「不幸+不幸=幸せ」の定義


※もしも、E組が暗殺に失敗したら

非常に残念なことですが、本日地球は終わります。

そんなセリフ、今まで一体どれほど聞いたことだろう。マヤ文明がどうたらこうたら、宇宙の周期がどうたらこうたら、この15年間だけでもざっと2,3回は聞いたことのあるセリフ、今更信じる方がばかだ。

けれど、今回のこれは少し違う。
何が違うか。それは、世界中の国々で一斉に報道されたこと。

「あの月と同じように、この地球も本日蒸発します。」

活字に直せば、あぁ、なんてばかばかしい。なんて滑稽な。なのにどうして、どうしてテレビに映っているお偉いさん方は泣いてしまうの。

否定しているのに、こみ上げてくる恐怖。がたがたと震えるからだ。死ぬんだ。私、死ぬんだ。卒業、したばかりなのに。

ちらりと視線を移せば、目にとまった写真。あれは確か、2年生の夏のこと。

いつか、いつかは行かなきゃなぁって思ってた。でもいまいち勇気がなくて、だから、だからずっと先延ばしにしてた。

「………………。」

気がつけば、私は家を飛び出していた。Tシャツに短パンというラフな格好で、サンダルをはいて、鳴き声と悲鳴が響き渡す街中を走る。

「はぁ、はぁ」息が荒くなって、足がいたくなって、片方のくつが脱げて。それでも私は止まらない。止まれない。だってあと少しで今日が終わるから。夕暮の空がそう言っているから。

いつもの曲がり角を曲がって、坂道を下る。片方だけになった靴は邪魔でしかない。途中ではだしになって走った。

ずっとずっと、決心がつかなかった。だって、チャンスはいくらでもあるから。高校が違っても、家は知っている仲なんだし、逢おうと思えば逢えるんだし。勇気がないだけで。
人生終わりってわけじゃないんだから、別に、今じゃなくても。

そう思ってた。ずっと、逃げてた。

でもそれじゃダメなんだって。もう今しかないんだって。本当に本当に、これが最後なんだって。

夢中で走った先、見えた表札。磯貝の文字。ごめんね、幼馴染の特権、使わせてもらうよ。

玄関のチャイムも鳴らさずに、はだしでドアを蹴破る。ずかずかと家に上がり込み、奴の部屋へと駆け込んだ。

「悠馬!!」
「なまえ!?」

「ごめんね!!!!!」

ごめんね、今まで。ずっと、ごめんね。
E組だからって、幼馴染なのに、無視して、避けて、ごめんね。ずっと、ずっと謝りたかった。けど、弱い私はそんな勇気なくて、悠馬は私の顔なんて見たくないって勝手に言い訳つくって、ずっと逢わない様に、顔合わせない様にしてたの。ごめんね、ごめんね。

次々と浮かんでくる言葉を、私は声に出来たのだろうか。涙で前がかすんで見えない。頭がついていかなくて、それでも伝えたいことは多くて、もどかしい。

ごめんね、ごめんね。今更言っても遅いのかもしれないけどね、それでもごめん。ごめん、こんなこと言われても嬉しくないのかもしれないけどね、それでもね、私。

「ずっと、好きだったから――………」

こんな地球が終わるって言われないと勇気がなくて動けない私だけどね、それでも最後に伝えようと思えたの。最後くらいは伝えたかったの。ごめん、ごめんね。大好き。

ぽん、と頭にのった手は暖かい。そう、この手が私は大好きなんだ。
ねぇ、今日で地球が終わってしまうなんて、なんて残念で悲しいの?
もしも、もしも本当に終わってしまうなら、二人でこのまま、地球じゃないどこかに行こうよ。悠馬がいるなら、私、別にそれでいい。

私の言葉に、彼は軽く笑って、「そうだね」って。
優しく、今までで一番優しく、私を抱きしめた。
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