#1 [side 五大]
今日は逆巻との久しぶりのデート。
試合があった為に毎日の様に練習があり、二人きりで会うのはほぼ一ヶ月振りだ。
確かに学校や練習では毎日顔を会わせてはいる…でも、それはあくまでも友達や部員として…しかも闘球部主将の顔の時の俺はかなり厳しく逆巻に接している。特に試合前は俺も一段とピリピリしてしまい、とても会話を楽しむような雰囲気ではない。逆巻も仲間も俺の放つ厳しいオーラに近付いてさえ来ない…
逆巻に嫌われるんじゃないかと思ったりもするが…やはり主将としてそこは曖昧には出来ない。逆巻だって真剣に闘球に取り組んでいる…ここで逆巻の可愛さに甘えては、主将として失格だ。そんな俺を逆巻だって喜ばないはずだ。
………でも!今日はそうじゃない。俺と逆巻は立派な恋人同士だ…

約束の時間は10時…
天気は快晴。見渡す限り青空が広がっている…

俺は家から少し離れた待ち合わせ場所へと歩いていく。
待ち合わせ場所は、俺と逆巻の家から丁度半分くらいの距離にある緩やかな坂の上のバス停だ。
ここは距離的にも丁度いいのだが、簡単な屋根も付いていて雨の日の待ち合わせにも困らない。しかも、バスもそう頻繁には来ない上に乗る人も殆どいない。特にバスに乗る用事がなくても、ここを俺達の待ち合わせ場所にしていた。

時間は9時40分…
俺は緩やかな坂を登り始める…
まだ早いのはよくわかっている。でも、俺は家にいても何だか落ち着かなくていつもかなり早く待ち合わせ場所に来てしまう。

バス停に着くと、当たり前だが逆巻はまだ来ていない。
俺はいつもバス停の後ろのフェンスに寄りかかり、小さな本を読みながら逆巻を待つ事にしている。別に本が読みたい訳ではないのだが、そうでもしていないととにかく落ち着かないのだ。時間にしたらたった15分くらいなのだが…逆巻を待つ時間を、俺はとても長く感じてしまう。

逆巻は男だが可愛い顔をしている。
背は低くて小柄、目は少しタレ目で口なんか小さくて愛らしい…小柄だが意外と筋肉質。腹筋も割れていて、肩幅なんか結構ある…
スポーツ万能で運動神経も抜群。性格は基本的に生意気でワガママ。プライドも高く、負けず嫌い…相手や仲間にすら弱味は絶対見せない。

…というのは周りのヤツラから見た逆巻。
……俺から見れば……寝顔はまるで赤ん坊みたいにあどけなくて、時々妙な寝言も言う。食うのも早くて、ラーメンなんか身体は小さいくせに俺より食うのが早い。今だにピーマンだけは絶対食えないし、怖いものはヘビ……男だろ!他人にはなかなか心を開かないくせに、ネコや小さな動物が大好きで、満面の笑顔で可愛がったりする…特にこれはいつもの逆巻とのギャップは凄まじい……良くも悪くも頑固者。そして、俺に命令するくせに抱き締めると妙に大人しくなったり…俺の言葉にすぐに拗ねたり…すごくワガママで、すごく真面目で……

まぁ…俺はそんな逆巻が好きなんだけど……生意気でクールな逆巻が実はこんなヤツって事は俺だけの秘密。逆巻は俺の恋人だから、俺だけが知っていればそれでいい!


時間は9時50分…
俺は本から目を離し、腕時計をチラッと見ると辺りを見回す…
もちろんまだ逆巻の姿は見えない。
再び本に視線を落とす……
しかし、また少しすると時計を見て辺りを見回してしまう…
とにかくソワソワしてしまい落ち着かない。

俺は基本的にいつも冷静沈着なのだが、逆巻の事となると…どうもダメだ…


10時を少し過ぎて逆巻は待ち合わせ場所に現れた…

「待たせたな!」
逆巻がそう言うから、俺は早くから来ていた事を知られたくなくて…
「いや…俺も今来たところだから…」
なんてつい言ってしまう。

…本当は15分も前からお前の事を待ってたんだけど…

多少顔が赤くなっているのを気付かれてないだろうか…
待ち遠しかった逆巻に会えて、俺はニヤケる顔を押さえるのに必死だ。


「なぁ、五大、今日はお前がどこに行くか決める番だろ?どこ行くか決めたか?」
「…あぁ、俺は本屋に行きたい。新しい参考書が欲しくてな…」
「えーー!また本屋かよ…この間もそうだったろ!お前、長いんだよな〜本屋だと…1冊買うのに、一体何分掛かるんだよ!」
「お前も漫画でも読んでればいいだろ…確かお前が毎月買ってる漫画、今日が発売日じゃなかったか?」
「…そーだけど……だって五大…いつも本に夢中になっちまって俺の事ほったらかしだし…」
「…寂しいのか?」
「…そっ…そーじゃねーけど…せっかく二人でいるのに…」
「じゃあ、いっそ別々に行動するか?」
「それは絶対やだ!それじゃデートにならねーし!」
「…くくっ…冗談だよ!」
俺は意地悪く言った後、笑顔で逆巻の髪をクシャリと撫でた。
逆巻は少し拗ねた様に俺を見る…
俺にしか見せないその拗ねた顔…俺はこの顔を見る度に心臓が高鳴ってしまう……そして、俺は逆巻の事をすごく好きだって思い知らされる。

「…じゃあ、本屋はなるべく早く終わらせる!その後、逆巻が見たがってた映画に行かないか?」
「…え!本当か?」
「…実はチケット貰ったんだよな〜」

…本当は買ったんだけど…

「…でも、お前はあーゆーの見ないって言ってたじゃんか…」
「…んー…そうなんだけど、逆巻が面白いって言うなら見てみたいな〜って思って…どう?」
俺は照れくささを悟られない様になるべく冷静にそう言うと、逆巻の頬っぺたに軽く手を当てた。
その掌から逆巻の体温が伝わり……俺は思わず顔が熱くなる……

「……うん……」
「じゃあ決まり!逆巻、行こう!」
「…あぁ!」
俺は先に歩き始めた。
逆巻は俺の服の裾を少し握って付いてくる。恥ずかしくてさすがに手は繋げないけど……




*五大は男前かと思いきや、案外乙女ですね〜♪逆巻に夢中な五大がかなり可愛いんですよ!本当に、このCPの些細な幸せに萌えます!
1/3
next