PRIDE
自宅近くの海岸…ここは俺と勇二の練習場所。
俺達は学校で練習がない時や休日なんかにここで二人で練習している。いわば、俺達の秘密の特訓場だ。俺はとにかく闘球が上手くなりたいし、強くもなりたい…だから自主練をするのは当たり前だ。
それなのに勇二ときたら…まだ宿題が終わってないなんて!母親からの外出許可が下りない為に家に居残りだ。
「勇二のヤツ、早くやらないから…闘球の練習する時間なくなるじゃねーか!」
俺はかなりイラついていた。
俺達の憧れは三笠さんと四天王…今の闘球部のレギュラーメンバーだ。この人達みたいになりたくて俺達は闘球部に入部した。
三笠さんの統率力と指導力はとにかく凄いし、四天王それぞれの投げるボールは球川の大きな戦力だ。でも…三笠さん達もいつかは卒業してしまう。だから、それまでに少しでも近付きたい…三笠さん達が安心して卒業出来るように、俺も強くなりたい…そう思っている。だからとにかく練習に集中したい!それなのにあいつときたら!…
「あーー!!!まったくもう!!」
俺は自分の中にフツフツと沸き上がる怒りに任せて壁に向かってボールを強く投げた。
俺の怒りを存分に含んだボールはうねりをあげて思いがけず大きくカーブし、狙いとは全く別の方向へ飛んでいく!
……その先には一人の小さな子供が…!
「しまった!!逃げろっ!!」
俺は叫んだが間に合わない…
……ぶつかるっっ………!!
次の瞬間…俺の目に飛び込んで来たのは……一人の少年がギリギリの所で俺のボールをキャッチしている姿がだった。
……しかも……片手で……
「……あぶねぇなぁ…どういうコントロールしてんだ…」
少年と呼ぶには少し大人びて見える…赤みの強い髪は長く後で一つに結わえ…眼差しは強く鋭く、夕日を受けて目映い光を帯びている……
「大丈夫か?怪我ねぇか?」
その少年はしゃがんで優しい笑顔で子供の頭を撫でている。
突然の事に最初は怯えていた子供もその少年の穏やかな雰囲気に落ち着きを取り戻し、笑顔を見せてその場を去っていった……
「………………」
俺はとにかく驚いていた。俺の怒りに任せた酷い大暴投を片手だけで取ったのだ……それなのに、この少年は少しのダメージを受けた様子もなく平然としている……
「ほらよ!」
あっけに取られている俺に向かって少年がボールを投げ返した。
ボールは俺の胸に吸い込まれるかのように真っ直ぐ勢いよく飛び込んでくる…
ーバシィィーーーン!!
「……うわっ…!!」
…グッと足を踏ん張りなんとかキャッチしたものの…俺の体はその球威に押されて少し後ろにずり下がる…
…なっ…なんだ?!このボールは!!軽く投げたように見えたのに…すげぇ重い……
「…っくっ!……」
ボールを受けた手が電気を帯びたかの様にビリビリと疼く……ちゃんとした捕球スタイルで守ったはずの腹部もそのボールの重みで奥にえぐられる様だ…
身体中に走る激痛…しかし、俺も闘球部副主将だ。そう簡単に倒れこむ訳にいかない。
俺は片膝をついてしまいそうになるのを必死で堪える……そしてなんとか耐えると、まだ多少おぼつかない身体を引きずり少年のそばに近寄った。
……そして…俺は近くで見た少年の身体に驚愕した。
少年の身体は鍛え上げられた筋肉で全身が覆われている…特に腕の筋肉は驚くほどに強固なものだ……これは中途半端な鍛え方で付く様なもんじゃない。
この少年は相当なトレーニングをしている…俺はそう確信し、だからこそあんな凄いボールを投げられるんだとはっきりとわかった…
この少年の放つ存在感……それがビリビリと俺に伝わってくる…
俺はその凄まじい存在感に圧倒されつつもその少年に声を掛けた。
「…き…きみも闘球やってるのか?」
