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まず、なにから説明しようか。

そう自問自答を繰り返しながらの通学路は、長いようで案外短い。結局答えは出ないまま、椚ヶ丘中学の正門前までたどり着いてしまった。
約一週間ほどの引きこもり生活からなんとか抜け出してから初の登校日となる今日。遅刻はいけないと、いつもより少しだけ早く家を出た。けれどいつの間にか私の足は遅くなったようで、旧校舎へ向かう足取りはどんどん重くなっていく。下駄箱に着いたのは、いつもよりも遅い時間だった。

ぎしぎしとうるさい床をそっと、誰に聞かれているわけでもないがそっと足を忍ばせて教室の前まで行く。教室内はすでににぎわっていて、気を遣わずとも私の足音など聞こえなかっただろう。

さて、まずなにから説明しようか。

迷ったところで答えは出ない。行動あるのみ。半ばやけくそとなった私は、勢いよくドアを開けた。

「ごめんなさい!」

ドアの衝撃音により静まり返った教室に、私の声が響く。思ったよりもしっかりしていて、通る声だった。

「私、今までずっと誤解していたんだと思う。何も知らなかったんだと思う。そういって許されることではないなんて、分かってるけど、でも、謝らしてほしい」

ごめんなさい

強く強く、今の私の思いをすべて詰めて、そう言った。
「これから、仲良くしてほしい」、その一言を言うために。もっと素敵な言い回しもあるのかもしれない。もっと格好の付く言い方もあるのかもしれない。けれど、私の気持ちを伝えるにはこれしかないと思った。

「これから………、もしもみんなが、許してくれるなら、」
「ちょっと待って」

「全部、1人で言っちゃうつもり?」

教室の奥から、中村莉桜が声を上げた。私の前に立ちはだかる彼女は背が高くて、どうしても見下ろされる形になる。

「………お互いさま、でしょ?知らなかったのも、知ろうとしなかったのも、全部」

彼女はそのまま、右手で私の右手を掴んで、言った。

「『これから、仲良くしてほしい』、よ」

そのとき彼女がこぼした笑顔も、私がこぼした笑顔も、お世辞には綺麗とは言えない、涙にぬれたものだった。
クラス内が静かにしていたのはその一瞬だけで、すぐにまた、にぎやかさを取り戻していく。いつもと変わらずに、自然に広まっていくクラスの輪の中に、ようやく、私も入ることができた。

「おはよう、藤田さん」
「おはよう」

無邪気に笑う彼は、きっとどれだけ私を助けたか、自覚がないのだろう。

「……抱きしめた責任はとってね」

少し、意地悪してやろうか。少し、気が付かせてやろうか。そんなつもりで言った一言に、「え、それって、え!?」と、顔を赤らめて慌てる彼。
気が弱くて、ヘタレで、小さくて、ひょろっとしてて、頼りなくて、……上げたらきりがないほど草食系なのに、それでも私は彼に救われた。それでも私は、あのときの笑顔を素敵だと思った。
まだぐちぐちと何かを言いながら、どんどんゆでだこのようになる渚。はぁ、全く……。

「うるっさいわね!!好きだって言ってんのよ黙ってはいって言っときなさい!!」
「は、はいぃぃぃぃ!!」

面と向かって付き合うことは難しい様だ。

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