再会〜after story〜
ここは球川地区にある、闘球クラブチームの練習用グランド。
闘球クラブチームとは…学校に闘球部がない子供や、より高みを目指す子供が学校の枠を越えて集まり構成している一つのチーム。
学校の部活と違い、強くなりたいと自分から希望して入部する為か…闘球に対しての意識が高い子供達と保護者が集まっている。
俺は仕事を終えた後、週に3回夜7時から9時までこのクラブチームでコーチとして子供達に闘球を教えていた。
俺がこのクラブチームを率いて早2年…最初は負けてばかりの弱小だったこのチーム。しかし今は全国大会へ進めるほどの力を備えた強豪チームへと成長していた。
「三笠コーチ、お疲れ様です!お願いしまーす!」
「お願いしまーす!」
時刻は6時半過ぎ……
クラブに所属している子供達が保護者に引率されてグランドに集まりだしてきた。
「お、来たな!ちゃんと宿題終らせてきたか〜?」
俺は駆け寄ってきた子供達に笑顔で話しかける。
練習時はコーチとして厳しく指導…それ以外は優しく頼れる兄貴みたいに…が俺の方針だ。
まだまだ幼い子供達…厳しいだけでは辛いだけ…優しいだけでは強くならない。コーチになって何度も痛感するが指導するという事はとても難しい…
それでもここにいるのは闘球を学びたいと志願している子供達ばかり…俺にとって教えがいのある将来が楽しみな子供達ばかりだ。
「はい!!」
「もちろんです!」
「そうか!勉強しないヤツは闘球も出来ないからな。みんな、支度が出来たらランニングからだぞ!」
「はい!」
子供達は俺に一礼すると足早にグランドに入って行く。
仕事から直接来たので俺はまだ仕事着のまま…俺はアスファルトに座って練習用の靴に履き替え準備を始めた。
コーチとしてはまだ若く、経験もなかった俺は最初は子供や保護者になかなか認めて貰えずにかなり苦労した。
俺も何度も主将を経験し…人から信頼を得るという事がいかに難しく大変な事であるかはよくわかっている。
でも…練習に必ず参加して子供達と向き合い…強いチームを作って試合に勝つという明白な実績を上げる事で、少しずつ子供達や保護者の信頼を得られる様になっていた。
今では俺の指導を受けたいと遠くから通う子供や自分の学校に闘球部があってもこのグラブチームで闘球を学びたいとここに通う子供も多い。
最初は10人しかいない本当に小さかったこのチームも、今は50人を越える大所帯だ。
仕事とクラブコーチの両立は正直言ってかなり大変で…
週3回の練習の上、休日には県内外問わずの遠征もある…試合や遠征があれば必ず行かなければならない。もちろんチームを任されている以上、子供達を強く育て…試合に勝てるチームを作っていかなければならないという大きな責任とプレッシャーもつきまとう…
このクラブチームのコーチの話を持ち掛けられた時…俺は正直悩んだ。
現役を離れて時間も経っている…仕事も忙しい…そんな俺にどれ程の事が出来るのか。このチームをどれだけ強く育てていけるのか…保護者の期待に答えられるのか…もう現役を引退している俺にそんな力があるのか…
それでも俺は悩んだ末…クラブチームのコーチを務める事を承諾した。
悩みながらも俺が大変なコーチを引き受けた理由…それは俺の中に四天王の存在があるからだ。
四天王との出会いは球川小闘球部…
俺は小学から高校まで、それぞれで主将を努めていた。
主将という大きな責任とプレッシャーの中、俺が闘球部主将として部を率いて来れたのもこの四天王が俺のそばにいて支えてくれたからこそ…
もちろん、自分の青春をかけた大好きな闘球を次の世代に伝えたい…闘球が好きな子供を選手として育てたい…という気持ちもある。
しかしそれよりなにより…自分も今の四天王の様に闘球に関わって行きたい…という思いが俺を指導者としての道に進ませたのだ。
それだけ俺にとって四天王という存在はすごく大きい…
高校まで共に闘球に打ち込んだ俺達もみな社会人となり、それぞれの道を歩んでいる。
仲間として一緒に闘球をする事はなくなってしまったが…みな違う形で今でも闘球と関わっている。
速水は教員になり球小闘球部の顧問として子供達の指導をしている…火浦と風見は現役の選手を続け審判も兼ねている…みんなそれぞれに自分の望むスタイルで闘球を続けている。
自分も球小OBとして元主将として仲間達に負けてはいられない。
唯一土方だけが連絡を取れずにいたが…
