悪魔なキミ!
「滝のバーカ!!」
「…なんだと!!お前の方がバカじゃねーか!」

荒崎小闘球部の部室…俺は白川とケンカをしていた。
激しく罵り合う俺と白川…ケンカのきっかけは言うに足らないほんの些細な事。あんまりにも小さい事で言うのも恥ずかしいから黙っておく。
子供染みた売り言葉に買い言葉……まさにそんな感じだ。

白川は荒崎一の乙女だ。
小さな顔に大きな瞳…色も白くて髪はサラサラ…頬はうっすらピンク色で唇はいつも淡く濡れている…どこからどう見ても女にしか見えない。
…まぁ…白川は紛れもない男なんだけどな…
そしてこいつが何より乙女なのはその性格だ。なんだか知らねーがやたら乙女な思考で細かくて繊細で…俺からしたら扱いがめちゃくちゃ面倒なヤツ。
俺と白川は小学一年からの長い付き合いでクラスも部活もずっと一緒。
俺は白川と仲が悪いという訳ではないが…そんな乙女で繊細な白川と俺の性格はまるで正反対!故に衝突する事も多く…
はっきり言って俺は白川の乙女な思想が全く理解出来ない…逆に白川は俺のいい加減で大雑把な所が理解出来ないらしい。
…ってか…いくら外見が乙女でもお前は確かに男だろ?!中身まで乙女になんなっての!いつまでも女みたいにウジウジしやがって…本当に面倒なヤツだ!

「…だからお前は女みてーなんだよ!細かい事気にしやがって…いつまでもグズグズ言ってんじゃねーよ!」
「うるさいバカっ!滝の無神経!!バーカっ!」
「はぁっ?バカはお前だろ?!」
「滝の方がバカだよっ!全然バカっ!すっごくバカっ!」

…白川のヤツ…バカバカ言いやがって!幼稚園児か?!お前は!…まったく本当に腹の立つヤツだ!
白川はつんと口を尖らせ俺を睨み付けている。
自分は悪くなくて悪いのはみんな俺!みんな俺のせい!…俺は白川にそう言われてるみたいで…白川のその生意気で高飛車な態度に俺はますます腹が立つ。

「…なんだよ…睨みやがって!みんな俺が悪いってのかよっ!」
「そうだっ!みんな全部滝が悪い!滝のせいだ!」
「なに言ってんだよ!なんで俺が全部わりーんだよ!」
「滝が無神経なのが全部悪い!…俺に謝れよっ!」

…はぁっ?!…俺に謝れだぁ?こいつ全部俺のせいにしやがって〜!あ〜すっげーイラつく!!
全てを俺のせいにして開き直っている白川に俺の怒りもピークに…
俺は厳しく吐き捨てる様に白川に怒りをぶつけた。

「おい白川!よく聞けっ!…お前は陸王さんが好きかもしれねーけどな!陸王さんはお前なんか全然見てねーんだよ!陸王さんにちょっと優しくされたからって…勘違いすんじゃねーよ!このバーーーカ!」
「…………」

白川を追い詰める様な俺の激しい言葉。
白川はさっきまでの勢いが一気に消え失せ…ただ悔しそうに俺を睨み付けながら黙りこんでいる……


…あっ!…し…しまった……陸王さんの事を言ってしまった…
俺は激しく後悔した。
白川は俺達の主将の陸王さんにすごく憧れている…それは俺達の中でも断トツにずば抜けて熱烈だ。
陸王さんは強くて逞しくて優しくて男気があって…運動神経も抜群…パワーもすごい…そのくせ優しくて仲間思いで…とにかく男としてパーフェクト!男から見てもめちゃくちゃカッコいい!
闘球もすっごく上手くて、主将として技術的にも精神的にも俺達のチームの要の存在だ。
そんな陸王さんはもちろん学校でもすごく目立つ…俺達闘球部のメンバー以外にも憧れているヤツはかなり多い。
俺だってそんな陸王さんにすっごく憧れている…だから闘球部に入ったんだからな!
そんな陸王さんだから白川が激しく憧れるのは無理もないんだが…俺から見たらただの憧れ…というのを軽く越えて、恋愛的に恋い焦がれているみたいな…そんな感じで…

そんな陸王さん大大大好きな白川に俺はそんな事を言ってしまった。
俺と白川の間にただならぬ空気が流れる…

ずっと黙り続けている白川…
…ふと見ると…その大きな瞳がうるうると潤み出しているじゃねーか!
白川のきれいな大きい瞳からポロポロとこぼれ落ちる大粒の涙…

…う…うわあっ!!泣いちまった!も…もしかして…俺が泣かせちまったのか?!
こうなってしまうとさっきまで溢れかえっていた俺の白川に対する怒りが急速に削がれてしまい……その代わりに「動揺」の二文字が俺の心を一気に支配する………
俺はか弱い女に酷い事を言って泣かせてしまった様な感覚に襲われちまって…いたたまれない。
…これはもう明らかに俺の負けだ…泣いたもん勝ちだぜ……

