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歓声が鳴りやまないグラウンドで、私はただ静かに、先刻のことを思い出していた。

「久しぶり」

優しい水色の瞳を細めて、彼はいう。応えない私のことなど気にせず、グローブを片手に話し始めた。

「次、男子試合なんだ」

ーーみんな野球なんてやったことないんだけど、一生懸命練習してさ。そしたらこれが、意外に……

そこまで言って、言葉を切る。そして少しうつむいて、はにかみながら言った。

「結構楽しいんだ」

彼は多くは語らない人だと思う。自分の考えを積極的に伝える人ではないと思う。だからこそ、彼の感じた気持ちをストレートに聞くのは新鮮で、こんなかわいい顔もできるのかと思った。
私はE組を嫌いと言い切るには彼らを知りすぎた。一生懸命戦おうとする姿を、逆光にも負けないという気持ちを、この肌で感じてしまった。そして、好きというには彼らを知らな過ぎた。暗殺教室として、どんな風に全員で暗殺してきたのか。どんな計画を立てているのか。中学生として、休み時間は一体どんな話題で盛り上がっているのか。
挙げればきりがない。

『E組!三点先取!!!』

まずは、知ることから始めようか。
盛り上がる生徒の間を縫って、グラウンドから離れる。校舎近くの日陰で、よく知るむかつく奴を見つけた。

「もう帰るのか」
「日焼け止め塗り忘れたのよ。焼けちゃうわ」
「引きこもりは焼ける機会なんて、ないだろう?」

意地の悪い顔で嫌味を吐く。心底腹が立つが、それすらもなんだか懐かしい。

「天下の浅野様は下僕どもに日傘でも持たせればいいですものねぇ」

にぃっと奴の口角が上がったのを見て、私も自分が意地の悪い顔をしていたのだと気が付く。
あぁ、本当にこいつは

「「さっさとくたばればいい」」

綺麗に声が重なったところで、グラウンドからの試合終了の合図が、遠く遠くに聞こえた。

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