俺も火浦も速水も風見もみんな闘球が大好きだ…みなそんな闘球から離れる事が出来ないのだ。アイツも学生の頃、俺達と同じく闘球が大好きだった…そんな土方が闘球から離れられる訳がない。
俺は何となく土方もどこで闘球に関わり、いずれ再会できるのではないかと感じていた。
それは何の確信もない不確かなものだったが…そう信じてしまえるほど俺と四天王の絆は強いものだった…
「コーチ、県大会の要項が送られてきました。お願いします!」
事務局を務める保護者の一人が俺に近寄り一枚の紙を手渡す。
「お、すまんな!」
「コーチは球川小出身でしたよね?……今年、県大会に上がってきてますよ〜!」
「……そうか!」
…速水のヤツ決めてきたな……この間会った時、自信満々だったしな…
地区予選の数日前に会った速水は、俺に球小の県大会出場を約束していた。約束は必ず守る速水の事だ…俺はきっとそうなるんじゃないかと期待していたのだ。
そんな仲間の活躍に俺の顔も思わずほころぶ。
この県大会には俺のクラブチームと共に、地区予選を勝ち抜いた2チームが出場出来る事になっている。
1つは速水の球川小…………もう1チームはどこが……
俺は両面刷りになっている県大会の要項を裏返してもう1チームを確認する…
「………………ふっ…あはははは!!」
「三笠コーチ?!きゅ…急にどうしたんですか?!……」
俺のすぐそばにいた保護者が驚きの声をあげる。
…無理もない…いつも冷静な俺が急に大声で笑いだしたのだ。
…速水、だからあんなメールを!……
地区予選終了後、速水から俺に一通のメールが届いていた。
ただ一言……
“今年の県大会は面白くなるぜ!”
……?
俺はそのメールを見て疑問に思った。
真面目な速水はいつも試合の詳細を事細かに書いてくる。勝負の成り行き…自分の采配…時には迷う事を相談してきたり……
しかし、このメールには一切そういった事が書かれていない。まして、勝敗の事すら書かれていないのだ……
…まさか……速水は…球川は負けたのか?……いや…そんなはずはない……アイツが負ける訳がない…
俺が数日前に会った速水…その顔は球川闘球部顧問として自信に満ち溢れ、キラキラと輝いていた。その速水が負ける訳がない…俺はその速水の笑顔を思い出し、この不思議なメールに返信する事が出来ずにいたのだ。
ーBブロック顧問-土方勝
紙には確かにそう書いてある。
俺はその懐かしい名前を何度も何度も読み返した。
俺の胸が一気にドキドキと高鳴る……
…そうか……やっぱり俺の思っていた通りだ……土方……まったくアイツらしいぜ…
「…コーチ!コーチ!一体どうしたんですか?!急に笑ったと思ったら今度は黙っちゃって…」
唖然とする保護者の声にハッと我に帰る。
「あ…あぁ…すまん!ちよっとな…」
学生の頃に四天王と共に強い相手に立ち向かっていった時のあのなんとも言えない緊張感…子供の時みたいなワクワクする気持ちが俺の中に一気に甦ってくる…俺の胸がドキドキと激しく高鳴って仕方ない。
…速水、お前の言う通りだ…本当に面白くなりそうだぜ…俺も負けてられねぇな!
俺の顔は自然にきゅっと引き締まり…コーチの顔へとなっていく…
「コーチ!ランニング終りました!」
ランニングを終えた子供達が俺の元に集まってくる。
…額に浮かぶ汗…それはグランドの照明を浴びてキラキラと輝いている…
その子供達の希望に溢れる顔が小学生の時の俺と四天王の顔と重なって見えた。
「……よしっ!みんな集まったか?」
「はい!」
「県大会へ行く他のチーム2校が揃ったぞ!どちらも強豪だ!…でも俺達は強い!この2校に勝って全国へ行くぞ!いいな!!」
「はいっ!!」
「よしっ!じゃあ、練習を始める!」
俺と子供達の大きな声がグランドに響き渡る…
………土方…何年ぶりか…
俺は土方の屈託のない笑顔と、四天王と共に戦った球小での日々を思い出していた。
土方が闘球から離れられる訳がない…俺の思いは当たっていた。
みんなそれぞれに今でも闘球を愛している…きっとこの先も…ずっとずっと先も俺達は闘球を愛し続けて行くだろう…それはつまりこれから先も四天王と闘球を続けて行けるという事…俺にとってこれほどの喜びはない。
俺の脳裏に四天王の笑顔が浮かぶ…
俺の胸の高鳴りは一向に止まない…俺は大きく深呼吸した。
そして靴紐をぎゅっと結び直すと子供達と走り出した…
*捏造話の第2話。三笠くんにはこんなコーチになってて欲しい!いつまでも「キャプテン」でいて欲しい!
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