03
●●●
カリカリとシャーペンが解答用紙の上を滑る。周りみんなが真剣にテストに取り組んでいる。殺せんせーオリジナルの問題。赤羽におかしな勝負をしかけられたせいで、私はこの解答用紙を埋めなくてはいけなくなった。
別に、絶対にテストに取り組まないだのなんだの、意地を張っていたわけではない。甘えたくて教師を困らせていたわけでもない。ただ、怖かった。1度とってしまった85という点数。それも、得意教科の数学で。
得意教科でこんな点数なの?
親に渡した解答用紙は、きれいに千切られた。
いい?100位の子の85点と、1位の子の85点は価値が違うのよ。
まずい。このままではまずい。親の言う通りだと先生に相談しても、お前なら大丈夫の1点張りだった。無条件で無責任な大丈夫は、私に大丈夫な状態にしろと義務付けているようだった。
テストが、怖い。
そう思っているうちにどんどんと成績は下がりついに1桁を落ちた。
私は、良い子ではなくなってしまった。常に保ってきた良い子の地位。友達からも愛されるアイドル。先生からも愛される優等生。成績が良くスポーツも出来る天才児。小学校から今まで、必死に積み上げてきたそれらの武器はついに限界を迎えてしまった。
たった1度の失敗で。
それまでいい思いしてきたお返しだと言わんばかりに、人間関係が崩れていった。
誰にでも良い子と思われる八方美人を演じすぎた心は、とっくに限界で。悲しい苦しいと声を上げていた。
どうしてこんなことに。背負いすぎたの?なら、捨てればいいのか。そうして捨てていったそれらの武器。やっと楽になった。はずなのに。
「っ………!!」
書くことを躊躇ってしまう右手。人に話しかけることを躊躇ってしまう心。私は、ただただ逃げていた。なにも楽になどなっていなかった。
やらなければ勉強は出来ないという事実と、今まで人を利用するばかりで本当の友達なんていなかったという事実。これらを受け入れられなかった小さな心から、逃げていた。
それを赤羽に悟られてしまったんだ。頭の回転が速いあいつには、きっとすぐにわかったことなんだろう。
自分を誤魔化し続けても、きっといつかで限界がくる。私の武器が、すぐに壊れてしまったように。
表だけ取り繕ろうためだけに造られたアイドル相沢美藍という人格は、本物の私が悲鳴を上げることでいとも簡単に散った。武器を捨てて楽になったという誤魔化しだらけの心も、見透かされることで限界がきてしまった。
人は誰しも考えている。私だけが考えているわけではない。
そう、上手く人を手の平で転がし続けようなんて、出来るはずないんだ。自分を誤魔化し続けることなんてできないんだ。いつかは向き合わないと。いつかは事実を認めないと。
「……………………。」
いつかは、また。歩きださないと。
「ふぅ。」
カリカリと周りはまだシャーペンを滑らせている。でも、隣の赤羽は動く気配がない。きっと、もう終わったんだ。
負けてらんない、よね。吹っ掛けられた勝負だもの。善戦を尽くさなくては名が廃る。
ぎゅっとシャーペンを握りしめ、紙と向き合う。このテストが何点だろうと、きっと、これが私の第一歩だ。
わたしは孤独を愛せない
開けられた扉から差す光は
手を伸ばしたくなるほどきれいだった