恋する魔法にかかったら…
ードキドキドキドキドキドキドキドキ…

兄の勇一を見る度に…話をする度に激しく高鳴る俺の心臓…
…俺は一体どうしたっていうのか…

事の発端は今日の部活の練習の時。

「…あっ!こら!弾平待てっ!」
「ははっ!武田さんおっそいよ〜!こっちこっち〜!」
弾平とじゃれあう俺の兄さんの勇一…
兄さんと闘球部メンバーで4年の弾平はすごく仲がいい。性格が似てるからか時々ものすごいケンカをするけど…俺から見たら仲がいいからこそケンカ出来る…って感じだ。
そんな二人は練習の休憩中にこんな風に仲良くじゃれあって遊ぶこともしばしば…弾平は一人っ子で父親もいないから、俺の兄さんを自分の兄や父親みたいに思ってるのかもしれない。
兄さんは男らしくて強くてしっかりしてすごく頼れる男だから、弾平がこんな風に慕うのも無理ないけど…
正直言って、俺は大事な兄さんを弾平に取られたみたいな感じがしてちょっと嫉妬しちゃう…でもそんな事言ったらみんなに笑われちゃいそうだから誰にも言わない!

この日もいつも通りに弾平と兄さんはふざけあっていたんだ。
まるで鬼ごっこをしてるみたいに逃げる弾平を追いかける兄さん…
まるで本当の兄弟みたいに笑顔で仲良さそうに遊ぶ二人……俺はあんまり見ないようにしてたんだけど…やっぱり嫉妬しちゃう。

…あ〜もう!弾平のヤツ…俺の兄さんなのに!早く休憩終らないかな……
なんて俺がぼんやり考えていたその時!突然俺の耳に聞こえた弾平の大きな声!

「あっっ!勇二さん危ないっ!!…」
その声と共に俺の身体に誰かが激しくぶつかってきた!
…その勢いに押されてドサッ…とその場に倒れ込む俺…

「…うううっ……」
…お…重い…

グラウンドに倒れ込んだ俺の上には誰かが乗っている。
よく見ると…それは兄さん!…俺の上に覆い被さっているのは兄さんだ!
どうやら弾平との悪ふざけが過ぎて俺にぶつかったらしい…

「いてて…ゆっ…勇二…ごめん!!大丈夫か?!」
「…う…うん…」
慌てて俺の上から降りた勇一が俺の手を引っ張って起こそうとする。
勇一に手をぎゅっ…っと握られたその瞬間…俺の胸がドクンっ!!…っと激しく波打った!
その大きな胸の高鳴りに俺は思わず勇一の手をバッ…と振り払ってしまう…

「だっ…大丈夫!!…大丈夫だから…」
「…そ…そうか?…」
繋いだ自分の手を激しく振り払った俺に呆気に取られていた勇一…すぐに穏やかな顔になって俺にとびきりの笑顔でニコッと笑いかけた。
「ごめんな!勇二!」

俺に向けられた勇一の優しい笑顔……その時…俺の心臓が再び大きくドクンっ!!…と高鳴り…

ードキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ…

そこから始まった俺の胸の激しい鼓動。
そのドキドキは一向に止まらず…それどころか時間を追う毎により一層大きくなっていく…


「…弾平!いてーじゃねーか!勇二に謝れよっ!」
「ははっ!ごめんね!勇二さん!」
「い…いや……」
俺はその胸の苦しいほどのドキドキが辛くて仕方なくて息が詰まりそうで…弾平の言葉にもそう答えるのが精一杯…

「ほらっ!弾平がバカだからこんな事になんだよ!」
「なんだよ!ひでーなぁ〜武田さん!バカはかんけーねーだろ?!」
ケンカ腰に言い争う勇一と弾平。
俺はその激しく高鳴る胸のドキドキにすごく動揺してしまって…そんな二人をぼんやり見ているだけ…
その時…遠くから俺達を呼ぶ尾崎主将の声が聞こえた。
「おーーい!そろそろ練習始めるよー!」


「あっ!練習もう始まるぜ!勇二…弾平!早く行かねーと!」
「うんっ!」
尾崎主将の元に走り出した勇一に弾平も付いていく。
そんな二人の後ろ姿を見つめながら俺は一人まだぼんやり…

