彼女はきれいに笑う人


「どう、なまえちゃん、おいしい?」
「さいこうで〜す!」

とあるカフェの窓側、1番後ろの席に、2人はいた。1人あの有名な椚ヶ丘学園の制服を着た、大層美形の、いかにも優秀と言った好青年。もう1人は、都内の公立中学校に通う、どこにでもいる普通の少女。
一体何処で接点があるのか検討も着かない2人であるが、随分と仲の良いようで、会話もはずんでいる。

「いちごおいし〜い!」
「それは良かった」

もしかすると、ふわふわとした、どこか抜けている少女のその雰囲気が、彼の気持ちを楽にさせるのかもしれない。ゆったりとしたその声は、どこか安心できる。
「せんぱぁーい、ありがとうございましたぁ」と花が咲いたように笑う彼女は、確かに可愛らしい。容姿が整っているわけではないが、愛らしさがそこにはあった。
その様子に、先輩と呼ばれた浅野も微笑む。そして、意を決したように話を切り出した。

「なまえちゃん、この前映画見たいって言ってたよね」
「はぁ〜い、今週公開なんです〜!」
「一緒にどうかな?」

にっこりと、彼は綺麗に微笑んだ。それは彼女のような、愛らしさがある微笑みではなくて、どこか作ったような笑顔。それでも整った綺麗な笑みだった。
彼女はうーん、と首をかしげ考える。

「行きたいで〜す!」

返ってきた言葉に、よしっとテーブルの下で小さくガッツポーズをする浅野。彼女は全く気がついていないようだ。綺麗な笑みのまま、「ありがとう」と言おうとする浅野を遮るように、彼女のケータイが音をたてた。

「LINEかな?」

ピクリ。少々口元を引きつらせながら浅野が聞く。だが彼女はケーキに夢中でケータイを見ようとしない。もぐもぐ、生クリームを頬につけながら、ずいっと浅野にケータイを渡した。

「見てもいいの?」

コクリコクリ。口いっぱいにケーキをほおばり、頷いて見せる。それに甘えて、ケータイを覗いた。

――なまえちゃん、日曜日は家まで迎えに行くね

「赤羽………?」

そこには、赤羽業、浅野の同級生からのメッセージが表示されていた。

「日曜日はカルマ先輩と水族館に行くんです〜!」

映画はいつにします?と、小首をかしげる彼女は愛らしく、罪深い。今週の日曜日はどうかな、という浅野のセリフは言うまでも無く却下だろう。
「そうだね、どうしよう」と返す浅野の頭の中は、彼女のことよりもどうカルマへ仕返しするかでいっぱいだ。
にっこりと、また先程とは違った棘のある黒い笑みを浮かべる浅野だが、やはり、鈍感な彼女はそれには気がつかず、もう1度笑い返すのだった。
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