永遠の約束
「…え…そうなの?…」
「はい…先程、旦那様から連絡がありまして…今月の大河様の誕生日に帰れなくなったと…」
「……約束してたのに…」
ここは二階堂家の邸宅。
リビングでは大河様と数人の執事が話をしている。詳しい事はわからないが…どうやら、海外で仕事をしている大河様の父親の帰国予定がダメになったらしい…しかも、その日は大河様の誕生日…大河様と旦那様はこの日に帰国の約束をしていたみたいだ。
俺は次の練習試合の打ち合わせで大河様に呼ばれて二階堂家に来ていたのだが、予想外の展開に事の成り行きを静かに見守っていた。
「また必ず帰るからと大河様に伝えて欲しいと仰っていました…旦那様もお辛そうでしたよ…大河様、残念ですがご理解下さいませ…」
「…仕事なら仕方ないね!わかったよ…」
一瞬曇った顔を見せた大河様…しかしすぐににっこり笑うと何事もなかった様な平然とした顔をした。
「…僕これから部屋で勉強するから暫く誰も来ないでね。」
「承知致しました。」
大河様は俺に近付くとその表情のまま優しく俺に声を掛ける。
「…五十嵐…せっかく来てくれたのにゴメンね。打ち合わせはまた明日にさせて…」
言葉少なく冷静に言うと、大河様は一度も振り返らず一人で自分の部屋に歩いていった…
大河様のその様子に執事達は、随分大人になられた…なんてみんな笑顔で喜んでいる。
でも……俺はそう思わなかった。
…きっと大河様は我慢をしている。本当の気持ちを表に出さないだけ…
いっそ幼い時みたいに泣いて喚かれた方が、大河様の気持ちがよくわかって俺としては安心なんだが…
幼い頃はそれでも自分の感情を表に出してワガママも言って過ごせていた大河様だが…大財閥の御曹子という立場上、成長するにつれて大人の世界に身を置く事が多くなってしまい…いつからか妙に物分かりが良い人間になってしまっている…
本当に大人になっているのならそれはそれでいいのだが…大河様は多分そうではない…自分の気持ちを閉じ込めて、周りに迷惑を掛けない様にしている…幼い頃からずっと大河様のそばに仕えている俺にはそんな風に見えて仕方ない。
大河様は絶対勉強なんてしていない…部屋で一人で哀しんでいる…そう確信していた俺は少し迷いつつも大河様の部屋に向かう。
ートントン…
「…誰?」
「…五十嵐です。入っても宜しいですか?」
「…あ…いいよ…」
俺はそっとドアを開けて大河様の部屋へと入っていく。
大河様は一応机に向かってはいるが…勉強道具なんて一つも机の上に出ていない。手元にあるのは家族の写真…
…やっぱり…
「…勉強なんてしてないじゃないですか…」
「………バレちゃった。」
…大河様は少し恥ずかしそうな顔…
俺は大河様のそばに近寄るとその場に座り込む。
「…さぁ…大河様。本音を言って下さい。」
「…五十嵐…?」
「あんな聞き分けのいい事言って…本当は約束を破った旦那様に文句の一つも言いたいんじゃないですか?」
「…五十嵐は僕の事はなんでもお見通しだね…」
「…何年大河様のそばにいると思ってるんですか…」
「…そうだね…」
俺の言葉に、大河様は困った様な笑顔を見せた。
そしてすっと椅子から立ち上がると俺の目の前に腰を下ろす…
「……いつもの冷静な僕じゃないけど…幻滅しない?」
「しません。」
「嫌いにならない?」
「なりません。」
「絶対?」
「絶対です。」
大河様は俺の言葉に安心した様な笑顔…
「…じゃあ……言わせて貰うね……」
「はい…」
大河様は大きく深呼吸する…
「パパのバカ!!約束してたのに!!必ず帰るって言ってたのに!いつも年に一回しか帰ってこないくせに、今年はそれもダメなんて!いつも仕事ばっかりで僕の事ほったらかしにして!一人にして!すっごく楽しみにしてたのに!…パパはいつもそうだ…僕が寂しくないとでも思ってるの?本当はすっごく寂しいのに!それもわからないの?…」
大河様は一気に言い放つとふーっと大きなため息をつく…
「…まだあるんじゃないですか?…旦那様以外にも言いたい事があるんなら言って下さい……」
「……ふふっ…五十嵐には敵わないな…確かにまだ言いたい事あるよ……続けてもいい?」
「もちろんですよ…全部言って下さい。」
…大河様の苦しい心の内…俺にどれだけ理解出来るかなんてわからない…でもとにかく全てを受け止めたい。全てを吐き出して楽になって欲しい…俺は強く頷く。
「…周りのみんなも!僕はそんなに大人じゃない!でも、仕方ないじゃないか!僕がワガママ言えばみんなが困るんだ!僕はみんなを困らせたくない!だから僕は我慢するんだ…苦しいけど我慢するしかないんだから…」
大河様は小さな子供みたいに大きな声で自分の感情を露にする。
やっぱり俺の思った通りだ……大河様は…
「…少しは気がすみましたか?…」
「…うん…」
大河様は恥ずかしそうに僅かに微笑む…
俺はそんな大河様が切なくて可愛くて…
「…大河様が立場上、無理をしなければならないのはわかります。自分がワガママを言えば周りが困ると思っているのもわかります。でも…自分が苦しくなるほどの我慢はしないで下さい……せめて……せめて俺だけには大河様の本音を言って下さい。 大河様の辛い事…苦しい事… 俺はあなたの全部を知りたいんです。俺は全部聞きます…大河様全部を受け止めますから…」
俺の精一杯の言葉……
