きらいになるから明日には
「いらっしゃいませー」
帰り道、必ず寄るコンビニがある。駅前にあるコンビニで、そこには1人の女性店員がいた。
若くて、ポニーテールが似合う綺麗な女性。
歳も、住所も、誕生日も、好きな食べ物も、なに1つ知らない。知っているのは、ネームプレートから得られるみょうじという名字だけ。
いつも煮オレを持って彼女のレジに向かう俺に、綺麗な笑顔で会計してくれる。さすがに毎日通えば、何か一言かけてくれないかと期待したものだが、彼女が業務外の会話を客としているのは見たことがなかった。
この日課は俺の秘密で、俺だけの秘密。
クラスメイトとこのコンビニに寄ったことはない。なんだか気恥ずかしくて、寄る気になれない。
別に、好きだとかそういった感情を持ち合わせているわけではない。コンビニ定員と客だし、名前も知らない女性に一目ぼれするほど俺は単純じゃない。
ただ、綺麗な女性だな、と。ただそれだけ。気になっているわけでもない。あまりに綺麗な人だから。大人の女性とはきっと、彼女のことだろうな、と。それだけで。
だから、もしも彼女に、恋人と言える人がいたって俺は一向に構わない。俺には関係のないことだし、そもそも彼女は俺のことを知らないし。
今、バイトが終わったばかりの彼女が、男に迎えにきてもらっていたって、別に、俺は。
そう思っているのに、コンビニの中から、彼女たちをじっと見つめてしまう。いつものような綺麗な笑顔で、いや、そんな営業スマイルよりも、何百倍も何千倍も綺麗な笑顔で、バイクにのる男に笑いかける彼女から、目が離せない。
嬉しそうで、楽しそうで、きっと俺には彼女にそんな顔をさせてあげられなくて。
だんだんと近付いていく2人の距離。あと少しの距離で、耐えられなくなって店の奥へ進む。どうしても、どうしても、彼らの唇が触れ合う瞬間は、見たくなかった。
冷やされた煮オレを掴みながら、今日は会計してくれる彼女はいないのだと実感する。
分かっていたことだった。
俺が、毎日コンビニに通って、少しでも彼女の傍にいたいと思うのと同じように、彼女にも、傍にいたいと思う人がいると。
俺が、毎日向けてもらえるあの笑顔に心踊らすように、あの笑顔にときめいている男がいることも。
分かっていた。分かっていたけれど、分からなかった。
つまりは、これが子供である証拠なのだと。自分は子供で、彼女は大人だったのだと。未だ締め付け続ける胸が、そう言った。
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