「……まぁな…何があったか知らねぇが、もうちっと周りに気を付けろよ!もしあのチビに当たってたらちょっとした怪我じゃすまねぇぜ…」
「…す…すまない………助かったぜ…あり…」
俺が少年に礼を言いかけたその時、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
「…兄さーん…!」
声の主は弟の勇二…見るとこちらへ駆け寄ってくる。
少年も誰かが走ってくるその様子に気が付いたようだ…
「…じゃーな!」
「あっ…!ちょっと待て…」
少年はそう言うと引き留める俺にニコッと笑う…くるりと身を翻して走り出し、あっという間に見えなくなってしまった……
「兄さんゴメン!ようやく宿題終わってさ……あれ?兄さんどうしたの?」
「……いや…何でもない……しゅ…宿題最後までちゃんと終らせたのか?」
「うん!…ごめんね遅くなって…」
「…いや……いいさ………」
「…どうしたの?やっぱりなんか変だよ?」
「…なっ…なんでもねーよ!さぁ!練習しようぜ!」
俺の元にたどり着いた勇二は少し動揺している俺に不思議そうな顔…どうやらあの少年の姿は見なかった様子の弟に、俺は何となくだが言葉を濁してしまった。
あの少年の事を隠すつもりはなかったのだが……
それから数日が経ったが、俺は何となくその少年の事を忘れられずにいた。時折、あの海岸で勇二と二人で練習はしていたが…会うことはなかった。
それからどのくらいの日数が経っただろうか……
俺は久しぶりに俺達の特訓場の海岸で一人練習をしていた。
最近は大会を控えてよりハードになった闘球部の練習をこなすだけで精一杯でここに来る余裕はなかった。今日は学校の都合で久しぶりに部活がない…でも大会を目前にした今、みんなきっとそれぞれに個人練習をしているに違いないだろう。
勇二は少し前の練習で肘を少し痛めていた為、大事を取ってロードワーク中心のメニューをこなしてる。今は一人でランニングだ。
本当は二人でキャッチングの練習をしたいのだが…仕方ない。
俺が壁が相手のキャッチングを何回か繰返していた時…俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえた……
「よぉ!また会ったな!」
その声に俺は一瞬ドキッとして振り返る。
そこに居たのは……あの少年だ!
あの日以来自分では再会を待ち望んでいたつもりはなかったが…実際少年に会えてやっと会えた…という気持ちになった俺は、やっぱりこの時を待っていたのかもしれない。
俺は少年に惹かれる様に走り寄る……
「お前…久し振りじゃねーか…」
「そうだな!…俺もまたここに来てみたかったんだが…なかなか忙しくてな!」
俺は名前も知らないこの少年に昔からの友達みたいに接している自分に驚く…
「この間は礼も言わずに悪かったな。俺ずっと気になってて…」
「いや、いいさ…礼を言われるほどでもねぇからな!」
少年は少し照れた様にニコッと笑った。
その優しく穏やかな笑顔……初めて会った時の鋭い眼差しとは全く違い…その瞳は穏やかな光を抱いている……
……きれいな瞳だ……
俺は思わずの澄んだ瞳に見とれてしまう…
少年の赤く長い髪が柔らかく風に揺れ…優しい瞳で俺を見ている…俺と少年を取り巻く穏やかな空気…俺は少年から目が離せない…
「…ん?どうした?…」
言葉なく自分を見つめている俺に気が付いた少年…
俺のそばにそっと近寄ると俺の顔を覗き込む。
今まで見とれていたその優しい顔が俺に一気に近付き…俺の胸が一気にドキドキと高鳴る…
「…なっなんでもねーよ!!」
俺は動揺のあまり2〜3歩後ろによろめく様にずり下がる。
「…お前………」
少年が何か俺に声を掛けようと口を開いたその時!…俺達は背後に人の気配を感じ…二人で同時に振り返った。
