約束
「…あ…あのさ……」
「なんだよ…」
「…やっぱ何でもないっ!!」
「言いかけてやめんなよな〜」
中途半端に話を止めた弾平に、隣を歩いていた陸王は呆れたように声をかけた。
陸王は中学3年、弾平は中学2年。
それぞれ荒崎中学、球川中学に進学し、どちらも闘球を続けていた。
別々の中学に進学したものの仲の良い二人はたまに都合を合わせては待ち合わせ、互いの近況報告をしていた。
弾平と過ごす穏やかで優しいこの時間は、陸王にとってかけがえのないものだった。
陸王は弾平に他の仲間とは違う特別な感情を持っていた。
しかし、弾平の無邪気な笑顔を目の前にすると「友達」の枠を越える勇気は消え失せてしまい………いつもの軽いノリで振る舞う事しか出来なかった…
ー情けねぇなぁ…天下の荒崎中の陸王様がよ……
時刻は夕方……大きく丸い、色鮮やかな夕日が二人の影を少しずつ長くしていた……
「なんだよ言えよ〜、気になんだろ!」
「……わかったよ!……」
「……陸王……お前、球川高校のスポーツ推薦貰ったんだろ……?」
「……あぁ…まぁな……それがどうした?」
球川高校はスポーツ…特に闘球に力を入れている学校で、優秀な選手を推薦という形で入学させている。いわば闘球の名門校であり、闘球選手にとっては憧れの高校だ。
すでに卒業していたが、弾平の先輩である三笠や四天王ももちろん進学していた。
そんな球高が、類い希なる完璧な身体…高い身体能力を持つ陸王を放っておく訳がない。
陸王はほんの2〜3日前、担任から球高の推薦が来た事を知らされていた。
陸王は不良の集まる荒崎小の出身であったが、そんな事すら払拭してしまう程、陸王の身体、能力は完璧だったのだ。
「……お前……どうすんだよ……」
「なにがだ?」
「…なにがって……球高に行くのかよ!?」
「なんで怒ってんだ?」
「…怒ってなんかない!」
隣を歩く弾平は陸王の方を向くでもなく、下を向いたまま立ち止まっている。
「…いや…まだ迷っててな…」
これが正直な気持ちだった。
…陸王はこれまで自由気ままに闘球をしてきた。
荒崎小の時も、荒崎中に進学した後も自分の信じた仲間と自分の信念の下、闘球をしてきたのだ。そんな自分が、名門球川高校の闘球部で続けていけるのか…
陸王は能力を買われた事は嬉しかったが、自分の行く末を決めかねていたのだ。
ー早く決めないとな……
ぼんやり考えていると、弾平が口を開いた。
「……けよ……」
「…?良く聞こえないぜ」
「……球高行けよ…って言ってんだよ!」
「………」
「おいらは球高へ行く………だからお前も行けよ!おいら…お前と闘球したい!…先に行って、おいらを待ってろよ!」
顔を下に向けたまま怒鳴るように言い放つ。
自分より頭2つ分程小さい弾平の顔を伺う事は出来ないが、僅かに見える耳は夕日のように赤く燃えていた。
つられて自分の顔も赤くなっていくのがわかる。
陸王にとって、弾平は特別な存在だ。弾平のがむしゃらでひたむきな闘球に、辛く悲しい過去を持つ自分は救われたのだった。
純粋に自分を求めてくれる弾平に、陸王の心はやんわりと暖かくなっていく…
「……ありがとな……」
陸王は、弾平の柔らかな赤く燃えるような髪をくしゃりと撫でた。
そして、小さな弾平が自分にとって誰よりも大切な大きな存在になりつつある事実を改めて噛みしめた。
少しの沈黙の後、陸王がニヤリと笑う。
「んーー考えとくぜ!」
「……なっ……お前!自分の人生真面目に考えろ!」
「弾平に言われたくねーなあ…ま、お前がどーしてもって言うんなら行ってやってもいいけどな〜」
「べ…別に!どーしてもじゃねーし!」
「じゃあ、やめよっかな〜」
「…なっ…!!」
陸王を見上げる弾平の顔は夕日より赤く染まっている。
「…じゃあ、もう一度言えよ!俺と一緒に居たいって!言ったら考えてやるよ。」
陸王は意地悪げな顔で弾平の顔を覗きこむ。
「……くっ……うぅ……」
「あはは……お前、相変わらず可愛いなあ…お前のそーゆーとこが……」
陸王の言葉が終わらない内に、一瞬、陸王の視界から弾平が消えた。
「……え?……」
次の瞬間、陸王の目に入ったのは自分に抱きついている弾平だった……
「おいら、陸王と一緒に居たい…」
抱き付く弾平の腕に力が入る。
「……」
驚きと共に愛しさが溢れてくる。
ーだめだ……我慢できねえ……
陸王が弾平を抱き締めようとした瞬間、その身体はするりとその腕を抜けた。
「…言ったからな!約束守れよ!!じゃあな!」
顔を真っ赤に染め嵐のように走り去る弾平の背中を見詰め、陸王は暫く動けなかった……
帰宅した陸王は自分の部屋に入ると机の上の封筒を手に取り、ベッドに寝転がった。
封筒から球高のスポーツ推薦の願書を取り出す。
胸がザワザワする……
先程の自分の腰に回された弾平の腕の強さを思い出した。
自然と胸が熱くなる。
「仕方ねーな…約束だしな…」
胸のざわめきを打ち消すかのようにそう呟くと願書のページを開いた……
*悩める中学生ですね。陸王と弾平には、同じ高校へ行って、闘球でコンビを組んで欲しい…練習後の帰り道で一緒に道草して下さい!
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