「…勇二!どうした?早く行くぞ!」
「…あっ…う…うん……」
勇一の大きな声にハッとした俺は慌てて二人の後を追いかけた。



それから俺は変なんだ。
闘球部の練習が終って…いつも通りに勇一と歩く帰り道…
当たり前に隣を歩く勇一に俺の胸がドキドキドキドキ…
家に着いて夕飯を食べる時…
俺の隣で美味しそうに夕飯を頬張る勇一にドキドキドキドキ…
二人一緒の部屋でのんびり過ごす時…
隣で寝転んで楽しそうに漫画を読む勇一にドキドキドキドキ…

勇一を見ると…ドキドキドキドキ…勇一と話すと…ドキドキドキドキ…
とにかく勇一がそばにいるだけで俺の胸がドキドキと異常なくらいに高鳴ってしまうのだ。
特に勇一が俺に優しい笑顔を見せると…なんだか俺の胸の奥がきゅーーーん…と締め付けられる感じがして…そんな勇一をすごく可愛い…って思ってしまう。

俺の心を完全に支配しているこの甘い甘い甘過ぎる感覚…これは一体なんなのか?…
今の俺はとにかく勇一のそばにいたくて一緒にいたくて離れたくなくて話したくて勇一が可愛くて勇一が大好きで………んんっ?!すっ…好きで?!…勇一が大好きで?!…
俺は勇一が好き?……あ…そうだ…俺は勇一が好きなんだ。
ええええーーー!!!つ…つまり…その…お…俺は勇一に恋してるのか?!!!…
勇一への恋愛感情溢れる自分の気持ちに気付いてしまった俺…

…そ…そんなのダメだ!ゆ…勇一は俺の兄貴だ!俺達は実の兄弟だ!恋なんてする訳がない!…まさか!……
兄弟の勇一にそんな恋愛感情を持っていい訳がない!俺は慌ててその気持ちを否定しようとする。
でも…「俺は勇一が大好き…」そう思うと俺のドキドキふわふわする甘い心がなんだかすごく落ち着く…俺の勇一を思う甘い気持ちにその言葉がぴったり合っている気がしてならない。

確かに俺達はすごく仲のいい兄弟だ。
勇一とは幼い頃からいつも一緒に遊んだり勉強したり…とにかく俺のそばにはいつも勇一がいてくれたんだ。
勇一はすごく優しくて強くて弟思いで…俺はそんな勇一を尊敬もしてるし大切だとも思う。もちろん大好きだ。
でも、それはあくまで兄として兄弟としての「好き」で…それ以外にはなにもなかったのに!
…でも…今の俺の「好き」はそれとは明らかに違うんだ。この好きは…確かに「勇一に恋してる恋愛的な好き」…


この恋する乙女の様な胸のドキドキとトキメキ…ふわふわした甘〜い感覚…俺は……完全に自覚してしまった………
…俺は勇一に恋をしてるんだ……

…どうしよう…どうしよう…どうしよう……兄弟の勇一に恋するなんて…俺はどうしたら…

隣で楽しそうに漫画を読む勇一を横目で見ながら俺は一人激しく動揺する…
勇一は漫画から目を離すとチラッと時計を見た。
「あ!そろそろ風呂入って寝ねーと…ゆーじ!早く入ろうぜ!!」
「…えっ?……」
「風呂だよ風呂っ!一緒に風呂入ろーぜ!」
「…えええっ?!…いっ…一緒にお風呂ぉ?!…」
「なーにそんなに驚いてんだ?いつもの事だろ?」

…確かに…いつもは俺と勇一は一緒に風呂に入っている。二人で汗を流した後に湯船に浸かって今日の練習の事や次の試合の事…学校の事なんかを話したり。闘球部の練習はとにかくハード…もちろん学校の事もきちんとやらなければならない。時間に追われて日々を過ごしてしまう事も多い…そんな毎日の慌ただしさの中で、この一緒に風呂に入る時間だけが唯一俺が勇一とゆっくり話せる時間。俺は勇一に色んな事を話したり相談したり…二人っきりだとすごく素直になれるんだよな…
勇一と二人で過ごすこの時間は俺にとってすごく大切な時間だ。

