二人の秘密〜story2〜
「………俺やっぱ行かねーよ…」
「ダメ!今日は俺に付き合う約束!」
俺は嫌がる陸王の手を掴み、半ば強引に連れていく。


俺と陸王はあの日以来、時折時間を見付けては二人で会っていた。
どちらともなく連絡を取り、陸王の行きたい場所に行ったり…俺に付き合わせたり…普通に考えれば、いわゆる「デート」…
しかし、俺は気になりつつも、初めて一緒に時間を過ごした時にバス停で聞いた陸王の告白には答えずにいた…
本気かどうか解らない……それが俺の正直な気持ち。陸王もその後は何も言ってこないし……陸王のことだから、悪い冗談かもしれないし!
俺は陸王をどう思っているのか……そう言われると嫌いじゃない。でも、好きかと言われるとよく解らない。
俺は陸王と一緒にいると、心地良く安心する半面、何かが胸が詰まった様に苦しくなるのだ…何故だかは解らない。これは一体なんなのか………考えても考えても解らない。
しかし、陸王と過ごす時間は俺にとってとても大切な時間……それは事実。俺の中で陸王の存在が大きくなっている事は確かだ。

ここは球川小の近くにある図書館。
今日の行きたい場所を決めるのは俺の番だ。いつもはわりと身体を動かせる場所を選んだりしていたのだが、今日は違う。

「…なぁ勇一!やっぱバッティングセンター行こうぜ!」
「ダーメ!今日は図書館でスポーツ医学の勉強!」
「えー……俺苦手なんだよな〜…こういうとこ…」
陸王は見ての通り勉強類は得意ではない。俺も正直言って、陸王が勉強してる所は想像出来ない。ちゃんと学校ではしているのか……?まぁ、多分してないだろうな………
もちろん、陸王が図書館なんて所は苦手な事は十分承知している。しかし、闘球には知識も必要だ。

「陸王、身体を鍛えるのもいいが、たまには頭も鍛えないとな!」
「………ちぇっ…せっかくのデートなのに勉強かよ…」
「…ん?なんか言ったか?」
「なんでもねーよ!行けばいいんだろ、行けば!」
陸王は諦めた様に言い放つと、逆に俺の手を掴んで図書館の玄関をくぐっていく。

休日とはいえ、昼間近の図書館はわりと閑散としている。しん…とした静けさ…その中に佇むゴツい陸王は、はっきり言って似合わない…
陸王もそれを悟っているのか、なんだかソワソワと落ち着かない様子だ。
俺は無敵な陸王のそんな可愛い様子に思わず笑みがこぼれる。


俺と陸王はスポーツ医学の本を何冊か集めると、閲覧場所にある椅子に一つ席を空けて共に腰を降ろす。

「ほら、陸王…少しはこういうのも読めよ…」
「えーー!!」
「…バカ!声がでけーよ…」
陸王は俺が手渡した厚みのある本にうんざり……本をパラパラめくり、ため息をつく。

「…はぁ〜……字ぃ小さくねーか?」
「そんなもんだろ…いいから読めって…」
俺に促され、陸王は仕方なくつまらなそうな顔で読み始めた。
俺もそれを見届けると、自分の選んだ本を開く………

一人の時と違い、俺の隣には陸王がいる。なんだか気になってしまう…いつもの胸の苦しさを実感しつつ、俺は本を読むふりをしてそーっと陸王の様子を見てみる………
陸王は意外にも真剣に本を読んでいた。
その真剣な横顔………
…うわ…スゲーカッコいい…

俺が言うのも何だが、陸王はかなりカッコいい。
目付きは鋭くワルい顔をしているが、精悍な整った顔立ち…身体中にバランス良く付いた逞しい筋肉…
性格は大胆不敵…かつ繊細で性根は優しい…まぁ、軽くいい加減な所もあるが、それも陸王の良さの一つ。
この身体にこの性格…男でも惚れる…というのはこういうヤツなんだろう…
俺は胸の苦しさを感じつつも、そんな陸王の横顔に見とれていた…

「…ん?」
陸王はそんな俺の視線に気付いてしまったみたいだ。

「…なんだよ…勇一…」
「…いっ…いや、なんでもねーよ…」
「なに、お前… 俺の事見てたの?…」
「ちっ…違う!!見てねーし!」
俺は陸王に見とれていた事を見抜かれしどろもどろ……顔がジワジワと赤くなるのが自分でもよくわかった。

「ふーん…赤くなっちまって…やっぱお前… 可愛いな… 」
そう言うと陸王は手を伸ばし、俺の耳たぶを触る………

「りっ…陸王なにしてんだよ!」
「可愛い耳だな…」
俺は耳たぶを触る陸王の指の熱っぽさとその真っ直ぐな眼差しに動揺…
陸王はそのまま何も言わずに一つ空いていた席を詰め、俺のすぐ側に近寄る……俺の席は一番隅…反対側は壁で逃げ場はない…
陸王は耳元に口を寄せるとそっと囁く……

