瞳も震える冬の夜

静まりかえった夜の街。いつもならば薄暗いはずの住宅街も、今日だけは明るい。誰もがきっと、新しく来る年に期待を寄せているのだろう。テレビの前で大笑いしている人も、気持ちよく歌を歌っている人も、既に寝てしまっている人も。みんな。

静まりかえった街は、まだ眠らない。23時を過ぎたころ。マフラーに手袋、コートを羽織った完全防備で人々は初詣へと向かう。
ここにも、それに参加しようとする青年たちが、いた。

「なぜあなたと行かなくてはいけないのかしら」
「同感だ。僕も君とは行きたくなかった」

生憎、来る年に期待を寄せた、微笑ましい2人ではないが。

「美帆に友達がいないのは前からだ。僕以外一緒に行けるような奴はいないだろう」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。あなたも避けられているくせに」

近寄りがたい浅野と美帆に、一緒に初詣に行くような友達はいない。だが決して、友達がいないわけではない。決して。近寄りがたいだけ。それだけだ。
腐れ縁の2人は、憎まれ口を叩こうとやはり落ち付ける仲。吐く息の白さに嫌になりながらも、2人は真っ直ぐに進む。
寺院につき、ふと前に目をやったときだった。

「あれ、E組じゃない?」

美帆が声を上げた。つられて浅野も目を向ける。彼らの少し前に、クラス全員だろうか。かなりの大人数で参拝に来ているE組の姿があった。

「いいわねぇ〜、成績下位は。年末も気楽で。これ以上下がりようないものね」

至極意地悪な顔で皮肉を飛ばす美帆。

「よく気がついたな」
「目立つ水色の髪が見えたからね」

彼らの頭の中には、もう初詣の二文字は入っていない。E組を見たら、まずどうするか。A組生徒として、生徒会本部役員として、どうするか。決まっている。からかわなくては。

そちらに一歩踏み出す。すると、今まで他の参拝客で見えなかった彼らの表情が見えた。

「…………………」

楽しそうに、嬉しそうに、とても笑顔だった。クラス全員で初詣。全員そろって、笑顔で、新年に。

「……新年くらいは、大目に見てあげようかしら」
「僕らは彼らと違って………、暇じゃないからな」

何事もなかったかのように参拝する2人。決して、笑顔で参拝する彼らを羨ましく思ったわけではない。決して。
成績底辺であるからこその笑顔よね。そんなの、気にしなくていいわ。
自分に言い聞かせ、美帆が後ろを振り返ったときには、もうE組はいなかった。
静まりかえった街は、まだ、眠らない。

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