確かに今まではただの “ 仲のいい兄弟の時間 ”
…でも…今の俺にはそれだけではないんだ。ふわふわと恋をしている俺にとって勇一はその恋する相手…大好きな人…
大好きな人と一緒に風呂に入るなんて…そんなのものすっごく恥ずかしい!
風呂に入るには裸になる…しかも全部…上も下も全部だ!
一緒に風呂に入ると言う事は…勇一の裸を見てしまうという事じゃないか!そして俺ももちろん裸…つまり…二人で裸という事だ!…まぁ風呂に入るんだから当たり前なんだけど…

……こんなにも勇一に恋してる俺…一緒に風呂なんて…勇一の裸を見るなんて…絶対無理!!
昨日まではなにも思わず当たり前にしていた事なのに……勇一に恋する俺にはとんでもなく大変な事だ。
そんな俺の気持ちも知らず…俺と風呂に入るのが大好きな勇一は嬉しそうに着替えを用意している。

「さぁ〜勇二!汗かいたし早く入るぞ!」
「ちょ…ちょっと待ってよ…おっ…俺は後で一人で入るから…」
「はぁっ?いつも二人で入ってるじゃねーか…」
「…いや…だって…その……裸が…」
「……んんっ?なに言ってんだ?遅くなると母ちゃんに怒られっから早く入るぞ!」
勇一は抵抗する俺の手を無理矢理引っ張って風呂場に連れていく。
その無理矢理繋がれた勇一の手にすら俺はドキドキ……こんな些細な事でもドキドキしてしまうのに…一緒にお風呂なんて…

俺は勇一に強引に引っ張られながら風呂場に入る。
狭い脱衣場は大柄な勇一と俺の二人で窮屈なほど…俺のすぐ隣には大好きな勇一が…手を伸ばせば届いてしまうその距離に俺はひたすらドキドキ…

…ど…どうしよう…勇一と一緒に風呂なんて……
俺は裸になるのがすごく恥ずかしい。なかなか服を脱げずにオロオロしていると…勇一がガバッと上のシャツを脱いだ。俺の目の前に逞しい上半身を晒した裸の勇一が…俺は目のやり場に困ってしまってなおさらオロオロ…
そんな俺に構わず勇一はどんどんと服を脱いでいき…あっという間に全部裸に…

…わわわわ…勇一…全部裸だ…
恋する勇一の裸の姿…俺は思わず背中を向けて勇一から視線を逸らした。

「…ん?勇二脱がねーの?」
「お…俺さ…すぐ入るから先に入って……」
男っぽい勇一の裸にすっかり動揺している俺はそう言うのが精一杯。

「…まったく…脱ぐのがおせーよ!…じゃー先に入ってるからな!」
勇一はまだ一枚も服を脱いでいない俺に呆れ顔で先に浴室に入っていく。

裸の勇一を目の前にして俺はすごく緊張して逃げだしたくなってしまったが…そんな事をしてはそれこそ勇一に変に思われてしまう。

…あ〜…これはもう入るしかないかも…
観念した俺は仕方なくオロオロと服を脱ぎ…浴室に入った…


浴室では勇一が身体を洗っていた。
俺は勇一をチラッと見る……勇一の大事なところは…湯気で隠れてちょうどよく見えない。
俺はちょっとホッとしたりして……そんなの今まで何度も見てるし俺のだって勇一に見られているのに俺はなに言ってんだか…
なかなか中に入れず入口でぼんやり立ち尽くす俺に勇一が声を掛ける。

「ゆーじ〜…背中洗ってくれ〜」
「…え?!せ…背中?!…お…俺が勇一の背中を?!」
「…なに驚いてんだ?…いつも洗ってくれんだろ?早くしろよ!」

…確かにいつもはお互いの背中を洗いっこしてるけど……そんな事したら勇一の肌に触っちゃうんじゃないか?!…勇一の素肌に触る…そ…それは無理だっ!!

