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寺坂がクラスに打ち解けて数日。私の足も良くなって、今では普通に歩ける。あの後、寺坂が1人で私の元へ謝りにきた。
寺坂のせいだとは思っていなかったけれど、わざわざきてくれる所と、カルマがいないときを見計らって1人できた所に、意外に可愛い面もあるじゃないかと笑ってしまった。
なんだかんだで、優しくて律儀な奴だ。
「帰るよー。」
E組内の関係が良くなって、暗殺環境も整ってきていると思う。
皆で帰ることも増えたし、寄り道してどこかのカフェで遊ぶことも増えた。
「パフェ食べたい。」
「茅野っちはいつもスイーツだよね。」
「じゃあ、あのファミレス行くか?」
「いえ――い!!」
お金どれくらいあるかなー、と思いバッグを覗くと……。
「あ。忘れた。」
「え?」
「ごめん、戻る!」
「俺も行くよ。」
「いいよ、カルマ先に行ってて!!すぐ行くから。」
不満そうなカルマだったけれど、先に行かせて教室までダッシュする。お財布をとってまた、本校舎までダッシュ。やばい、汗かいた。
「はぁ――。」
途中から諦めて歩く。こんな暑い中走り続けるなんて出来ないもの。
みんなはファミレス入ったかなー、とケータイをとり出した時。
「美藍ー!!」
「え。」
「球技大会ぶりだね!!」
球技大会の時、話しかけてきたA組の子たち。
「一緒に帰ろうよー。」
ニコニコと近付いてくる集団。前まではイライラして、見るのも嫌だったけれど、今は嫌な気分でもない。
E組という確かな仲間がいるというのは、私の心を安定させてくれるみたいだ。
「E組のこと聞かせて!!」
「E組のこと?」
いいよ、と返事をすれば本当に嬉しそうに笑い、そのまま、5、6人で正門まで向かう。
「E組って仲良いの?」
「かなり仲良しだよー。」
他愛のない話をしながら歩く。
「ねぇ、赤羽カルマ君ってさ、どんな感じ?」
「え、カルマ?」
「カルマ、って呼び捨てなの!?仲良し??」
「まぁ。」
「え、じゃあさ。」
――付き合ってるって、ホント??
「……………は?」
付き合ってる。付き合ってる。………付き合ってる!?何を言っているんだ彼女たちは!!
「違うよ!!」
「そうなの?」
「ホント、違う!!有り得ない、……よ!!」
違う。有り得ない。当然の言葉だ。けれど、それを他の誰でもない自分の口から言ってしまうことが、なんだか悲しい、気がした。うん、気がしただけ。悲しくない。気がしただけだ。
「で、でも。なんでカルマのこと……?」
「カルマ君ってさー、不良とか言われてたけど成績良いし。」
「なんか……カッコいいし!!」
「って言うか、愛奈がカルマ君のこと好きだから!!」
「え。」
「ちょ、ちょっと!!やめてよー!!」
「あ、ごめんごめん。気になってるだけかー!」
もう、っと顔を赤くしている愛奈。なんだろう、今、すごく、心が冷えた。
「でもね、美里から一緒にモールにいたって聞いてさー。」
「そうそう。付き合ってると思って心配したんだよねー、愛奈?」
「う、うるさいなぁ!!」
愛奈とは、1年のときに同じクラスで……、そう言えば、入学早々にカルマのことをカッコいいって言っていた気がする。1年のときのことだからあまり覚えていないけれど。
「いや、本当に、友達。」
「良かった!!」
友達。その関係が、今まであんなに満足していて、私たちにぴったりだと思っていたのに。どうしてだろう、苦しい。どんどん心が冷えていく。
「カルマの、どこが好きなの……?」
あいつ、たぶんモテルなぁって。思ったじゃないか、私。だから、こうやって情報収集のために利用されることだって、これからもあるはずじゃないか。利用されているだけで、こんなに動揺しちゃダメだ。利用されているだけで………。……利用されているって思うから、こんなに冷めるのか、な。
「えっとねー、カルマ君は、頭が良くて、背が高くて、スポーツが出来て、カッコ良くて………、あと紳士だって聞いたんだよね!!すごく良い人なんでしょ?」
何それ。何言ってるの、愛奈は。そんなの、そんなのカルマじゃない。
「あ、あれカルマ君だ!!」
反射的に顔を上げると、正門に寄りかかっているカルマ。私を待っててくれている。自意識過剰なのかもしれないけれど、すぐに、そう思った。
「ねぇ美藍、カルマ君に話しかけてよ!!」
「そしたらこっち向いてくれるよね!!」
スッと遠くにいるカルマを見据えて、愛奈たちの方を向く。
「………ねぇ、皆の言ってるカルマって、誰?」
「え………?」
「私の知ってるカルマは………、バカで、アホで、不良で、しつこくて、うるさいけど……、優しくて、守ってくれて、頼りになる。」
――愛奈たちは、カルマのこと何も知らないでしょ。
じゃあね、と冷たく言うと固まっている愛奈たち。そのままカルマの元へ向かう。
「カルマ。」
「あ、美藍お帰りー。杉野たち、もうファミレス入――……」
「行くよ。」
「え、」
カルマの手を握って門を通る。足早に駅へと急ぐ。
後ろから、ちょ、なに!?と声が聞こえるけれど、すぐに静かになった。
「………………。」
と思ったら、黙って私を追い越して、先を歩くカルマ。カルマの方が背が高くて歩幅が大きいから、私じゃ追いつけない。けれど、カルマは黙って合わせてくれる。少し先を歩きながらも、私が付いていけるペースで歩いてくれる。
そう、これがカルマだよ。愛奈たちはなにも知らない。このさりげない優しさも、気遣いも。でも、私は知ってるもの。
見上げると、私の視線に気がついたカルマがふっと笑って、繋いでいた手を握り返した。
その手に、さっきまであんなに冷えていた心が、一気に暖かくなるのを感じた。
加速する2人の温度
こうやって並んでいるのは
私がいいって、思ってしまう