不運だった。一言でいえば、不運だった。
中学3年生、高校受験を控えた、秋先の事。残暑が厳しく、ワイシャツは未だ半袖のまま。スカートも夏ものだった。3年間愛用してきた自転車で長い長い坂を下る。スピードが増して頬を滑る風が気持ち良い。けれど、被っているヘルメットのせいでいまいち解放感は得られない。中学3年生と高校1年生。15歳と16歳。それほど差がないように感じられて、こういった細かな点で大きく違う。やはり、当事者にとって1歳の差は大きい。

ヘルメットなどは外してしまいたかったが、制服を着ているうえに彼女の肩書がそれを許さない。ルールは守るもの。守らなくてはいけないんだから守るの。同級生や後輩に注意してきたのは他でもない、彼女なのだから。
横を通り過ぎる生徒が、彼女に小さく挨拶をしていく。有名と言えど、声をかけるほど近い存在ではない。彼女も小さく笑ってそれに応えた。
坂を下りきり、信号に差し掛かる。止まった瞬間に感じる重み。今日の時間割には5教科が全て組み込まれていた。早速憂鬱になりながらも、いいことあるさと自分を奮い立たせる。

信号が青に切り替わり、自転車から降りる。これも学校で決められたルール。たとえ誰も見ていなくとも、彼女は必ず守る。自分が守っていなければ、他人に注意はできない。
彼女は通っている中学校で生徒会長を務めていた。明るく気さくで、ルックスも良い。1年の時から選挙で勝ち抜いて来れたのはそれらのおかげだろう。勉強もでき、楽器にも長けている。運動や美術は得意ではないが、苦手でもない。優等生だ。はたから見れば。
完璧を装う彼女には、1つの闇があった。

冷静な分析力と判断力を持ち合わせた彼女は、自分のルックスや気さくさ、持てる全てを利用し、周りの目を惹きつけていた。計算高い。そう言える。スクールカーストで上位に食い込む術も知っていたし、教師たちに気に入られる態度の取り方も知っていた。
と、こう言ってしまうと彼女がとても打算的な悪女のように感じてしまうが、決してそうではない。学校生活で本当に信用を得ているのは、彼女の根の良さあってのことだろう。根は素直なのだ。ただ、複雑に入り組んだ人間関係を生き抜くために、知識を付けただけで。

まぁつまりは、彼女はどこにでもいる普通の女子中学生だったということだ。何か特別な才能があるわけでもなし、特殊な環境に置かれているわけでもない。何か罪を犯したわけでもなければ、世界を救う素晴らしい所業をしたわけでもない。
だからあまり、自分が突飛な事件に巻き込まれるだなんてことは考えたことがなかった。いやだがしかし、この世は理不尽で廻っているもの。考えたことがなかったからと言って、事態が起きないわけではない。こんなはずじゃなかったのに、不公平、不平等、そんな言葉は聞き入れてはくれない。いつ誰がどこで、どんな災難にあってもおかしくないのだ。どうして、なぜ私がだなんて、誰かを責められやしないのだ。
だから、彼女がルールを守って横断していた横断歩道に、大型のトラックが突っ込んできても、誰も責められやしない。

後書き

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