「…あ………お…俺…なんかすごい寒いから先に入るよ!」
俺はそう言うと慌てて湯船にザブンっ…と潜り込んだ。

「…えー?なんだよ…いっつも洗ってくれるじゃねーか!ゆーじのケチ!」勇一は不満そうな声を出したが…俺はわざと聞こえないふり。
俺は湯船に口まで浸かりながら隣で身体を洗っている勇一をチラッと見る…
…うわぁ…勇一の裸…逞しくてすごくかっこいい…
厚い胸板に割れた腹筋…太くて適度に筋肉の付いた逞しい肩と腕…
細見の俺と違って勇一はかなりガタイが良くて全身がガッシリとしている。俺はそんな男らしい勇一の身体に見とれちゃって…つい視線が熱くなる…

「…ん?どーした?…」
あまりにも真剣に熱く見つめたせいか…勇一はそんな俺の視線に気付いたみたいだ。
俺に穏やかに声を掛ける勇一…優しく見つめられて恥ずかしくなった俺は顔が真っ赤になってしまう…

「…なっ…なんでもない!!」
俺はそんな赤くなった顔を隠す様に慌てて湯船に潜った。


「さぁ〜俺も入ろっと!」
身体を洗い終った勇一が立ち上がり俺の浸かっている湯船に入ってくる。ザバッ…っと風呂のお湯が大きく波打つと俺の隣に勇一が…

「ふわぁ〜…気持ちいい〜…やっぱ風呂はサイコーだな!」
身体の大きな勇一が入るとそんなに大きくない湯船は俺と勇一で一杯…
俺と勇一の距離はすごく近くて…それは少し動くと肌が触れてしまいそうなほど…

…ううっ…裸の勇一が俺のすぐそばに…
俺は恥ずかしさのあまりまともに勇一を見れなくて…さりげなく背中を向けてしまう。
ードキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……
一気に高鳴る俺の胸……

「なぁ〜勇二…今日の練習だけどさ…」
そんな俺の気持ちを知らない勇一。いつも通りなにかを話し掛けて来るけれど…胸の高鳴りがすごく息苦しくて俺はなにも答えられない。

「……勇二?きーてんのか?!こっち向けって!」
自分の話を聞いてない様子の俺に気付いた勇一…俺の肩をぐっと掴むと無理矢理自分の方に向かせる。
俺は少し抵抗したけど…勇一の力には敵わない。
狭い湯船の中で勇一と向き合う俺…勇一の足に俺の足が触れてしまって…勇一の素肌の感触が俺の肌に伝わる。
勇一の顔は湯気でぼんやりとしか見えないけど…俺をしっかりと見つめている視線を感じる…

「………」
俺は恥ずかしくて仕方なくて…言葉が出なくて…

「どうした?お前なんか変だぞ?…顔も真っ赤だし…熱でもあんのか?…」勇一はそう言うと俺に顔をすーっと近付け…俺のおでこに自分のおでこをコツン…とくっつけた。

……わわわわわわわ!!…勇一の顔が…ち…ち…近い!…

俺のすぐそばに勇一の男っぽい顔が…勇一は優しい顔で俺を見つめている。…その近すぎる距離に俺は完全に固まってしまう…


ードキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……

……どうかこの胸のドキドキが勇一に聞こえていませんように…


「ん〜…熱はねーみてーだけど…お前ってわりと風邪引きやすいからな〜…練習試合も近いから気を付けろよ!」
勇一はそう言ってニコッと優しく笑いながら俺の髪を優しく撫でた。

…きゅーーーーーーん…
その俺を見つめる優しい笑顔に俺の胸は一気に締め付けられる…その甘い甘い高鳴りに俺の胸に勇一への愛情が満ち溢れ…

…勇一に…キスした…い…

俺の手が自然と動きだし…勇一のほんのりピンクに染まった頬にそっと触れる…そのまま頬を優しく撫でると俺はゆっくり顔を近付ける…

「…ゆ…勇一…」
「……ん?…」
まさか俺がキスしようとしているなんて夢にも思っていない勇一の不思議そうな顔が段々と近付いていく…
勇一の吐息が感じられるほどの距離…
あと少し…あと少しで俺の唇と勇一の唇が重なりそうになった…その時…

「ーーーゆーいちー!ゆーじー!いつまで入ってんの?早く上がんなさいよー!!」
脱衣場から母ちゃん大きな声が聞こえた。
その声にハッとした俺は慌てて勇一から離れる…

「…わかったよー!!」
勇一は大きな声で返事をすると湯船からザバッ…と立ち上がった。
また勇一の裸が俺の目の前に露になって…俺は慌てて目を逸らすとまた湯船に口まで浸かる…

「ほらっ!お前も遊んでねーで
早く身体洗ってこいよ!母ちゃんに怒られるぞ!」
「う…うんっ…」
勇一は俺に素っ気なく言うと脱衣場へと上がって行った。
一人湯船に残された俺…

ー…遊んでねーで…
今の勇一の言葉…どうやらキスを迫った俺をふざけて遊んでると思ったらしい。…良かったのか悪かったのか…
辺り一面湯気で覆われ視界はぼんやり…それにつられて俺の頭もぼんやり…

…あ〜……もう少しだったのに…キスしたかったな…

俺はそんな事をぼんやり曖昧に思いながら一人で湯船に浸かっていたが……………俺はハッとする!

