「失礼します。」
震える声で静かにそう言いノックをする。「どうぞ。」いつものように、余裕のある声が返ってきた。もしかすると彼は、美帆が恐怖に震える姿を、扉の向こうで楽しそうに笑っているのかもしれない。
部屋の中には、見慣れないスーツの男性がいた。きりっとした、いかにも仕事のできるといった風の男性。世間一般の言うかっこいい部類に属すると見る。隣にはショートカットの女性。こちらもデキる女といった雰囲気が出ていた。
彼らを目の橋に捉えながら、促されるままに黒いソファに腰を下ろす。入学してこれまで、1度も座ったことのないソファだった。
ふぅ、一息ついた所で、やっとその場の空気が少し緩んだ。それを確認した男性が口を開く。
「防衛省の烏間という者だ。まずは、ここからの話しは国家機密だと理解いただきたい。」
防衛省。国家機密。
あまりにも自分とかけ離れた単語に、頭にクエスチョンマークが飛び交った。これは一体誰に向けていっているのか。ちらり、理事長先生を見るも、彼はいつもの微笑のまま。
けれど静かに聞け。オーラがそう言っている。
「数か月前、月が突然爆発し、7割ほど蒸発するという事件が起こった。」
美帆が黙っていると、彼は話しを始めた。
「世界はそれ以来、一切原因に触れてはいない。だが、あれには犯人がいる。」
そう言って目を見る。たった15歳。小さな日本の、小さな学校の、そのなかのたった1人のまだ歳も行かない少女に、彼は一体どんな答えを望んでいるのか。
目をそらさぬまま、彼は1枚の写真を取り出した。
「この生物が、月を爆発させた犯人。来年には地球も爆発する予定だ。この事を知っているのは各国首脳のみ。世界がパニックになる前に、秘密裏にこいつを殺す。成功報酬は100億円。この椚ヶ丘中学校3年E組は、クラス全員でこいつを殺す訓練を受けてもらっている。言わば、暗殺教室だ。」
「は?」
美帆の口は、確かにそう動いた。けれど、その口から音が発せられることはなく、ただただ息が漏れるのみ。
地球、爆発、各国首脳、世界、暗殺、E組。
脳はとっくに許容できる範囲を超えていた。なぜE組が?なぜ中学生が?なぜ、地球を?
分からない。分からなかった。
「生徒と暗殺者、それ以外に奴の存在を知る人は誰もいなかった。だが、先日、見られてしまったんだ。君に。」
あぁ、そういうことか。なるほど、結局は、あぁ、そんなことで。そんなことで私は。
「もう分かりますね。藤田さん。」
今まで黙って聞いていた理事長先生が口を開く。柔らかなその声で、ゆっくりと、優しく、美帆に死刑判決を告げた。
「あなたは明日からE組の生徒です。」