再会
「……やっぱりお前だったのか…土方…」
「あぁ、久し振りだな…速水!…球高卒業以来か……」

ここは球川小学校のグラウンド。
この地区に所属する各学校の闘球部やクラブチームが集まり、今まさに全国闘球選手権の地区予選が始まろうとしていた。
この地区予選を勝ち抜いた2校がシードのクラブチームと共に県大会に進み、そこでまた勝ち抜いたチームが全国大会への出場権を手にする事が出来る。つまり、まずはここを勝ち上がらなくては全国は見えてこない…全国という高みを目指す俺達にとってかなり大事な大会だ。

大学卒業後、念願叶って球川小の教員となった俺はこの伝統ある球川小闘球部の顧問に就任し、子供達の指導にあたっていた。そしていよいよ迎えた全国闘球選手権に向けてのこの予選会…俺は部員の子供達と共にこの大会に臨んでいた。

そしてこの会場で…俺は懐かしく…そしてとても大切な仲間との何年ぶりかの再会を果たしていた…


この地区予選が始まる2週間前に学校に届いたこの予選会の要項…大会の規定や出場するチーム名、対戦表などが載っている大切な書類だ。
俺は教務室で自分の机に向かい、書類に目を通す…
見るとこの地区予選はAとBの二つのブロックに別れて試合が行われるらしい…俺達球川小はAブロックだ。
試合時間や対戦相手…どれも大事な情報ばかり。俺はこの要項を丁寧に読み進めて行く。
…そして…出場する各チームのページに目をやった俺は愕然とした。

「……ええっ?!!…」

思わず出てしまった俺の大きな声…その声に周りの教員達は驚いた様に俺を見ている。

「…速水先生どうしたんですか?!…なにか…」
「あっ!…いや!…すいません…なっ…なんでもないです!」
俺は慌てて声を潜めた。

……俺は……俺は我が目を疑った…
俺達球川小と別のBブロックの参加チームの顧問の欄…そこに俺が絶対忘れる事のなかった懐かしい名前…俺が会いたくて会いたくて仕方なかったヤツの名前を見つけたのだ。

その名前は……土方勝……
コイツは俺と高校まで闘球部で共に汗を流した仲間であり四天王の一人だった男だ。

…あの土方なのか?…それとも同姓同名のまったくの別人?…いや…まさか……
俺の頭の中に懐かしい土方の顔と共に様々な考えがぐるぐると駆け巡る。


球川高校卒業後も俺達四天王と三笠は連絡を取り合い、仲の良い俺達はたまにみんなで会ってはお互いの近況報告をしたり闘球をしたり…学生の頃の様に一緒の時を過ごしていた。それはみんなが社会人になり、忙しくなっても変わらず続いている。
……ただ一人、土方を除いては……

俺達はみんな県内の大学に進学して就職していたが…土方だけは一人県外の大学を選んで進んでいた。
大学時代も頻繁に連絡を取り合っていた俺達だったが…どうしても土方だけは連絡が取れなかった。三笠や俺が何度も連絡しても電話もしてこなければ手紙もよこさない。
土方はそもそもマメに連絡する様なタイプの男ではない…それはよくわかっている。
大雑把で鈍感でデリカシーがなくて……でも実直で素直で心も身体も大きい男…誰よりも仲間を大切にし、裏切ったりなんて絶対しないヤツだ。
だからこそ仲間である俺達に連絡をしてこない土方が俺は不思議で仕方なかった。
…もしかしたらなにか病気になったんじゃないか…なんて変な心配までしてしまったり…

土方と連絡が取れない日々が続き…月日が経つ内に、土方に会えない事は俺達の中では当たり前になってしまっていた。
俺も最初こそ心配していたが、その心配は次第に連絡をしてこない土方に対しての怒りに変わっていき……

……土方はもう俺達と会いたくないのかも知れない……
土方に会いたいという俺の仲間を思う素直な気持ちは最後には諦めに変わってしまい…いつしか連絡も取らなくなっていった。
それからも俺達は時々みんなで会っていたが…土方とだけはそのままに…
でも、もちろん俺達は土方を忘れた事はなかった…土方に会いたいという気持ちはずっとずっと変わらなかったのだ。


…何年ぶりだろうか………
俺の目の前にいる男…それは間違いなく俺が会いたくて会いたくて仕方なかった土方だ。

「予選会の要項見た時にお前の名前を見つけてさ……まさかと思ったよ。土方……お前が教師になってたなんてな!」
「ははっ…まぁな!速水、俺もお前の名前見つけて嬉しかったぜ!まぁお前が教師ってのは予想通りな感じだけどな!」
懐かしい顔はそう言うとニコッと笑った。

「お前…確か大学は県外だっただろ?一体いつこっちに戻ってきたんだよ。」
「そうだな…大学終わって、教員の免許取った後こっちの学校に移動願いを出したんだ。今の学校がちょうど闘球部の顧問を探してて…俺が闘球経験者って事もあって結構すんなり移動できたんだぜ。」
「…そうか……まったく…お前はちっとも連絡よこさないで…」
「…ははっ!わりぃな!」
「とにかく…お前が元気でよかった…本当に安心した!」

…連絡をしてこない土方にあんなに怒っていたのに…腹を立てていたのに…いざ会えるとそんな事は少しも思わなくて…俺にあるのはただ土方に会えた嬉しさだけ。
土方の事が嫌いになった訳ではないし忘れた事もない…ただ土方に会えなくて寂しかっただけ。
連絡をしてこない事に怒った事も、諦めた事も…会えた途端に全て許せてしまう……仲間とはそういうものなのか…俺は土方の笑顔を見ながらぼんやり思う。