……んんっ?!……キ…キスしたかった……だあっ?!………
思わずそんな事を思ってしまった自分自身に驚愕…

……マズイ…本気でマズイ……これはかなりの重症だ……
勇一は血の繋がった実の兄だ……絶対抱いてはいけない勇一への男としての愛情…その感情を俺は持ってしまっている。それは無意識の内に勇一とのキスを求めてしまうほど俺を支配している…自分のその危険な想いをひしひしと痛感した俺。…はぁーっ…と深い溜め息をついて再び湯船に浸かった……


…この勇一への溢れる恋愛感情を一体どうしたらいいものか…
俺は風呂から上がるとそんな事を考えながら重い足取りで部屋に戻る。
部屋のドアをガチャ…っと開けると先に上がった勇一はもう布団に入っていた。俺もすぐ隣に敷いてある自分の布団に潜り込む…

「ちゃんとあったまってきたか?」
「…う…うん」
「電気消すぞ…もういいか?」
「…う…うん…」
勇一は立ち上がり電気を消すと再び布団に潜り込んだ。
部屋は豆電球の明かりだけ…辺りは一気に暗くなる…
布団で顔を隠しながらそっと勇一を見ると勇一も俺をじっと見つめていて…俺と勇一の目が自然に合う……その視線に俺はドキドキ…
勇一は俺に優しく話し掛けてきた。

「…勇二…本当に大丈夫か?」
「…え?…」
「いや…なんか今日のお前変だから…練習の時はそんなでもなかったけどよ…その後からなんか変ってゆーか…」
「そっ…そんなことないよ!全然変じゃないよ!」
俺は勇一への淡い恋心を悟られない様に慌てて平静を装う。

「ならいーけどなー…なんか悩みとかあんなら俺に言えよ…お前はいつも一人で悩みむからな…」
「…あ…ありがとう…」
俺の事を心配してくれる勇一…やっぱり優しいな…
勇一はいつも心配してくれて優しくしてくれて…俺が悪い時は怒ってくれるし頑張った時は誰より誉めてくれる。
いつも俺の見方をしてくれて…いつもいつも俺のそばにいてくれて…
俺は勇一がいてくれるから頑張れて…

豆電球がほのかに照らす室内…俺を見る勇一の優しい顔がぼんやり見える…俺はそんな勇一にすごく甘えたくなっちゃって…胸のドキドキを抑えながら勇気を振り絞る…

「ゆ…勇一…そっち行っても……い…い?…」
「ん?…一緒に寝たいのか?」
「……う…うん…」
「へ〜…珍しいなぁ〜…お前がそんな事言うなんて……」
「…だ…ダメ…かな…?」
「いいよ!…たまには一緒に寝ようぜ…」

勇一は自分の布団を少しはぐって俺を迎い入れてくれる…俺は遠慮がちにおずおずと潜り込んだ。
勇一の体温で温められたあったかい布団の中は勇一の匂いで満たされている…
…ん…勇一のいい匂い…

俺のほんのすぐそばにいる勇一…勇一の温もりと穏やかな呼吸が俺の身体にじんじんと伝わってくる…

「ん〜…二人で寝るの久し振りだな〜昔はよくこうやって寝てたよな!お前と寝るとあったかくってな〜」
豆電球の明かりに照らされた勇一のすごく嬉しそうな顔…俺はそんな勇一をすごく可愛く思ってしまう。
…俺は勇一にもっともっと甘えたくなっちゃって…もっともっとくっつきたくなっちゃって…

「…勇一…腕枕してくれる?…」
「…ん?…いいけど……」
俺は勇一が回した腕に頭を乗せるとにぴったりと寄り添いその大きな胸に顔を埋める…
勇一の胸の鼓動…穏やかな呼吸…体温…勇一全てが俺の中に伝わってくるような気がして…俺は勇一にしっかりしがみつく…

