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僕が彼女を追いかけて行ったことに深い理由は無い、とはいえない。
片岡さんに対する彼女の態度がクラスの雰囲気を悪くし、逃げ出したくなったことも事実だし、また、心配という名の好奇心が駆り立てられたのも事実だ。僕みたいな気弱な男子生徒に何を言われても藤田さんは痛くもかゆくもないだろうから、みんなと仲良くするように説得することは無理だけれども。

そんな言い訳をしながら校舎裏にまわろうとして、足をとめた。

「私………、戻れるのかしら」

それは間違いなく彼女の声で、間違いなく僕に向けて言った言葉ではなくて、そして、間違いなく泣きそうな、震えた声だった。
普段の彼女からは想像がつかないほど、弱弱しい声。聞いてしまったことが後ろめたくて、金縛りにあったように動けなくなってしまう。
彼女は誰にも言わないけれど、ずっと不安を抱えていたのだ。どん底に突き落とされ、掴むものもなく、何の頼りもなく。それでも自分の両足で立とうともがいている。きっと唯一の信頼相手、浅野学秀にも、素直に不安だと言えないまま。
あぁ、彼女はなんて不器用なんだろう。強がる彼女は、悲しそうな顔が、とてもへたくそだ。

知ってはいけなかった、という思いと、知らなくてはいけなかった、という相反する思いで呆然とする僕に、棘のある声が突き刺さった。

「ねぇ、なに」

うつむいていた顔を上げると、先ほどとは打って変わってきつい目をした藤田さんがこちらを睨んでいた。いつの間に電話を切ったのか、いつの間に立ちあがり、僕の前まで来ていたのか。弱弱しい声モ、震えていた方も、全てどこかに飛んで行ってしまったようだ。

何か言わなきゃ。何か。でも、何を?

見てしまった後ろめたさと、知ってしまった彼女の不器用さに、僕は上手く動けない。

「あ、あの………休み、時間……終わる、ので……」
「はぁ……そう」

大きく大きく、ため息をついて吐き捨てるようにそう言った。目を合わせずに僕の横を通り抜け、教室へ戻っていく。

「……私ね、草食系は嫌いなの」

背中にそんな冷たい声がかかって、慌てて振り返るも、もう彼女はいない。
結局最後まで、彼女は僕と目を合わしてはくれなかった。

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