06

美藍が倒れる。その事実を頭で認識するのは早かったが、体が動き出すのはとても遅かった。膝から崩れ落ちる彼女に手を伸ばしたけれど、その手は届くことなく宙をかいた。

「……ッ!美藍!?」

一瞬息が詰まったように呼吸が苦しくなって、声が出なかった。口が乾いてカラカラする。
どうしよう……、いや、どうしようってなんだよ俺。しっかりしろよふざけんな。考えろ、やることがあんだろ!
でも俺は医者でもないしヒーローでもないし、殺せんせーのように豊富な知識があるわけでもない。

情けないことばかり考えだす脳みそに、役立たずと俺の心が怒り出す。冷静に状況を整理しようとする頭と、こらえきれないほどの感情に押しつぶされそうな心に、どうにも目が回りそうだ。

「カルマくん!とにかくこっちへ!」

奥田さんの声を聞いて、やっと思考がまともな方へと回りだす。そこで初めて、自分が緊張しながらも怯えていたということに気が付いた。
怯えるってなににだよ。なに縁起でもないこと考えてんだよ、オレ。要は薬があればいいんだろ?そうすれば、助かるんだろ?

そうやって自分に言い聞かせるなんて、かっこ悪い。

苦しそうに浅く息をする美藍を抱えて、テラスの隅に腰を下ろした。
何もかもが弱弱しくて、意識がはっきりしているのかもあいまいだ。

儚くて消えてしまいそうで、どこか遠くにあるような、なんて。そんな表現、冗談じゃない。

儚いんだよ。消えてしまいそうなんだよ。だから手を握っていないと。だから抱きしめておかないと。そうじゃないと、気が付かないうちに遠くにいってしまうから。気が付かないうちに俺の知らない存在になってしまうから。
なんでわかんねぇんだよ、俺。

「……ごめん」

誰に言うまでもなく謝る。その声が聞こえたのか、はたまたもとから意識はあったのか、腕の中の美藍がゆっくり目を開けた。
何か言おうとして、かすかに口を開ける。それでも呼吸が苦しいのか、うまく声が出ていない。
それでも伝えようとするものだから、笑いかけて、それを制した。

彼女の瞳を閉じかけたときに、もう一度「ごめんね」とつぶやく。
自分で言っておきながら、「ごめんねって言えばなんでも許されるわけじゃないんだぜ」と自嘲した。それでもやっぱり、「ごめんね」くらいしか出てくる言葉がないから。
だから、意識がもうろうとしているだろう彼女の口をふさぐように、身をかがめた俺は、本当に本当に最低だと思うんだ。

ニヒリストは終末を演出する
このまま一緒に死んじゃいたい、
なんて思ったりした



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