「どうした?やっぱなんかあったんじゃねーのか?…」
「…ううん……何もないよ…」
勇一はそんな俺を少し不思議そうに見ている。
俺を包む勇一のあったかい身体と俺を見つめる優しい眼差し…俺の胸に勇一への淡い想いがどんどん溢れてきてしまって…

「…ねぇ…勇一…」
「ん?どうした?」
「……俺の事………好き?」
「…急に何言ってんだ?」
「…俺の事好きかって聞いてんの…」
「そりゃあ〜お前は俺の弟だし嫌いな訳ねーよ…好きに決まってんだろ?」
「…ううん…あのね…弟とかそーゆー事じゃなくて……俺…俺は…」
「…んん?」
「……ん…いや…やっぱりなんでもないや…」

……俺は勇一が好きだ……本当はそうはっきり言ってしまいたかったけど…やっぱりそれは言えなかった。

「本当に今日の勇二はなんか変だな…ほら!明日は朝練があるんだぞ!…もう寝ないとな…」
「…う…うん…おやすみ…勇一…」
「おやすみ!」
勇一は俺の頭を優しく撫でると目を瞑る…暫くすると勇一の安らかな寝息が聞こえてきた。
そっと見上げた勇一は優しい顔でぐっすりと眠っている…
俺を腕枕したまま穏やかに眠る勇一…その寝顔が可愛くて可愛くて仕方なくて…
昨日までは俺と勇一は兄弟で…勇一はただの俺の兄貴で…俺はそれ以外なんとも思わなかったのに…それなのに!
今の俺は勇一が好きで好きで堪らない…それはまるで魔法にかかったみたいに…

俺のすぐそばにある愛しい寝顔…その愛しさがすごく大きくて俺の頭の中がぼんやりとしてくる…勇一は俺の兄弟だとかそんな事はどうでもよくなってきてしまって…

…勇一…俺…勇一が大好きだ……
俺は勇一の頬に手を添えるとそっと顔を近付ける…勇一の可愛くて優しい寝顔…
そしてそのまま目を瞑ると…勇一の唇に自分の唇をそっと重ねた……
勇一のあったかい唇…その温もりが俺の唇にじんわりと伝わる…そのまま少し目を開けるとすぐそばには目を瞑る勇一の可愛い顔…
俺の兄さんの可愛い勇一の顔…俺の兄さんの勇一……兄さんの……ん?…兄さん?!……

………!!…お…俺は何をやってんだ?!………
俺はハッとして唇を離す!!
勢いよく飛び起きると兄さんの布団を逃げる様に抜け出し、慌てて自分の布団に潜り込む。


…ににに…兄さんにキスしちゃった!!…兄さんに……兄さんなのに!!……

俺は自分の布団を頭まで被って身を隠す。そんな俺を襲う猛烈な動揺…
俺の唇には兄さんの少し乾いた唇の感触が残っている…

今までとは違う意味でドキドキドキドキドキドキドキドキ…俺の胸から心臓が飛び出しそうだ。
俺の心を駆け巡るその激しい動揺で身体が少し震えてくる…俺は平常心を取り戻そうと慌てて自分を落ち着かせようとするが…

…ちょっ…ちょっと待て!落ち着け!…えーっと…勇一は俺の兄さんで…でも俺は兄さんの事が好きになって…でも兄弟だからダメだと思って…でもどうしようもなく好きで…それでどうしようもなくて…思わずキスして……あ…わーーー!!やっぱりマズイ!!

落ち着こうと思えば思うほど俺が兄さんにキスをしてしまった事実がより一層リアルに思えてしまう。

…どどどどどーしよう!!
俺は布団の中で一人悶え苦しむ。
あーでもない…こーでもない…俺の頭に色んな事が浮かんでは消え浮かんでは消え…
夜は更けていった…



「……い!…おい!勇二起きろよっ!!」
俺を呼ぶ大きな声にぼんやりと目を開く…俺の目に映ったのは俺を覗き込む兄さんの顔。

…あれ?…兄さん?…俺……知らない間に寝ちゃったのか…?
ぼんやりする頭の中で昨夜の事が鮮明に甦る…俺は慌てて飛び起きた。

「……に…兄さんっ!!!」
「やっと起きたか!ほらっ!早く支度しねーと朝練遅刻しちまうぞ!」
昨夜一人で悶々としていた俺…知らない間に眠ってしまったらしい…
いつ寝たのかはわからないがどうやら睡眠不足で寝坊してしまったみたいだ。

「お前いつの間に自分のとこ行ったんだよ!せっかく一緒に寝てたのに…」
「…ははっ…ごめんね!」
兄さんにキスしちゃって動揺して逃げ出した…なんてとても言えない!

