師匠おめでとう話2016


「霊幻さん、誕生日おめでとうございます」
「…は?」

モブの姉が事務所に来たと思えば第一声が思いもよらぬものだった。
ああそういえば今日は10月10日か。

「そうか…確かにそうだな」
「忘れてたんですね。これ、どうぞ」
「おーサンキュ」

渡されたのは丁寧に包装された細長い箱。
慎重に開けていくと、深い青色をしたネクタイだった。

「ネクタイか」
「私が好きな色です」
「誘ってんのか?」
「そう思いますか?」

にこ、と綺麗に笑う雪に「思う!!」と即答すれば笑顔のまま「違います」と否定された。

「ケーキも用意しましたけど…茂夫が来るまで待って下さい」
「え?モブも来んの?」
「部活があるので、それが終わったらって」
「マジか…」
「嬉しそうですね」
「素直に嬉しいぞ」
「良かったです」

青のネクタイを手に持ち、雪は自分の首を指した。それに促され今使っているピンクのネクタイを外すと、青のネクタイが首に回される。

「人のネクタイを結んでみたかったんです」
「人のは難しいぞ」
「練習は一応したんですけど」
「え?練習したの?俺につけるために?」
「はい。蝶々結びにする訳にもいかないでしょう?」
「期待していい?」
「ダメです」

ぴしゃりと言い放たれ、肩を落としてネクタイを触る雪の手元に視線を向ける。女らしい小さく色白の手は、たどたどしい手つきでネクタイを結んでいる。嫁がいたらこんな感じだろうか、と思いつつその動きを眺めていた。

「…及第点、ですかね」
「いや追試」
「次は蝶々結びにしましょうか」
「やっぱり及第点だな」

出来上がったそれは綺麗とは言い難いものの、何とか形は成している。むしろ練習してきたというからポイント高めだろう。

「ありがとな」

素直にそう言うと、雪は笑ってネクタイを撫でた。

「誕生日おめでとうございます、霊幻さん」

20161010


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