「よぉ陸王〜!久しぶりだなぁ…元気そうじゃねーかぁ!会いたかったぜ!」
…そこに立っていたのは明らかに柄の悪そうな二人組の男達…ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら俺と少年を見ている。
…なっ…なんだ?!コイツら…
突然の事に俺が唖然とその二人組を見ていると…俺の隣にいた少年がはーっと深い溜め息を吐きながら一歩前に歩み出る…
「……俺はお前らなんかに会いたくねぇなぁ……」
「…まぁ、そう言うなよ!どーせ暇なんだろ?また一緒に楽しい事しよーぜ!」
…どうやらこの二人組はこの少年の知り合いらしい…
その男達は陸王と呼ばれた少年のそばにすーっと寄り、馴れた様に肩に手を回す…
しかし、少年はニヤッと笑うと何のためらいもなくその手をバシッと振り払った。
二人組を睨み付けるその鋭い眼差し…さっきまでの優しさや穏やかさが一気に消え去り、明らかに厳しさと険しさが戻っている…
「…すまねぇな…俺にはやりてぇ事が出来たんだ。もうバカなお前らの相手してやる暇なんてねぇんだよな!」
「…何だと?!俺達がバカだと?!ふざけんなっ!」
「お前らほどバカなヤツいねーよ!…もういい加減俺に近付くな!!」
「…くっそぉ!…黙って聞いてりゃいい気になりやがって!!」
不良の一人が少年の胸ぐら目掛けて勢いよく掴みかかる。しかし、少年は風に乗った様にひらりと身をかわし…掴む相手を失った不良の体はガクッと大きく傾きそのまま激しく地面に倒れ込んだ。
ードサッッ!!
「………くぅっ!!…」
「…ははっ!…わりぃわりぃ〜お前ら相変わらず鈍いな!俺を殴ろうなんて…100年早いぜ!」
「…お…おい!大丈夫か?!」
「……ううっ……」
もう一人の不良が倒れた仲間に慌てて近寄り体を起こそうとするが…かなり激しく倒れ込んだせいか、不良は唸るばかりで起き上がる事すらままならない……少年はそんな不良達の情けない様子をニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら見ている…
「………こんの野郎……!!」
すると、陸王の仕打ちに怒りに震えたもう一人が今度は陸王のすぐそばにいた完全に無防備な俺に殴りかかってくるじゃないか!
…思わぬ事に咄嗟に防御したが…間に合わない!
ーガツッ…
鈍い音と共に俺は少しよろめいた。
一瞬にして頬がヒリヒリと熱を帯び、口の中に血の味が広がる……
不良の遠慮のない拳は俺の頬を完全に捕らえてしまったみたいだ。
「…てめぇ!!何しやがる!!」
突然の不良の暴挙に俺は思わずカッとしてその殴った男に詰め寄り掴みかかる…俺のもの凄い剣幕に押されてさすがの不良も少したじろいだ。
俺は両手で不良の胸ぐらを力一杯グッと掴むと、すぐ後ろの壁に一気に男を押し付けた。
俺の視界の隅に入った少年は、そんな俺の激しく怒り立つ様子をただただ唖然と見ている…
「…お……お前……逃げねぇのか…?」
「…バカ言え!!こんなヤツラに逃げたら男じゃねぇ!!」
俺は少年の驚いた様な問い掛けにそう叫ぶと、自分の持つ精一杯の力で男の胸ぐらをギリギリと締め上げた。
「…ぅうっ………」
男は声にならない声で呻く……
急に現れて関係のない俺を殴ったこの不良達…俺の中で怒りがメラメラと燃え上がる!…俺の怒りはそう簡単には収まらない。
…やられたらやりかえす!…俺が自分の燃える様な怒りに任せて男を殴ってやろうと拳を振りかざしたその瞬間……
「お…おい!もう止めろ!!そのぐらいにしておけ!!」
……少年の叫ぶ様な厳しい制止を受け、ハッと冷静さを取り戻した俺は力を緩めて男を解放した。
「…おいっ!てめぇらもういいだろ?とっとと行きな!!…それともまだ痛い目見てぇのか?!」