…兄さん…俺のキスの事…気付いてないのかな?…
俺はそれだけが心配で…

「…に…兄さん…昨日の夜さ…俺なんかしなかった…かな?…」
「ん?…一緒には寝たと思ったけど…なんかしたのか?」
「…いや…何でもない…」

…あ〜良かった…キスしちゃった事には気付いてないみたいだ…
もし気付かれてたら…それこそ本当に大変だ!弁解の余地は全くない。
いつも通りの兄さんの様子に俺は一安心…

「早くしろって!先に行っちまうぞ!」
「う…うん…」
兄さんに急かされて俺も慌てて着替え始めた。

急いで着替えて下に降りると兄さんが先に朝食を食べ始めていた。俺もその隣に座って急いで食べる……俺のすぐそばには朝御飯を頬張る兄さん…
兄さんはいつもの様に朝食を食べながら今日の練習の事なんかを話し掛けてくる。時に笑顔を見せながら…
俺は昨日の自分を思い出してまた兄さんにドキドキしてしまうんじゃないかと少し緊張したんだけど…

…あ…あれっ?……
昨日と全く違う!

あの尋常じゃないほどの胸のドキドキが全くないのだ。
兄さんを見ても話してもそばにいても近付いても…全くドキドキしない。
もちろん笑顔を見ても胸の奥がきゅーんともしない。
兄さんを意識してもなにも思わないしなにも感じない。
俺の隣にいるのは俺の兄さんで、それ以外はなにもない…ただの俺の兄さんだ。
…俺は昨日の自分との違いに気が付いた……俺は完全に元に戻ったのだ。

…なんだかよくわからないが…とりあえず良かった…本当に良かった……
俺はホッと胸を撫で下ろす。
俺と兄さんはいつも通りに朝食を食べ終えると、いつも通りに部屋に戻っていつも通りに学校へ行く支度を始めた。

「…なんか今日はもう大丈夫そうだな!」
「……えっ?…」
「なんかお前昨日は変だったからさ!」
「…ははっ…そ…そうかな?…」
まさか兄さんに恋してた…なんてとてもじゃないけど言えない!

「それに…昨日のお前さ、俺の事 “ 兄さん ” じゃなくて “ 勇一 ” って読んでたぞ…」
「…え?……」
「お前が俺の事名前で呼ぶなんて滅多にねーからな〜…」
「そっ…そうなの?…勇一…って?…」
「そっ!…何驚いてんだ?お前がそう呼んでたんだろ?」
「……そ…そっか…俺が勇一って……」

兄さんのその言葉に俺はすごく驚いてしまった。
俺は勇一の事はいつも “ 兄さん ” って呼んでいる。名前で呼ぶなんて…今までにないことだから…
俺は突然勇一に恋をして…突然覚めた…
これは言うなれば「恋する魔法」にかかっていたのか……?

昨日の練習の休憩中に激しくぶつかった俺と兄さん…そしてその時ドクンっ!!…と高鳴った俺の胸…もしかしたら俺はそこから恋する魔法にかかっていたのかも知れない。
そんな事本当にあるのかな…なんて思ったりもするけど…でも実際に昨日の俺と今日の俺は全く違う。
恋する魔法にかかっていたなんてそんな夢みたいな話だけど…もしかしたら本当にあるのかもしれない。

……恋する魔法が解けてくれて本当に良かった!あのまま兄さんに恋してたら俺は一体どうなっていたやら…
思わず兄さんにしてしまったキス…それにはすごく動揺して後悔しちゃうけど……でもそれは魔法にかかっていたから!…そう思うとなんだか仕方ない事だったって思えたりする。
でも…俺がキスしてしまったという事を知ったら兄さんはどうなってしまうのか…もう俺と話してくれなくなったりして!…それは絶対嫌だ!…この事だけは絶対内緒にしておこう…

元通りになってホッとした俺に一つの疑問が残る。
もし俺が本当に恋する魔法にかかっていたのならなんでその魔法は解けたんだろう?

