「嬢ちゃん、今日の夜、おじさんと散歩しねぇ?」
「夜の…散歩?」
「そそっ。どうせ、予定とかねぇだろ?じゃ、決定な!」
「え?私の返事は…!?」
無視ですかと答えようとしたら、信楽はルンルンな気分で先に行ってしまった。夜の散歩。どう考えても如何わしい事なのではないかと考えてしまう。所詮、エロの頭しかない信楽の事だ。きっと何かのプレイをする気なんだとなまえは自分が置いてかれた事よりも、そっちの方を心配していた。
「夜って言っても…何時の事なんだか…」
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夜十時。
何も知らされてない為、適当な時間に家を出た。きょろきょろと辺りを見渡すも、信楽の姿はない。自分で言っておいて、約束を忘れたのか?と思っていると、待たせたなと手をあげて、笑っている信楽の姿が現れた。
「じゃ、行こうぜ」
「行くって何処に…?」
「勿論、ラブ…」
「おやすみ、信楽」
満遍の笑みで、言おうとした台詞をなまえはシャットアウトする。家に戻って寝ようと、帰ろうとすると、冗談だよとなまえの目の前にいきなり現れて、家の中に入らせないようにした。
「嬢ちゃん、おじさんが悪かったよ。許してくれ」
「で、なんでこの時間に散歩なの?」
「え?理由聞いちゃうの?」
「駄目なの?」
「理由なんてねぇよ。おじさんは只、なまえと一緒にいたいだけだ」
ふぅっと煙草の煙をなまえにかからないように、そっぽを向いて噴く。なまえの手を取り、こっちと言いながら夜の散歩が始まった。上を向けば、星空がキラキラと輝いている。少しだけ下に目をやれば、家の明かりがポツリと灯っている。普段、夜の中、出歩かない。暗いのに、自分の目に映っている家などは、なまえが知らない明かりに照らされていた。反対に、違う所に目をやれば、闇が視界を覆い、胸の奥がざわついた。
「どうした、嬢ちゃん。怖くなっちまったか?」
「う、うるさいな。変態おやじ」
強がる嬢ちゃんも可愛いなと、言葉には出さずに、ヘヘッと笑ってしまった。優しく手を繋いでたはずなのに、ちょっとだけ、手に力を入れたなまえの手に気づかない訳がない。多少、怖がっているなまえを気にしながら、目的地に辿り着いた。ここは山奥にある公園。なまえも小さい頃、よく友達と遊んでいた場所だ。そして、初めて信楽と出会った場所でもある。すると、いきなり視界が真っ暗になった。
「わっ…!え、えぇ!?なにっ!?」
「嬢ちゃん、目を逸らすなよ」
「信楽?どこ?どこにいるの…?ねぇ…!」
信楽の手になまえの目が覆われた。ドキンと心臓が鳴る。身体もこわばり、言葉も震えた。さっき信楽が言った言葉さえも忘れてしまう。すると、真っ暗だった視界に光が現れる。それは、先程までなかった大きな月。満月だった。星よりも、輝きと美しさでは、一番と言われている満月。そう、信楽はなまえにこれを見せたかったのだ。驚いて、口が半開きになってしまうなまえ。
「綺麗…」
「だろ?ま、おじさんは月より、嬢ちゃんが綺麗って思ってるけどな」
「し、信楽…。また、そうやって、からかってるんでしょ」
「信用ねぇなぁ…。おじさん、なまえの事ならいつでも本気だぜ?」
ほらよっと一輪の花を差し出された。なんの花だろうと、きょとんとした顔になるなまえ。そこには、真っ赤な薔薇の花。初めて、男性に花を貰ったなまえは嬉しさと恥ずかしさで、信楽に背を向けてしまった。きっと今の私は、この薔薇と一緒で顔が赤くなっているに違いない。それに、こういう時、どうしていいのか解らない。戸惑いながらも、小さな声で信楽に、ありがとうと呟いた。
「嬢ちゃん、お礼ってのは、人の目を見て言うもんだぜ?」
「そ…そんな事…言われても…」
「だったら、こいつは没収だな」
「あっ…信楽…!」
意地悪な笑みを浮かばせて、一輪の薔薇を取り上げる信楽。身長が高い分、手に届かない。なまえは諦めて、信楽の言う通りにした。ニヤニヤと笑って、余裕顔が多少気にくわないが、今は感謝の気持ちを表すべき。頬を赤く染めて、なまえは信楽にお礼を言う
「ありがとう。信楽…」
「…。やっぱ、素直な嬢ちゃんが一番だな。おじさん、とても嬉しすぎて、なまえに抱き付いちゃうぞ!」
なまえに薔薇を返し、直ぐに抱き付いた。大きくて暖かい手に包み込まれるなまえ。満月の下で二人は今宵、愛を誓い、ずっと一緒にいる願いを赤い薔薇に込めるのだった。少しだけ信楽の胸の中で泣いてしまった事は、信楽には内緒だ。
fin
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繰繰れ!アンケートでネタを提供してくれた匿名の方、ありがとうございました!
信楽で甘々
内容
「照れ屋なヒロインに意地悪する信楽さんの話」