16

「そろそろうちの撮影スタッフが到着するだろう。もう少し――」

――ギィ……

「………!」
「お、来た来た。」

開けられた扉。そこには数人の人影。ザッと入ってきたそいつらに、私の希望は奪われた。

「悪ぃな、ちょっとこの女暴れててよ。でも押さえつければこっちのもんだ。」
「…………。」

私の両手を片手で床に押さえつける男。上に乗られ、足を動かして蹴ろうとしても上手くいかない。こうも、男女の差が出てしまうと虚しいもので。黙って目を瞑ることしかできない。

「こいつから始めよ―――!?」

――ガシャァン!!!!

盛大な音を立てて飛んでいった黒いもの。否、リーダー格の男。
何が起きたか分からなかった、のは一瞬だけで。奥のイスにぶつかり、頭を抱えている男に、誰かに蹴り飛ばされたのだと分かる。

「修学旅行のしおり1243ページ。班員が何者かに拉致られた時の対処法。」

体を少し起こして、顔を上げれば。そこにいたのは見慣れた彼で。

「犯人の手掛かりが無い場合、まず会話の内容や訛りなどから地元の者かそうでないかを判断しましょう。」

笑みは浮かべながらも、厳しい表情から彼が怒っていることは明白。

「地元民ではなく更に学生服を着ていた場合、1244ページへ。考えられるのは、相手も修学旅行生で旅先でオイタをする輩です。」
「皆!!」
「くっ………!!」

しおりを抱える渚を見て、ようやく状況を掴めた私。
助けてくれたんだ。彼が。皆が。

「土地勘のないその手の輩は、拉致した後遠くへは逃げない。近場で人目につかない場所を探すでしょう。その場合付録134へ。
先生がマッハ20で下見した…拉致実行犯潜伏対策マップが役立つでしょう。」

ポスッ。頭に置かれた手。その手は優しくて、優しすぎて。
こちらを見ようとはしないけれど、確かに私を気遣ってくれているのが分かる。

「……どーすんの?お兄さん等。こんだけの事してくれたんだ。あんた等の修学旅行は、この後全部入院だよ。」

彼がそう言ったとともに、開けられた扉。そこから入ってきたのは、不良でもなんでもなく、

「殺せんせー!!」

我らが担任殺せんせー。

「ハエが止まるようなスピードと汚い手で、うちの生徒に触れるなどふざけるんじゃない!」

一瞬にして不良をダウンさせてしまった先生。マッハ20の殺せんせーには、不良のナイフなんておもちゃのようなものだ。

「修学旅行の基礎知識を、体に教えてあげるのです。」

不良の背後にまわっていた4人が、しおりを大きく振りかぶって、頭に叩きつけた。

×××

茫然と不良がノックアウトされるまでを見ていた私。
渚と杉野が、茅野っちと有希ちゃんの拘束を解きに行くのを横目に見ながらも、その場から立てずにいた。

「美藍。」

差し出された手。ここにきて、初めてあった視線。

「っ………!!」

手をとり立ち上がろうとしたとき、初めて自分の体が震えていることに気がついた。
今更ながら、男に押さえつけられた手首が痛む。

「もう、大丈夫、だから。」

そっと、弱弱しく、背中にまわされた腕。その安心感に、今まで忘れていた呼吸を、取り戻す。

「ぁ……………。」

遅いよ、バカルマ。ダメかと思ったじゃん。そんなに待たせないでよ。

――でも、ありがとう。

言いたいことはたくさんあるのに、言わなきゃならないこともたくさんあるのに、どうしても言葉が出ない。震えて震えて、言葉を発せられない。

「無事で、良かった。」
「カルマっ………!」

溢れる感謝を、表わす方法を知らなくて。ただただ、震えながら彼に凭れるしかなかった。

君が信じる僕を信じてる
支えられているということ
安心できるということ



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