…もしかしたら…キスしたから?…
おとぎ話でも、お姫様がキスされて目覚めたりキスによって元の姿に戻ったり…夢の世界ではキスが重要なポイントだ。
おとぎ話と現実を一緒に考えてる自分が少しおかしいけど…でもそれ以外考えられない。

……まぁ…細かい事はもういい!俺は元に戻ったんだ!俺と兄さんは兄弟…兄さんは俺の兄さんだ!



「勇二!準備出来たんならそろそろ学校行くぞ!」
「うんっ!行こう!兄さん!」
「…ん?勇二なんか張り切ってんなぁ〜」
「そうかな?…練習試合も近いからさ!頑張ろうな…兄さん!」
「おうっ!もちろんだぜ!…さすが俺の弟だな!」
兄さんは俺にニコッと微笑む…でも、俺の胸はもう昨日みたいにドキドキもきゅんきゅんもしたりしない。

「さぁ〜行こうぜ!」
「うんっ!」
部屋を出る兄さん…俺もその後を急いで追いかけた。




その日の放課後の練習…
再び俺の胸はドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ……
でも、もう兄さんにトキメイている訳ではない。
俺のドキドキの相手は…なんと……つとむ!

さっきのキャッチングの練習の時…
俺と組んでいた弾平がふざけて投げたボールが大暴投!それをなんとかキャッチしようと大きく横に回った俺は隣にいたつとむと激しくぶつかってしまった。
…その瞬間!俺の胸がドクンっ!!…と大きく高鳴って…
それ以来またしても俺の胸はドキドキドキドキ……
…あ〜……もしかして俺はまた恋する魔法にかかってしまったのか?!今度の相手はつとむかよ……早く治さないと……

……んっ?!ま…待てよ?…確か…兄さんの時はキスしたら治ったんだよな……って事は……つまり?…
…つとむとキスしないと治らないってことかぁ?!!!……

その事実に俺は愕然……

…つとむとキス…つとむとキス………む…無理だ!!それは無理無理無理無理無理無理無理無理絶対無理!!…どうしよう!!


「あれ?勇二さん…赤い顔してどうしたんですか?」
一人で慌てふためく俺に気付いたつとむが俺のそばに近付いて…ニコッと可愛い笑顔を俺に見せる。

…あ…つとむ…すっごい可愛い…
なんて思う俺…胸がまた異常にドキドキと高鳴る…

マズイ…この俺の状態は昨日までの兄さんに恋してた時と全く同じ…俺はどうやらまた恋する魔法にかかってしまったみたいだ…
経験から言ってこの恋する魔法はキスしないと治らない…
でも仲間のつとむにキスするなんて!!

…どうしよう…どうしよう…どうしよう!!

一人でオロオロする俺を遠くから見ている兄さんと尾崎主将…
「…ねぇ勇一くん…なんか勇二くん変じゃない?…」
「ん〜…なんっか昨日から変なんだよな〜…特に昨日の夜が酷くてよ!妙に俺にベタベタして一緒に寝たい…なんて言うんだぜ?!…今朝はいつも通りな感じがしたんだけどよ!…なんかまた変だな…」
「へー!勇二くんってやっぱり勇一くんの事好きなんだね!」
「そりゃあ〜兄弟だからな!…でも…なんでまた変なんだ?…」
「…う〜ん……」
考え込む二人……

「まぁ…いっか!その内治るだろっ!…それより早く練習しようぜ!時間がもったいねぇし!」
「そ…そうだね!じゃあまた始めようか!」


遠巻きに俺を見ている二人のそんな会話も知らず…ひたすらオロオロする俺…

…あ〜……本当にどうしよう!!

結局……つとむにキスなんて出来る訳もなく…
モヤモヤオロオロしながら俺の恋する魔法は暫く続くのだった……






*勇一兄さんに恋する勇二がかなり可愛い…本当に仲良しな兄弟なんでこんな事もあり得るかも♪やっぱり結局は勇二はブラコンだな〜と思いました♪
つとむくんに恋しちゃった勇二はこの後どうしたのか…?つとむくんも可愛いんで勇二×つとむくんのBL展開も良いかも…
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