

「はい」

ソファーの上に放り投げられていた鞄の中からリドルが丸められた羊皮紙を取り出す。私は嬉々としてそれを受け取ろうと手を伸ばして―――。

「え?」

私に差し出されたはずのレポートは、なぜかリドルの頭上という私の手が届かないところにあった。

「リドル……?」
「……ぶふっ」

レポートを持っていない方の手で口元を押さえたリドルが肩を揺らしている。口元を引き吊らせながらおずおずとリドルの顔を覗き込むと、リドルは。

「!」
「まさかなまえがここまで能天気だとは思わなかったな……」

口元が隠れていてもリドルが珍しく爆笑していることはよく分かった。まさかコイツ、服従の呪文にかかったフリをしてたんじゃ……?

「大体よく考えてもみなよ。なまえごときが許されざる呪文を簡単に使えるとでも?」
「なっ……!」
「ちょっとかかったフリをしてあげたらコロッと騙されるんだから……。ここまで僕を笑わせることができるなんてさすがなまえだな」

服従の呪文を使うよう私を丸め込んでおいて騙すなんてさすがスリザリンの監督生。性悪集団の筆頭だ、なんてグリフィンドールの男子たちが悪口を言っていたけれどまさにその通りだ。
リドルへの怒りに先ほどとは違う意味で体が震える。この苛立ちをどうしてくれようか。とりあえず私が口ではリドルに勝てないのはよく分かっている。こうなったら最終手段だ。ダンブルドア先生に告げ口してやろう。

「ダンブルドア先生に言い付けてやる……!」
「どうぞご自由に。だけどあの狸爺に何と言うつもりかな?服従の呪文をかけてみたけどリドルがかかったフリをして私を騙しました、って?」

そんなこと言ったらなまえはアズカバン行きだな、なんて言ってリドルはクツクツと笑った。何で私こんなヤツと付き合ってるのかな。今この場ですっぱり別れてしまった方がいいかもしれない。

「リドルのバカ!性悪野郎!もう知らない別れる!」
「……へえ」

私の暴言にリドルの顔から笑みが剥がれ落ちる。あ、やばいかも。そう思って後退りしたけれど時すでに遅し。私の腕はリドルにがっしりと掴まれてしまった。

「いつからなまえは僕に対してそんなに反抗的になったのかな」

逃れようとする私の腰を片手で軽々と引き寄せたリドルが自分の杖を私の胸元に突き付ける。
ちらり、一瞬だけリドルの目に赤色が走った気がした。

「り、どる……」
「呪文のかけ方もだけど、反抗的な彼女にご主人様が誰なのかしっかり教えてあげないとね」

リドルが私の耳を軽く食む。びくり、肩を揺らす私に満足したらしいリドルは息を吹きかけるように呪いの言葉を囁いた。

「インペリオ」

途端に体がふわふわとした感覚に包まれる。何だかとても幸せな気分になって、頭がふわふわして何も考えられなくなって。
リドルの手が頬を撫で上げた。リドルに触れられている部分がくすぐったくて、それでもそれがとても心地よくて擦り寄ってしまう。そんな私を見たリドルの口元がゆるりと弧を描いた。

「僕の膝の上に乗って」
「うん」

リドルに言われるがまま彼の膝の上に跨がって座る。するとリドルは「いい子だね」と私の頭を撫でてくれた。
リドルが褒めてくれたことが嬉しくて微笑むと、彼も嬉しそうに笑って頬にキスをしてくれた。

「キスして」とか「シャツを脱いで」とか、「じゃあ次、スカート」とか。普段なら羞恥でどうにかなってしまいそうなとんでもない命令に何の疑問も抱かずに従ってしまうことも、正気に戻った私がそれをネタにリドルから散々からかわれることも。頭の中を幸福に包まれたままの私には全く想像できず、私はリドルの唇にに深く口付けながらシャツのボタンに手をかけたのだった。


***
企画サイトMagical World様に提出させていただきました。



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