「……五十嵐…ありがとう…」
安心した様に優しく穏やかに笑う大河様…その笑顔に俺は少しだけ安心した…。
「ねぇ〜五十嵐!」
「なんですか?」
心の内を全て吐き出して落ち着いたのか、大河様はニコニコと満面の笑みで俺に近付く…
「…ぎゅーーってして!」
「…ええっ?!」
大河様のその言葉…俺の顔が一気に熱くなってしまう…
「前は僕が寂しがるとよくしてくれたじゃない…」
「そっ…それは…前は大河様も俺もまだ幼くて…」
「…大きくなったらダメなの?もうしてくれないの?」
「…いや…その………」
…そうじゃなくて…俺がダメというか…
確かに幼い頃は大河様が寂しがるとどうしていいかわからなくて、小さな大河様を抱っこして慰めたりしていたが…
その頃は大河様は俺にとってただの憧れの人。
しかし今はそれを軽く越えてしまって……大河様は俺の一番愛しく大切な可愛い人……何よりも大事な愛する人…
そんな甘い自分の気持ちをはっきり自覚している俺は、愛する大河様にそんな事簡単には出来ない…
「…えー…」
大河様は口を尖らせ拗ねた顔…
昔から何度も見てきたこの可愛い顔…俺はこの顔にすごく弱くて……
「ねぇ五十嵐…ぎゅっーってして……」
顔を近付け…甘える様な上目使いで俺を見つめる大河様…その潤んだ淡い瞳……俺はもう太刀打ち出来ない…
「…わ…わかりました…」
「…ふふっ…やったぁ!僕の勝ち!」
大河様はあぐらをかいて座っている俺の膝の上に跨がると嬉しそうにしっかりと俺に抱き付く。
久し振りに感じる大河様の体温…昔と変わらず温かい…
俺は遠慮がちにその背中にそっと手を回す…
「…こっ…これでいいです…か?……」
「ダメ!もっとぎゅっとして!」
「…えっ?…も…もっとですか?…」
「うん…痛いぐらいにぎゅーーーって!」
「……はい……」
…そんなに強く抱き締めたら大河様が壊れてしまいそうじゃないですか…
俺は積極的な大河様に動揺しつつ……言われるがままに大河様を強く抱き締める…
「…んー…五十嵐はあったかいねー…」
「……」
大河様は俺にしっかりと抱き付き、俺の胸にすりすりと頬擦りする…柔らかくしなやかな髪が俺の顔をくすぐり…大河様の体温が俺に伝わる…
…た…大河様……すごい可愛い……
全身で大河様を感じてしまった俺の胸はドキドキと高鳴る…
「あー…五十嵐、すっごいドキドキしてる…」
大河様はぴったりとくっつき、嬉しそうに俺の胸に耳をあてる…
…うわぁ…これはマズイ…マズイだろ…
大河様に自分の胸の高鳴りを聞かれてしまい…俺は激しく動揺…
落ち着こうと思うほど、俺の胸はより一層ドキドキと激しく高鳴ってしまう…
「…ねぇ、五十嵐…もしかして僕が抱きついて緊張してるの…?」
「…はい…すごく…正直言って…動揺してます…」
「…ふふっ…五十嵐は可愛いね…」
「…大河様の方が……可愛い…です…」
俺を間近で見つめる大河様…
「…五十嵐…僕の事好き?」
大河様が幼い頃から幾度となく俺に尋ねるこの言葉…
俺はいつも必ず「はい…」と答えてきた。
その気持ちにいつも嘘はない…俺は出会った時からいつもずっと大河様を好きでいる。
ただ…成長するにつれ、その「好き」は俺の中でその意味が大きく変化していて…「憧れの好き」から「愛する好き」へ…
大河様の綺麗な顔…淡い瞳に小さな唇…俺は甘える様に可愛くて笑う大河様に触れたくて仕方ない…
「今の俺の好きは…こういう好きですよ…」
大河様を自分の身体から少し離すと、その淡い色をした頬を優しく撫でる…そしてその頬に軽くキスをした。
大河様は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに満面の笑みで俺に飛び付く。
「…五十嵐!…」
「うわぁ………」
ドサッ…………………………
大河様の温もりと可愛さに心も身体もふぬけていた俺はその勢いに押されてバランスを崩して後ろに倒れこむ…
俺に馬乗りになった大河様はその淡く潤んだ瞳でじっと見つめる…透き通る肌の綺麗な顔が俺のすぐ近くに…
その顔は少しずつ俺に近付き…大河様の柔らかな小さい唇がそっと優しく俺の唇に重なる…
「…ん……」
俺も目を閉じる…
唇から大河様の温もりが俺の全身に伝わり…身体の芯がやんわり火照るのを感じた…
少し長めのキス…
大河様は唇をそっと離す…
「僕の好きもこーゆー好き…」
そう言って大河様は潤んだ瞳で俺を見つめる……
「…五十嵐…ずっとずっと僕のそばにいてくれる?…僕は五十嵐と一緒にいたいんだ…五十嵐がいてくれたら、寂しいのも我慢できるから…」
「…俺は昔もこれからも、ずっとずっとあなたのそばにいますよ…大河様…」
「…ずっと?…」
「…はい……あなたがいる限り…永遠に…」
俺は大河様の顔を両手でやんわり包むと、その柔らかい頬を優しく撫でる…
「…五十嵐……愛してるよ……」
「俺も…大河様を一生愛します……」
俺はそう囁くと今度は自分から大河様の唇に深く口付けた…
*大河様…なんて可愛い!!これは五十嵐も守ってあげたくなりますよね〜…そんな五十嵐も可愛いんですけどね♪五十嵐にはいつまでも大河様の側に存在してて欲しい…イガタイが大好きです!
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