「…す…すまねぇ…白川…… 」
女みたいに可愛い白川に泣かれちまうと…俺はものすごく弱い………
もちろん俺が全面的に悪い訳ではなく、白川だってかなり悪い。そう思ってはいるが…こんな風に目の前で声もなくポロポロと泣かれては…男としてこれほど参る事はない。
……もう…これは俺が謝るしかない…そんな雰囲気で…

悲しさと儚さを漂わせた大きな瞳で俺を見つめながらただポロポロと涙を流す白川……その切なく可愛い顔…
先程までの激しさから一転…俺は女の様に切なく涙を流す白川が可愛くいじらしく思えて仕方ない。
そんな可愛い白川を見つめながら…俺は前にクラスのヤツラが言っていた事をぼんやり思い出していた……

“ 白川のヤツさ、可愛いだろ?…男だってわかってんだけど…つい… "

教室で白川を見ながらコソコソと話すヤツラの会話をさりげなく聞いていた俺…

…はぁっ?なにが “つい" だ…… バカかこいつら…白川は男だぞ?!こんな乙女で面倒なヤツのどこがいいんだよ?!…

なんてその時は思っていたが………たった今…そいつらの言っていた事がよくわかってしまった。

確かに白川は可愛い…ものすごく可愛い。
容姿も内面も本当に女みたいで…ニコッと笑う顔も怒った顔も拗ねた顔も泣いてる顔も…全部可愛い。
正直言うと…俺も白川と二人でいる時にあの大きな瞳で見つめられるとちょっとドキドキしちまうんだよな…
俺は白川の乙女で繊細なところがすごく面倒だ…確かにそうなんだけどな…でもちょっとだけそんなところが可愛いとも思ったりしている。
俺は白川とよくケンカしてしまうけど…それは好きな子の気を引きたくてつい苛めてしまう…その心理。あ〜俺はなんてガキなんだ!
俺は白川に対してほのかに恋心を抱いている…認めたくねーがな…

「…俺が悪かったから…… 頼むから泣くなよ……」
なかなか泣き止まない白川に俺は心底困ってしまう………
白川の可愛い泣き顔…白川から伝わる繊細で儚い心…
俺はそれに引き寄せられる様に白川のそばに近寄ると…その大きな瞳からポロポロと溢れ落ちる涙を指でそっと拭う……
白川は頬をピンクに染めて…淡く濡れた下唇を少し噛みながら切ない潤んだ瞳で上目遣いに俺を見た。

…うわっ…なんだよ…白川すげー可愛いんだけど………

こいつは陸王さんが好きなんだ…そんな事はよくわかっている…でも…でも…俺も白川が…
うるうると潤んだ大きな瞳に見つめられ…その甘い視線に俺の男としての本能がガツン…と刺激されちまう…
俺は本能の赴くままに白川の顎に手をかけ…俺の方に顔を向けさせた。
白川は抵抗する事もなく俺にされるがまま…なにも言わずにその可愛い顔でひたすら俺を甘く見つめている…
俺は白川の肩を優しく掴んでそのままその可愛い泣き顔に近付いた……
俺を見つめる涙で潤んだ大きな瞳…ほんのり淡く濡れた小さな唇……
その全てを自分のものにしたい…白川の可愛い唇を奪いたい……俺の男の本能がじわじわと現れる………
白川の小さな唇に俺の唇が重なるまであと少し……もう少しで俺のものに…


ー……ガチャッ!!
その時、勢いよく部室のドアが開いた!
部室に入ってきたのは………あ!…陸王さん!

「よぉ!…ん?……あれ?…お前らなにやってんだ?」
突然現れた陸王さんの大きな声に俺はハッと我に返る…白川からパッと手を離すと慌てて離れた。

…お…俺はなにやってんだ!…白川にキスしようとしちまった!…
俺は自分の軽率な行動にかなり動揺してオタオタしてしまう。それでも平静を装って陸王さんに声を掛けたが……

「…い…いくおぅーさん……は…早かった…ですぅね…」
あ…声が裏返ってしまった…
陸王さんはそんな俺を不思議そうな顔で見ている…
すると白川が涙を浮かべたまま陸王さんに走り寄るとぎゅっ…と抱き付いたじゃねーか!

「陸王さ〜ん…滝がひどい事言うんですよ〜… 」
甘えて陸王さんにしがみつく白川…陸王さんも、よしよし…といった感じでそんな白川の髪を優しく撫でている。

「滝ぃ〜…白川を泣かせんなよな〜…」
自分にぴったりと抱き付いている白川を優しく慰めながら呆れ顔で俺を見ている陸王さん…
何度も言うが、このケンカは些細な事が原因の売り言葉に買い言葉で始まった。はっきり言って俺が全面的に悪い訳ではない…もちろん白川にも悪いところがある。だからケンカになったんだ。
しかし…俺と白川の二人っきりの部室で白川がポロポロと泣いているこの状況…これは明らかに俺に不利…
俺の目の前で白川が儚くいじらしく切なく泣いている…これはどっからどう見ても俺だけが悪い的な感じ…

ふと白川を見ると…陸王さんにベッタリとくっついて意地悪げに笑いながら俺にベーッと舌を出しているじゃねーか!!