「……クソッ!覚えてやがれ!!」
陸王の言葉に不良達は情けない捨て台詞を吐くと、いとも簡単に俺達に背を向け逃げ去って行った……
「……大丈夫か?…すまなかったな……俺のせいで怪我させちまって……」
「あんなの大したパンチじゃねーよ!……それに…この間の借りはこれで返したからな!」
…不良に遠慮なく思いっきり殴られた頬は赤く腫れ上がっている…そんな顔をしながら強がる俺に、少年は少し申し訳なさそうに少し嬉しそうに笑う。
そして俺に近付くとその痛む頬をそっと優しく撫でた…
「ほんと……ごめんな……」
少年は穏やかな顔で俺の頬を優しく撫で続ける…
殴られた頬はもちろん腫れて熱を帯びていたが……それとは違う熱が一気に俺の頬に集まってしまい…頬だけでなく顔まで火照ってしまう…
「も…もう大丈夫だから…」
俺は急にものすごく恥ずかしくなってしまい…慌てて少年から離れた。
俺を穏やかな瞳で優しく見つめる少年…俺はずっと気になっていた事を少年に問いただした。
「なぁお前…あんなのと付き合ってるのか?」
「……前にちょっと…な!でも…今は違うぜ!あんなの全然相手にしてねーよ!
「……そうか…それならいいがけどな…」
真剣な眼差しで俺を見ながらキッパリと断言した少年…あんな不良とはもう関わってないと知った俺はなんだかすごくホッとした。
「……俺は…やっと見つけたんだ…真剣にやりてぇ事…」
「…もしかして…闘球か…?」
「…まぁな!」
少年は照れくさそうに笑う…その瞳にはまた穏やかな光が戻っていた。
「…あんなのと一緒にいたら、練習も出来ねぇし、ケンカばっかしてあっという間に出場停止だぜ!」
「…ははっ…そりゃそうだな!……」
俺と少年は顔を見合わせて笑う…
「…俺…真剣に闘球やりてーんだ!…強くなりてぇ…」
「……俺も…俺も闘球がやりたくて仕方ないんだ!強くなりたい!…だから…お互い頑張って練習しようぜ!!」
自分と同じ様に闘球に打ち込んでいる少年の事が嬉しくて…頼もしくて…俺はつい興奮してしまう。
そんな俺の様子に少年は少し微笑み……そして、真剣な顔付きで俺に問い掛けた…
「…なぁお前…さっきあいつらに向かっていっただろ?…あいつらの事怖くなかったのか?……」
「………いや…俺だって怖いさ。でも……俺が逃げたらお前は一人になっちまうだろ?……俺は怖いからって友達を置いて逃げる様な弱虫じゃねーよ!」
「………お前…」
「たとえ自分の方が分が悪くても怖くても!そこから逃げ出すなんて絶対したくねぇ。怖くても立ち向かうのが男だ。友達を置いて自分だけ逃げるなんて弱虫は男じゃねぇ!」
俺の言葉をじっと真剣に聞いていた少年はニヤッと笑うと呟いた。
「……お前…大したヤツだな……」
「…まだ名前聞いてなかったな…俺は陸王冬馬、荒崎小闘球部だ。」
「俺は球川小闘球部の武田勇一…」
「…ふーん…球小の武田勇一か……覚えておくぜ…」
「…陸王…次に会うときは敵同士になってるかもな!」
「…あぁ、俺は必ず強くなるぜ!……勇一…お前も頑張れよ!…またな!」
少年は俺にニコッと笑い掛けると颯爽と歩き出す…俺はその大きな背中をいつまでと見つめていた…
俺は何故かこの陸王と名乗った少年とまたどこかで会える様な気がしてならなかった。
そして、俺のその予感は1年後…現実となる……
お互い驚くほどの成長を遂げて……
*壮大な捏造話ですね〜…原作で陸王が登場した時、恥ずかしくてお互い知り合いだと言い出せなかったんでしょうね〜♪原作無視な話ですみません!この二人はなかなか接点がなかったんで悩みましたが、案外いいCPかも…次はBL話を!
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