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「藤田さん、バスケ好き?」

教室に着くなり、片岡メグがそう聞いてきた。なんでも、今度の球技大会で女子はバスケ部と試合をしなくてはいけないらしい。

うちの中学のバスケ部と言えば、相当の強さだ。3年生の部員とは顔見知りであるし、連絡先も持っている。彼女たちとE組として戦うなんてまっぴらごめんだ。全校生徒の前でE組としてなんていたくない。

「どうして私がE組として参加しないといけないの?あなたたちで勝手にやればいいでしょ」

そう返せば、怯む片岡メグ。その話は終わりだ、とばかりに席を立とうとした時。

バンっ!!!

固い音が教室に響いた。突然の音に、クラスは静まり返る。目を向ければ、金髪の……中村莉桜が机をたたいていた。
そしてそのまま、私の方へと近付いてくる。

「……なに?うるさいんだけど」
「あんたさ………なめてんの?」

慌てる片岡メグを後ろへ追いやって、彼女は私の前に立ちはだかる。きつく睨みながら、声を荒げ始めた。

「メグがいっつも声をかけてるのに、その態度はなんなわけ?言い返さないからって調子のってんじゃない?A組だかなんだか知らないけど、いい加減諦めなよ。あんたはもうE組なの!A組になんて戻れないんだよ!」

もう一度、私の机を強く叩いて怒鳴る。クラス全員の目が、私を見ていた。「中村の言う通り」誰もがそんな目をしている。
まだ何かを言おうと彼女が口を開いたとき、小さい水色が動いた。

「中村さん、もう殺せんせーくるよ……?」
「渚も怒りなよ!!こいつの態度おかしいじゃん!だいた――「ほんっっと、嫌いだわ」

中村莉桜の言葉を遮るように、そう言った。

「この状況で先生がくるよ、って小学生?止めに入って何がしたいの?そんなにみんなに嫌われたくない?そこまでしてイイ子でいたい?これだから気が弱い奴は嫌いだわ。結局なにもできないだけじゃない。流されてるだけ。それなのにイイ子でいたいなんて、贅沢過ぎる」

うつむいて下をむく潮田渚。でも、それさえも気に入らない。あと一押し何か言ってやろうと思って口を開いたところで、傍観していたクラスメイトから声がかかった。

「黙れよ」

中村莉桜でも、潮田渚でも、片岡メグでも、誰でもない声。気がつけばクラスの全員が私を睨んでいて、批難の目を向けてくる。誰かの「黙れよ」、の一言で、堰を切ったように不満が流れてくる。

「もうA組じゃないのに偉そう」「E組のことばかにしすぎ」「態度悪い」「渚がかわいそう」「メグの気も知らないで」「これじゃあE組に落ちたってしょうがないでしょ」「そもそもA組で友達いたのかよ」「そんなに嫌ならE組にだって来なくていいよ」「出てけ」……………

「………なによ。本当のこと言ったまでじゃない」

一人で何もできないくせに。誰かが不満を言えば自分も便乗して。自分一人で考えたことなんでないくせに。

「いっつもE組は被害者ぶる。全校生徒からのいじめ?差別?当然だわ!!!!だって勉強できないあなたたちが悪いのよ!!!」

勉強が出来なくてE組に落ちているのに。自業自得なのに。

「私たちA組が、天才かなにかとでも思っているの?ばかじゃない!?そんなわけないでしょ!!!A組はね……ずっとずっと努力し続けてきたの!あんたたちができない、無理だって言ってる間にも、ずっとずっと努力してきた!!!だからA組にも入れるのよ……。天才なんかじゃない。あんたたちよりも努力が多いだけ……!!!!それをやろうとしないあんたたちは、天才だとか、造りが違うだとか言って……!人の努力は認めずに……!!そんなの侮辱だわ!!!」

諦めているからできないのに。やろうとしないからできないのに。できる人は、努力しているのに……!!

「何も分かっていない!!やらないあんたたちは、できないって最初から言ってしまうあんたたちは、何も分かっていない!!」

私は本当に、E組が大嫌いだ。人の努力は認めず、自分ができないことは仕方ないと諦める。努力している人が何人もいるのに。諦めない人が何人もいるのに。それを見ようとしない。しょうがないと逃げて、それでいて差別だと喚いて。

「大嫌いよ!!!!」

思いっきり叫んで、教室を飛び出した。もうそろそろ授業が始まる時間だけれど、やっぱり誰も追いかけては来なかった。

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