ここ、春雨の宇宙船だよ?どうやって入ったの?いや、でもパッと表れた感じだったよね。びっくりしたよ。敵だと思ったけど、弱すぎだね。戦った事ないでしょ?血を見るのも初めて?箱入り娘なの?変な服着てるし。それ名札?名札就いてるの?変なの。そんな服着てる人見たことないや。どこから来たのか、言えないの?まぁいいや。さっきの女だけどね、あれは奴隷として売り出すつもりだった。もう買取先は決まってて、半年後に取りに来る予定だった。だから活かしておいたんだけど、弱いうえにうるさくてさ。あ、香穂ほどじゃないよ?ぎゃーぎゃー喚くし暴れるし。それで殺しちゃったってわけ。見てたでしょ?すごく怯えてたね。ちょっと面白かった。でも香穂に戦闘能力は求めてないから安心して。さっきの女の代わりをしてくれればそれでいい。買取先がちょっとビジネスで世話になってるところでね。怒らせたくないって上が言うんだ。ほら、同じ黒髪だし、歳もそこまで変わんないだろ?向こうは黒髪の若い女ってことしか知らないから、問題ないよ。香穂の方が賢そうだし、上手くやれるよ。

ニコニコと笑顔で団長は言った。その間、香穂はじっと座りこみながらも黙って話を聞き、反応を求められれば頷いたり、「はい」と短く返したり、最低限のリアクションのみをとっていた。
彼の話を聞き、懸命に頭を動かす。つまり、自分は今日から奴隷だ。怖い。怖い。鎖でつながれ、自由のない奴隷。教科書などでしか知らない、奴隷。自分がそうなるのがとても、怖い。けれど、この場にある死と奴隷をいう2つの選択肢から選ぶとなれば、奴隷になるのは仕方のないことだ。
生きながらえたいわけではなかった。が、死ぬ勇気はもっとなかった。目の前でぐちゃぐちゃにされた女の頭を思う度、死の恐怖が色濃くなっていく。これではまずいと、無理矢理脳から叩きだした。

「団長ー」と、香穂のバックを漁っていた阿伏兎が教科書を投げる。歴史と書かれていた。彼はとても優秀な人なのだろう。

「2000年、平成、内閣、世界大戦。訳分かんねぇ単語ばっかだな。おまけに天人のあの字も出てこない」

ペラペラとページをめくる団長を見ながら、阿伏兎は言う。あまんと。どんな漢字を書くのか。言葉の意味が全く分からなかった。

「地球………だけど違うね」
「気軽に宇宙にいける世界じゃねぇだろうな。天人もいるか定かじゃねぇよ」

歴史の教科書を覗き込みながら考察を続ける彼ら。香穂は香穂で、ひたすら考えていた。

窓から見えるのは暗闇と無数に光る星。地球ではない。宇宙だ。今、自分は宇宙飛行中の宇宙船内にいる。正気かと、自分を疑うがいかんせん状況は変わらない。
自分は知らない場所にいるのだ。もしかしたら、あの事故で死んだのかもしれない。

「異世界から来たってところ?」

有り得ないと笑い飛ばすべきところだった。だが、日常では考えられないことに立て続けに巻き込まれた香穂もまた、少々気が狂ってしまったのかもしれない。へらっと聞いてきた団長に、静かに頷いてみせるだなんて。突飛な世界は想像しているよりも実に簡単にドアを開けてしまうものだ。

後書き

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