「………なぁ勇一…この間の返事は…?」
「…なんの事だよ…」
「…バス待ってる時に言っただろ?好きだって……俺待ってんだけど… 」
「……そっ…それは!」
「しーーっ…バカ…声でけーよ… 」
間近に見る陸王の真剣な顔……俺は陸王に触れられたままの耳たぶの温もりと、甘い囁きに身体の芯がじんと疼くのを感じた…
今まで気になりつつもなんとなく曖昧にしてきた事を陸王にはっきりした形にされ、俺はどう答えていいか解らない…
何故か胸の苦しさも増していく…
……そんな感情に支配された俺はつい気持ちとは裏腹な事を言ってしまう。

「… ってかさ、あれ冗談なんだろ?お前の事だからさ!」
わざと明るく冗談っぽく言ってしまった。
陸王の表情が一瞬にして曇る………
陸王は何も言わずに席をたつと一度も振り返らず玄関の方へと歩いていく。
………怒らせてしまった…
俺は慌ててその後を追った。
見ると陸王はもう玄関を出て外へ向かっている…

「………ちょっと待てよ!陸王!」
聞こえているのかいないのか、陸王は俺を見る事なく歩いていく。

「おいって!」
俺は陸王の腕を掴んで無理矢理その歩みを止める。
… 俺に向けられた顔は…今まで見た事のない… 拗ねた様な幼い悲しい顔………いつもの荒々しく大人びた陸王とは全く違うその顔に、俺は陸王の真剣さを痛感し、自分の言ってしまった言葉を激しく後悔した。

「ゴメンな…陸王……」
「……勇一は俺の事、どう思ってんだ?嫌いなら嫌いって………」
「嫌いなんかじゃない!!」
「…勇一…?」
「その…俺…お前といると楽しくて時間があっという間に過ぎて… また会いたいって思う。お前の事ばっか考えちまうし…なんか胸は苦しくなるし…でも、正直好きとかよく解んねぇんだ………」
俺の言葉を黙って聞いていた陸王はキョトンとした顔をしている…そして一言………

「………ってか勇一…それが好きって事なんじゃねーのか?」
「……え?……」
………俺は陸王が好き…陸王が好き………そう実感した瞬間、俺の胸を支配していた苦しさがスーっと消えていく…
…そうか…そうなんだ………こんな簡単な事が解らなかったなんて………

「…うわっ…俺…そうなのかも…」
「なんだよ、勇一… 今気付いたの?…スゲー可愛い」
陸王はそう言うと俺の身体をぐっと引き寄せ、あっという間に俺の唇を奪う…

「なっ…なにすんだよ!」
「…俺達、両思いなんだからいいじゃん…あ、なに?もっとムードが欲しいかった?」
「………ばっ…バカ!」
「ゴメンな、初めてなのにさらっとしちまった…じゃあ…もう一回………」陸王は真っ直ぐな瞳で俺を見つめる。

「勇一…俺の事好きか?…」
「…ん………なんかそうみたい………」
陸王の顔が少しずつ近付く…俺は素直にゆっくりと唇を重ねた………


…「あ〜……スッゲー痛てー…殴らなくてもいいだろ〜…」
陸王は頬を抑えてしかめ面………

「あったりめーだ!バカ!し…舌まで入れやがって!」
「ははっ…まだ早かったか?」
「ははっ…じゃねーよ!」
陸王のヤツ…初めてのキスだってのに舌まで………

「はは…そんな怒んなよ…つい勢い余って…」
「ついじゃねーよ!」
「わりぃわりぃ!…さぁ〜腹へったからなんか食いに行こーぜ!」
「…まったく………あ!勉強は?!」
「こんな幸せな状況で勉強もなにもないだろ?な!」
「う〜… まぁいいか…」
「さすが勇一!じゃあ、あんなこと言った罰で勇一のおごりな!」
「えーー!マジかよ………」
「…ははっ… 行こーぜ!」

陸王は穏やかな優しい笑顔で俺の手を引き、俺達は肩を並べて歩き出した。

「…なぁ、さっきの勇一の言葉…あれさ…」
「なんだよ?」
「俺は陸王が好きだー!って言ってる様なもんだったぞ…」
「ええーー!マジで?!」
「ニブイヤツだな…まぁ、そこがゆーいちの可愛いとこだけどな!」
陸王は俺の髪をクシャリと撫でると、耳に口を寄せ、軽くキスをした。

「…う…うわっ!また!」
「んーー!可愛い耳!」






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