冷たい風が吹き、木々の葉も風に乗って、高く舞う。それを視線で追うと、たどり着いたのは空という無限の中だった。なまえの髪も、ゆらゆらと靡く。目を細めて、空に問う
「どうして…私は人間なんだろう…」
当たり前だが、答えなど返ってはこない。それでもなまえは空を眺めるのをやめなかった。信楽は人間じゃない。妖だ。何百年と生きている。それに比べて、私は人間。17年しか生きていない。女の子でも、女性でもない。少女だ。まだ中途半端にしか生きていない、私が言うのも意味があるのか解らないが、人間には寿命がある。人は生きていれば死んでしまう。人間じゃなくても、妖も死ぬだろう。でも、決定的に違う差があるのも事実だ。この差は絶対に埋まる事は出来ない。魔法という奇跡がない限り。
「よぉ、嬢ちゃん。今、帰りか?」
「信楽…」
「こんな所で、何してんだよ。おじさんにナンパでもされたいのか?」
「ちょっと考え事してたの」
「ん?なんだ?恋の悩みか?」
「そう…なの…かな…」
「おじさんという人がいながら、他の男子に恋ってか?そりゃねーぜ」
学校帰りの途中、なまえが突っ立って空を眺めている姿を目撃した。信楽はパチンコで、負けた帰りだった。パチンコで負けて、お金が無くなって、ある意味で痛い気持ちになっていた信楽。それに加えて、なまえが恋をしているという話を聞いてしまい、今日は厄日だなと言いつつ、煙草を口にする。隣にいる信楽から、距離を離すなまえ。空から目を離して、煙草を吸っている信楽に、さっきと同じ問いを言葉にした。
「ねぇ、信楽。どうして…私は人間なの…?」
「あ?そりぁ、どういう意味だい?嬢ちゃん」
「時々、思うの…。思わないようにしてても、頭の片隅で思い出してしまう。人間と妖の…命の差…。寿命の差を…」
大人でもなく、だからといって幼さもない。まだ色々と割り切れない年頃のなまえ。どこか悲しく、けど、その奥は真剣な瞳。そんななまえに、信楽は煙草を吸うのを止めて、地面に煙草を落とし、足で火を消した。最後の煙を吐き出して、頭をかき、何も言わずに歩き出した。信楽が歩けば歩くほど、距離は開いていく。なまえは質問した人を間違ったかと、信楽の背中を見て、後を追う
「嬢ちゃん、おじさんからも質問…していいか?」
「えっ…?」
「おじさんが人間になる為には…どうすればいいんだろうな?」
ぴたっと足が止まるなまえ。どうすればいいか…なんて難しい質問だ。答えなんて、ない。教えてくれと言うほうが無理だ。でも、自分の質問と信楽の質問に一体、何の共通点があるのだろか。ちょっと目を離すと、もう信楽の姿はない。なまえは走って後を追いかける。見つけたと思い、立ち止まって、信楽と名前を呼ぼうとすると、急に強い風がなまえを襲った。砂埃が目に入らないように、下を向き、顔を手で覆う。制服のスカートをもう片方の手で抑えた。すると、ふわりと誰かに包み込まれた。それは、遠くにいた筈の信楽だった。
「大丈夫かい?嬢ちゃん」
「信楽…。う、うん…」
「あー…その、なんだ…。さっきの質問の答えだが…人間の寿命の長さと妖の寿命の長さを計りにかけちゃいけねぇよ。自分がどうして人間なのかとか、妖なのか…も同じだぜ」
「…?意味が解らない」
「なんて言えばいいのか、おじさんも解んねぇけど…有りの侭を受け止めろって事だ」
「ありの…まま…?」
「そうだ。ま、おじさんは今更ながら、妖だった事に感謝してるぜ」
「どうして?」
「嬢ちゃんに…。いや、なまえに出会えたからだ。仮におじさんが人間だったら、もうとっくの昔に…さよならしてるしな」
もし自分が人間だったら、今のなまえには出会えてない。こうして話す事も触れる事も、全てが無に等しい。一緒に、この澄み切った青空を見る事も出来ない。信楽は伝えたかったのだ。今を楽しく生きて欲しいと。未来がある若者が死だの寿命だの考えてほしくない。例え、その意味が伝わらなくても、いつかは解る日がくる。だから、そんな悲しそうな顔は見せないでほしい。信楽は、なまえから身体を離して、手を繋ぎ、一緒に家まで帰ろうぜと伝えた。
「信楽」
「どうした?なまえ」
「ずっと…傍にいてね…」
「ずっと…?永遠…の間違いだろ?」
らしくない台詞を言う信楽。頬を赤く染めてる、信楽の横顔を見て、もう一度、空を見上げた。照れ笑いをしながら、空に向かって、ありがとうと思いっきり、叫ぶなまえ。改めて、信楽の事が好きなんだと確信した瞬間であった。
fin
*****
繰繰れ!アンケートでネタを提供してくれた匿名の方、ありがとうございました!
信楽でシリアス
内容
「人と妖怪の寿命の差の話」