石化復活後のスタンリーの仕事は拠点周辺の警備や科学に必要な鉱石などの素材を集めてくること、そして野生動物を狩猟して食料の確保することである。それらを日々ローテーションで元軍人の者たちが小編成で実行している。そこに、昨晩スタンリーの仕事にたばこの葉の収穫という任務が加わった。これはスタンリーにだけ特別追加された任務ではあるが、彼にとっては一番の死活問題に違いなかった。
ナマエと交渉成立した翌日、スタンリーは見回りの前にラボに寄った。そこには相変わらずゼノが居て、そこから少し離れたところでナマエが何やら設計図を見ながら難しい顔をしていた。ゼノがスタンリーに気付いて声をかける。
「おはようスタン、無事煙草をもらえたんだね!」
「まあ、タダではないけど一応な」
「ちなみにラボは火気厳禁だ」
「ついてねえよ咥えてるだけだ」
「それなら構わないよ。ところで、何か用でもあったのかい?」
ああ、いや、ゼノじゃなくてナマエに用があんだわ。と言うとゼノはそうか、といって彼もまたナマエのように設計図のようなものに向き合ってしまった。スタンリーはナマエの方へと足を進める。昨日は暗くてよく見えなかったが、この明るい時間帯に見てもやはり彼女の顔色は悪かった。目の隈に関しては昨日に比べていっそう濃く見える。名前を呼んぶとナマエは顔を上げておはようございます。と言った。
「葉の余り貰いに来たんだけど」
「はい、」
ナマエは返事をするとデスクの横にあった木の箱から麻袋を取り出してスタンリーに手渡した。中を見ると少しだけ葉が入っている。これがたばこの葉らしい。既製品の煙草しか見たことがなかったスタンリーには初めて見るものだった。
「んじゃ適当に取ってくるわ」
「はい。あればあるだけ沢山作れますから」
「OK」
そう言ってラボを後にする。スタンリーには植物を細かく見分ける知識はない。有名な猛毒の植物などはある程度頭に入っているが、それ以外についてはさっぱりである。その点、ナマエが選別は行うと言ってくれたことはありがたかった。とりあえず、見回り中に似たような葉があればとって来ることにしようと麻袋片手に仕事に向かうのであった。
***
日が落ちてもナマエはラボに居た。一日の殆どをラボで過ごすナマエは、今日は朝見ていた設計書から模型に起こしているところらしい。細かい部品を熱心に組み立てている。見回りから帰ってきたスタンリーは、その模型に見覚えがあった。否、見覚えどころではない。あれはライフルだ。
「いいもん作ってんじゃん」
「うわっ、……驚かせないでください」
「あー、悪かったよ」
両手を挙げて降参のポーズをするとナマエはふう、と息を吐いて「お疲れ様です」と言った。日も暮れるというのに、近づいても気付かないほど集中しているとは、ご苦労なことである。スタンリーは朝ナマエから受け取った麻袋をデスクの端に乗せた。中には今日とってきたたばこの葉(であろうもの)が入っている。
「ありがとうございます」
「自分のためでもあるかんね。作るのは任せるわ」
「はい、明日の朝にはお渡ししますよ」
ナマエは麻袋を受け取って今朝取り出した木製の箱の中に入れた。今は模型を優先するらしい。明日の朝に新しい煙草がもらえるということは、ラスト一本はもう吸ってしまってもいいかもしれないと思った。それに、もう一つ気になるのはナマエが作っている模型である。
「それ、いつ撃てんの?」
「まだかかりますよ。模型ができてから鉄で作成しますから」
「ふうん」
「できたらスナイダーさんに一番に撃たせるとDr.ゼノが仰っていましたよ」
そりゃ俺以上のスナイパーはいないかんね。と頷いた。ライフルを撃てるのはもう少し先になりそうだと思う。それでも、ゼノの設計した城の建築を進めながら武器にまで至るまで早い方だとも思う。それはゼノとナマエが非常に優秀な科学者であり、彼らを取り巻く技術者たちの技術が間違いのないものであることを示していた。
「あんた飯は?」
「これを終わらせてからにしたいので、後で摂ります」
「ふうん、じゃあ煙草は頼むわ」
「はい」
ナマエはまた模型に向き合った。日もだいぶ落ちてきて、あたりは薄暗い。食堂となっている簡易な建物には人が集まっている。夕食時である。スタンリーはそれをみて、一服してから行こうと手持ちの最後の一本に火をつけた。
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