……白川のヤツ!…ふざけやがってぇ〜!!
白川の俺をバカにする様なその態度に俺の怒りは完全再燃!
涙を浮かべた可愛い顔に俺の白川へのほのかな恋心が刺激され…キスしようとしてしまったさっきの俺…なにかの間違いだ!!絶対絶対間違いだ!! …と思いたい……まぁ…間違いじゃねーけどな…

「まったく滝は…いっつも白川とケンカしやがって!…俺が着替えるまでお前達はグランドでキャッチングの練習から始めてろ!」
「…はいっ!」
さっきのいじらしく儚い涙はどこへやら…白川は大好きな陸王さんが自分の味方してくれてかなりのご機嫌。
白川のそんな様子に俺の嫉妬心がメラメラ燃えて…

…くそっ!一体なんなんだ…白川のヤツ!…陸王さんにはニコニコしやがって!俺と態度が全然違うじゃねーか!あ〜…もう!陸王さんに嫉妬しちまうぜ!
俺は激しい嫉妬に駆られたが…白川が好きなのは陸王さんだ。
今俺の気持ちを白川にぶつけても…多分勝ち目はない。悔しいけどな…



「……白川…行くぞ……」
「うんっ!…じゃあ陸王さん!先に行ってますね!」
俺は陸王さんに満面の笑みを浮かべている白川を連れて仕方なく部室を出てグランドに向かう…陸王さんに言われた通りキャッチングの練習を始めた。
少し離れて向い合わせに立った白川はニヤニヤと笑いながら俺にボールを投げる…

「…なぁ滝…お前さっき泣いてる俺になにしようとしたんだよ………」
「………え?!」
「…あんなに俺に迫って…もしかして…キスしようとしてた?…」
「…ええっ?!…そっ…そんな………」
白川にはバレていた…
ほのかな恋心を抱いている白川に泣かれて激しく動揺した俺。
切なく泣いている白川を可愛いと思ったのも事実…男としての本能の赴くままにそんな可愛い白川を自分のものにしたいとキスを迫ったのも事実……全部間違いない。
さっきの自分の行動を白川にズバッと見抜かれ…俺はまたしても激しく動揺してしまう。
白川には全部バレているのだ……もしかしたら俺が白川にほのかな恋心を抱いている事も?……そう意識した俺は一気に顔が赤くなっちまう…

「あー滝の顔真っ赤!…ねぇ滝!俺にキスしようとしたの?どうなの?…」
「…う…うるさい!!そっ…そんな訳………」
…ねーだろ!!って答えたかったが…その自覚がある俺はそうとは言えない。…なんて正直な俺なんだ…

「ふーん…お前も結構可愛いとこあるじゃねーか…」
「…ううっ………」
完全に動揺してしまい言葉に詰まってしまった俺…白川はそんな俺をクスクスと小さく笑いながら見ている。

「…ねぇ滝…この次は最後まで頑張れよ…」
「…なっ…最後までって……お…お前なに言ってんだよ!!このバカっ!!」
「奥手な滝は頑張れるかなぁ〜?」
「… うっ… うるせー!バカっ!黙ってろ!」
俺を挑発する様な白川の言葉…俺のほのかな恋心を弄ばれたみたいで俺は真っ赤になってしまう。

「ふふっ…なんだよ滝…照れてんのか?」
「てっ…照れてなんかねーし!!」
「…顔真っ赤にしちゃって…照れてんじゃん!…くくッ…可愛い!たーきーくんっ!」
ニコッと笑いながら可愛らしくハートマークを付けて俺の名前を呼ぶ白川。そのどうしようもなく可愛い笑顔に、俺の胸の奥がきゅんきゅんしちまう…あ〜…ヤバイ…これはヤバイな…
俺にとって白川のその可愛い笑顔はかなりツボ…言葉では反抗してるものの…思いっきり赤い顔をしてる俺のその言葉にはまるで説得力がない。
白川に翻弄される中…俺はクラスのヤツラの言葉の続きを思い出していた………

“ 白川さ、女でいう小悪魔なんだよな…生意気なんだけどなんか妙に可愛くて…知らない内に好きになってる…みたいな………"

……その通りかも知れない……だって…俺を翻弄する白川に怒りを覚えるその反面… " 次こそは可愛い白川全部を俺のモノにしたい… " なんて考えてる俺がいて…………

俺にボールを投げる白川の後ろに悪魔の可愛い尻尾が見え隠れ見する………小悪魔白川はそんな俺の胸の内も知らず…また一人自分の虜を増やしてしまった事も知らず… その尻尾をユラユラ揺らして可愛く笑っていた。

…あ〜…白川可愛いっ!!




*白川は小悪魔なんじゃないかと思ったのがこの話のテーマ。書き進んで行くほどに白川が小悪魔に…滝はこのまま白川を完全に好きになっちゃうんでしょうね…!それも可愛くて良いなぁ……
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