「っ…んっ…!」



触れた唇の暖かさに気づいたなまえは反射的に身体を引いて、逃げようとするも、狗神の両手がなまえの背中と頭を支えているようにして逃げられない為、そのまま狗神のキスを受け入れる形になってしまう。どうしよう、人が入ってきたらと不安な気持ちになる。やめてほしと、合図で狗神の服を何度が引っ張るも反応がない。寧ろ、顔の角度が変わり、苦しいキスに苦戦し、少しの隙間で空気を入れようとするも、狗神の舌が入ってきて、余計に苦しくなってしまった。



「ふっ…!うっ…んんっ…!」



くらりと後ろに押し倒される。恥ずかしくしてきゅっと目を閉じているなまえの顔を狗神はキスをしながら見つめていた。舌を絡ませようとなまえの舌を追いかけて掴むと、咽喉の奥から声が出る。そんななまえの姿が可愛いと、狗神の身体がゾクリと震えた。だが、このまま続けてしまえば、歯止めが効かなくなると思った狗神は、なまえを解放し、クスリと笑いながら頬にキスをした



「なまえ様…大丈夫ですか?」

「はぁ…はぁ…っ…」

「お許しください、我が君。このような場所で、こんな行為を…」



呼吸を整えて、起き上がろうとするなまえ。すみません、と謝る狗神の態度に、本当はビンタを一発しようと思ったが、とにかく今はこの場所から離れたいと鞄を手にして、保健室を出ようとする。



「お待ちください。我が君」

「あっ…」

「もし今夜、空いているのなら…食事でもどうです…?」

「…。」

「まだ今週は…なまえ様とお食事が出来ていませんので…良かったら…」



掴まれていた手首の力が抜けた事を確認したなまえは返事もせずに小走りで出て行ってしまった。狗神はなまえを追う事もせず、テーブルに残っていたコーヒーカップを見つめ、なまえ様と小さな声で名前を呼んだ。


***



なまえは走った。自分に問うように走った。考えるな。今は自分の家に帰って、テレビ見たり、昨日コンビニで買ったケーキを食べるんだと先の行動を走りながら目の前の景色を駆け抜けていく。近道しようと、角を曲がり、直線を走り、また曲がると、信楽と少女の姿がそこにいた。隣にいる女の子の後ろ姿になまえはハッと思い浮かんだ。折角の近道が台無しだと、面倒だが元来た道を戻るか、と気づかれない内に、なまえは戻ろうとすると信楽の隣にいた女の子の声が耳に入る



「先生…家まで送って下さり、ありがとうございました」

「いいって事よ。泣いてる女はどんな女でも、ほっとくなんて、おじさんには無理だしな。元気…出してくれ…な…?」

「はい。それじゃ、また明日、学校でね。信楽先生」

「おう!」



玄関先で話す二人。同じ学校の女の子は信楽に手を振る。信楽も手を振った。家の中に入った女の子を見送り、ポケットの中から煙草を出して、火をつける信楽。そして、にやりと笑って、少しだけ歩き出し、後ろを振り向いた。



「嬢ちゃん…そこにいるんだろ…?」



信楽の声になまえは再度、自分に問う


どうして自分は帰らずに二人の会話を聞いてしまったのだろうと。





miel