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「ねぇ。」「ん―――。」
「ねぇ。」
「ん―――。」
「………ちょっと。」
なんだこのグダグダすぎる会話は。さっきからずっと彼女はこの調子だ。
「美藍、どうしたの。」
「ん―――。」
学校が終わって早々、駅近くの図書館へ向かった俺ら。
あまり自習室とかそういった部類を使わなかった俺だけど、少し前に美藍から誘われて足を運んだ。それ以来、週に1度は2人で来るのが日課になっている。
人はそこまでいないし、いつもほぼ貸し切り状態。つまり、2人っきりの空間というわけだ。
だからと言って、勉強をせずに美藍にちょっかいばかり出しているわけではない。
エンドのE組と言っても椚ヶ丘中学校の生徒。世間一般が言う秀才に属しているのだ。
参考書とノートを広げて、シャーペンを握って、2人で並んで黙々と勉強している。会話もなしに。(なので俺的には是非ここで2人で並んでという部分を強調しておきたい。)
が、今日の彼女はどこかおかしかった。
「寝てるの?」
「起きてるよ!!」
今日もやっぱり自習室に人はいなくて。白い丸テーブルに2人で座っている。
もうここに来てから数十分は経つ。けれど彼女は今、テーブルに突っ伏したままだ。
「じゃあ、な………!?」
機嫌が悪いわけではない。寝不足なわけではない。ではなんだと顔を覗き込もうとしたとき。
不意に俺の袖を掴んだ美藍。
予想外の行動に驚いて、それだけで驚く自分を少し情けなく思って、落ち着こうと息を吸い込んだ。当の本人はそんな俺には気が付いていない。唸りながら突っ伏している。
「カルマァ――。」
「なに?」
「昨日の体育サボったよねー。」
ひょい、っと顔を上げたかと思ったら。いきなり授業の話をし始める。
「だってアイツだったから。」
そんなどうでもいいことを、と思いながらも答える。確かに昨日は体育をサボった。でもそれは、鷹岡が来ていたから。防衛省から来た異常な男。一言でいえば暴力教師だ。
「渚君が勝負に勝ったからいなくなったんでしょ?今度から出るって。」
詳細は良く分からないけれど、暗殺勝負で渚君が鷹岡に勝ったらしい。おかげでアイツは解雇。烏間先生が復帰だ。
「それが聞きたかったの?」
「ん――。」
また唸り出した美藍。うーん、えーっと、別にー、と戸惑っている。言葉が上手く見つからないらしい。
「渚が、勝ったんだよ。勝負に。」
それでもポツリポツリと話しだした。
「すごかったよ。本当に。殺気を見せずに近付いて、ささっとやっつけちゃったの。」
口調はとっても軽くて、明るく言っているようだけれど、表情は強張っている。
「でもね、すごくこわかった。」
「鷹岡が?」
「違う。」
――渚が
「…………………?」
「あんな強い人を倒した渚が、普通にみんなのもとに帰っていったの。みんなも、それを不思議と思わなかった。ううん、思えなかった。」
彼女の言いたいことが、いまいちよくわからない。その場に、自分がいなかったからかもしれない。
「渚ってすごいのに、警戒できない。怖いと思えない。」
そんなこと、イトナ君が転校してきた時にも言っていた気がする。
「見えない敵。見えない力。怖いと思えない、恐怖。」
イトナ君と、渚君と。彼女は2人に何を感じたんだろう。
頭をひねって考えてみたけれど、俺には、分からなかった。
それでも分け合いたい
あんまり寂しそうだったから
俺の袖を掴んでいた手を、そっと握ってみた