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野球、2つのチームが攻撃と守備を交互に繰り返して勝敗を競う競技。ルール上、守備はフェアゾーンならどこを守っても自由。なんだけれど、
「こっ、これは何だー!?」
さすがにこれは反則ではないだろうか。
「守備を全員内野に集めてきた!!こんな極端な前進守備は見たことない!!」
選手全員が内野に。これではバッターの集中も乱れる。
「こんな守備されて、打てるの?」
「あっという間に3アウト――!!」
あの短期間で習得できたのはバントくらいしかないのに。その唯一の攻撃手段を攻略されてしまった。これでは手も足も出ない。
殺せんせー、一体どうするんだろうか。
「ねーえ、これズルくない理事長センセー?」
「カルマ………?」
打席に入らず、抗議の声を上げたカルマ。
「こんだけジャマな位置で守ってんのにさ。審判の先生も何にも注意しないの。一般生徒もおかしいと思わないの?」
突然、どうしたんだろう彼は。考えもなしにこんなこと言うようではなかったと思う。
「あ――そっかぁ。おまえ等バカだから、守備位置とか理解してないんだね。」
あぁ、そんな事言ってしまったら――……
「小さい事でガタガタ言うなE組が!!」
「たかだがエキシビションで守備にクレームつけてんじゃねーよ!」
「文句あるならバットで結果出してみろや!!」
ブーイングが殺到するに決まってる。
彼らだって、あの守備が反則だということなんて分かってるし、その反則を使わないといけない状態にあるということも分かってる。だからこそ、認めない。
「この回で2点返して3対2!!E組を追いつめたぞ!!」
もしも、もしもこの野球部の攻撃で点を取られればおしまいだ。杉野の変化球で、なんとか逃げ切ってほしい。
「おーっと、野球部バント地獄のお返しだ!!同じ小技なら野球部の方がはるか上!!」
野球部がバントを使ってきた。普通なら観客が納得しないから、使わないと思っていたんだけれど。
「先にやっちゃったから、大義名分を作っちゃったね。」
「やりかえされるとはなぁー。」
「あっという間にノーアウト満塁!!一回表のE組と全く同じ!!最大の違いは!!」
ここにきて、こんなのありなのか。勝ち目がないじゃないか。最後のバッターが、
「我が校が誇るスーパースター進藤君だ!!」
エースの進藤君なんて。きっと彼はスイングで決めようとする。もしも最後が、彼のホームランなんかで終わってしまったら、E組の差別は余計酷くなる。
どうする、殺せんせー!!
「!!」
「おっ!?この前進守備は!!」
バッターの前に立ったカルマと磯貝。これは、さっきの野球部の守備。
「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやった時は審判は何も言わなかった。文句ないよね理事長?」
さっきのクレームには、きちんと意図があったのか。バントの大義名分はE組が作ってしまったけれど、前進守備は野球部が作った。これで、お相子だ。
「ご自由に。」
「へーえ、言ったね。」
余裕な理事長先生を、最大限バカにするカルマ。となりの磯貝もため息をついている。
「じゃ、遠慮なく。」
「「「!?」」」
近い。近すぎる。前進どころか0距離守備。振れば確実にバットがカルマに当たってしまう。
「あいつ………バカなの!?」
誰も止めずにゲームは進行。杉野が球を投げる。
「!!」
ボッと進藤君がバットを振った瞬間、さっと身をかわすカルマと磯貝。
殺せんせーの暗殺で鍛えられた動体視力は半端じゃない。
「次はさ、殺すつもりで振ってごらん。」
「うわぁぁぁっ!!」
野球じゃない、なにかについていけなくなった進藤君の、腰の引けたスイング。それをしっかりと掴み、キャッチャーの渚へ投げるカルマ。
「そのボール三塁へ!!」
パシッパシッとボールをキャッチする乾いた音がグランドに響く。観客も、E組女子も、みんなが茫然としている中でボールがリズム良く回されていく。
パシッと最後の音が聞こえた瞬間。
「打者ランナーアウト……ト、トリプルプレー……。」
「ゲ……ゲームセット!!」
人はそれを聖戦とよぶ
「勝った!!E組が勝った!!」
「お疲れ様。カルマ。」
「ん、ちゃんと見てたー?」
「もちろん。」