でも…どうして土方は俺達に連絡をしてこなかったのか…俺がずっと抱き続けた疑問…なにか理由があったからなのか?…俺はその自分の中のモヤモヤした思いを土方にぶつけた。

「なぁ土方…お前どうしてずっと誰にも連絡しなかったんだ?…俺達にみんなお前に会いたくて連絡してたのに…お前は本当に音信不通で。俺達みんなすごく心配してたんだぞ……」
「……すまんな……みんなから連絡があったのはわかってたんだ………」
「…じゃあなんで…」
「俺…決めてたんだ!…教師になってここに戻ってくる…そして闘球を子供達に教える…それまでは一人で頑張るって!」
「……土方……」
「まぁ、結果的にみんなには心配かけちまったけどな!…俺はめちゃくちゃ元気だから大丈夫だぜ!…すまなかったな!」
土方は悪びれもせず、ニコニコと笑いながらあっけらかんとしている。

「…まったく……呆れたヤツだぜ……」
……こっちの心配も怒りも知らず…何にも言わないで一人で決めて…自分勝手に頑張って……本当にコイツは大胆で無鉄砲で………やっぱり…やっぱり土方は大したヤツだぜ…

教員の免許を取るという事がどれ程大変な事かは同じ教員の俺が一番よくわかる。
俺達に頼らず、たった一人で見知らぬ土地に行き…一人で頑張ってきた土方…そしてちゃんと結果を出して帰ってきた…
俺の中に自分勝手な土方への呆れと共に尊敬の気持ちが沸き上がる。
土方という男はそういうヤツなのだ。

…まったく……相変わらずだ!この男は…鈍感でデリカシーがなくて…でも誰より素直で努力家で……
……土方は何にも変わってない……あの頃の土方のままなんだ……

そう思うと何だか可笑しくて嬉しくてそんな土方がすごく大切で……俺の胸がじーんと熱くなってくる。
…なんだか涙が出そうだった。

「…おい土方…知ってるか?…」
「ん?」
「三笠達の事!」
「…あぁ、少しならな。風見が何回か手紙くれて教えてくれたから…」
「……風見が?…」

風見は俺の仲間で四天王の一人…土方と一番仲が良かったヤツだ。
…風見のヤツ…手紙を送ってるなんて俺に一言も言わなかったくせに……やっぱり土方の事心配してたんだな………
風見はとても優しい男だ。きっと土方から返事がなくても諦めずに手紙を書き続けていたんだろう…風見の土方を思う気持ちに俺は嬉しくなる…


「三笠は球川のクラブチームのコーチ…火浦と風見は社会人のチームに所属して審判の資格を取ったみたいだ。俺はご覧の通り、球川小闘球部の顧問をしてる。……みんな土方が大学に進んだ後、どうしてるかわからなくて心配してたんだぞ。」
「そうか…俺だって気にはなっていたぜ。みんなに会いたかったしな…でも……」
「……でも?」

「……俺は信じてたんだよ。みんなとはまた必ず会えるって。みんないつかここに戻ってくるって…」
「…………」
土方は急に真剣な顔になり…俺を見据えた。
その真剣で熱い…真っ直ぐな眼差しに俺は言葉を失う……

四天王として夢中でボールを追いかけたあの頃……俺達四天王と三笠は信頼と友情で結ばれた最高の仲間だった。それは俺にとって、永遠に色褪せる事のない大切な大切な思い出……そして、彼らと深く確かな仲間であることは今でも何ら変わりはない……そしてそれは土方にとっても……
離れていても…連絡を取らなくても……俺達は土方を思い、土方は俺達を思っていた。
その事を実感した俺の胸が再び熱くなる…


その時、会場内に大きなアナウンスが響いた。

ーこれから地区予選、Aブロック第一試合を始めます!!

「お!速水、お前のブロック始まるぞ!俺はBブロックだからな。」
「……土方…A・B各ブロックをそれぞれ勝ち抜いた2校がシードの三笠のクラブチームとともに県大会へ行ける……そこでは火浦と風見が審判をするはずだ……」
「もちろん…もちろん知ってるぜ…」
土方がニヤリと笑う。

「……土方…絶対勝ち抜けよ!」
「約束するぜ!俺のチームは強いからな。パワーNo.1剛球の俺のチームの力、見せてやるよ!……お前もだぞ、速水!」
「当たり前だ!県大会で三笠が待ってるしな。次にお前のチームと戦う事になったら、力だけじゃ勝てないって事を教えてやるさ!」
俺と土方は一気にコーチの顔になる…

「なぁ速水……これから面白くなりそうだな…」
土方が俺に右手を差し出してニコッと笑った。

「……ああ!……」
俺も笑顔でその手をしっかり握る…俺達はしっかり互いを見据え…力強く握手を交わした。

ーピピーーー!、

各チームの集合を知らせるホイッスルが鳴り響く。
俺と土方はそれぞれのチームの元に駆け出した……




*設定も環境も完全な捏造話です!…でも、こんな風に成人しても…生活環境がそれぞれ違っても…いつまでも「三笠主将と四天王」であって欲しい!みんな何かしら闘球に関わっていて欲しい…と思っています♪
管理人の中で三笠主将&四天王の友情は永遠…
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