#2 [side 逆巻]
今日は五大との久しぶりのデート。
試合があった為に毎日の様に練習があり、二人きりで会うのはほぼ一ヶ月振りだ。
確かに学校や練習では毎日顔を会わせてはいる…でも、それはあくまでも友達や仲間として…しかも闘球部主将の顔の時の五大は恐ろしく厳しい。特に試合前は一段とピリピリしていて、とても会話を楽しむような雰囲気ではない。俺も仲間も五大の放つ厳しいオーラに一歩も近付けないほど…少し寂しさもあるが、それでいいと俺は思っている。それでこそ、風間小闘球部の主将、五大だ。
………でも!今日はそうじゃない。俺と五大は立派な恋人同士だ…

約束の時間は10時…
天気は快晴。見渡す限り青空が広がっている…

俺は家から少し離れた待ち合わせ場所へと歩いていく。
待ち合わせ場所は、俺と五大の家から丁度半分くらいの距離にある緩やかな坂の上のバス停だ。
ここは距離的にも丁度いいのだが、簡単な屋根も付いていて雨の日の待ち合わせにも困らない。しかも、バスもそう頻繁には来ない上に乗る人も殆どいない。特にバスに乗る用事がなくても、ここを俺達の待ち合わせ場所にしていた。

時間は9時45分…
俺は緩やかな坂を登り始める…
あと少しで五大との待ち合わせ場所のバス停に到着する。しかし、俺は素直には行かずにバス停が見えるか見えないかの場所にある家の垣根にちょっと隠れる…
そーっと垣根の隙間から覗くと…

…いたいた…

バス停には、まだ約束の15分前だというのにもう五大がいる。
五大はいつもバス停の後ろのフェンスに寄りかかり、小さな本を読みながら静かに俺を待っている…本に夢中なのか五大はこっそり見ている俺には全く気付かない。
あの試合前の恐ろしく厳しいオーラはどこへやら…五大の周りには、穏やかな暖かい空気が流れている。

五大は男の俺から見てもかっこいい。
顔は小さく八等身、目は切れ長で口元もキリッと引き締まっている…手足も長く、筋肉質。腹なんて6つに割れている。容姿端麗…とは、まさに五大の為にある様な言葉だ…
闘球部主将だけあって運動神経も抜群、おまけに成績も学年トップクラス。真面目で実直…先生や他のヤツラからも絶大な信頼を得ている。

…というのは周りのヤツラから見た五大。
……俺から見れば……寝相が悪く、加えてかなりはっきりした寝言も言う…猫舌で熱いものが苦手で、ラーメンなんかあんなデカイ図体して俺より食うのが遅い。人参だけは絶対食えないし、怖いものは幽霊……信じてんのかよ!あんなに恐ろしく厳しいオーラを放つくせに、ネコや小さな動物を満面の笑顔で可愛がったりする。
闘球部主将としての五大とのギャップは凄まじい……良く言えば真面目、悪く言えば頑固者。そして、俺の言葉に一喜一憂するくせに無理矢理抱き締めてきたり…すごく強引ですごく繊細で……

まぁ…俺はそんな五大が好きなんだけど……みんなが憧れ恐れる五大が実はこんなヤツって事は俺だけの秘密。五大は俺の恋人だから、俺だけが知っていればそれでいい!


時間は9時50分…
五大は本から目を離し、腕時計をチラッと見ると辺りを見回す…
俺がまだ来てない事を確認すると再び本に視線を落とす。
しかし、また少しすると時計を見て辺りを見回す…
五大がソワソワしているのが手に取る様にわかる。

俺は、いつも冷静沈着な五大の落ち着かない様子を見るのが堪らなく好きなのだ。
悪趣味だけど、こんな風に隠れて…


10時を少し過ぎて、俺は何事もなかった様に五大の元へ…
「待たせたな!」
俺がそう言うと五大は、
「いや…俺も今来たところだから…」
なんて少し照れながら言う。

…本当は15分も前から俺の事を待ってたくせに…

そんな可愛い五大の様子に、俺はニヤケる顔を押さえるのに必死だ。


「なぁ、五大、今日はお前がどこに行くか決める番だろ?どこ行くか決めたか?」
「…あぁ、俺は本屋に行きたい。新しい参考書が欲しくてな…」
「えーー!また本屋かよ…この間もそうだったろ!お前、長いんだよな〜本屋だと…1冊買うのに、一体何分掛かるんだよ!」
「お前も漫画でも読んでればいいだろ…確かお前が毎月買ってる漫画、今日が発売日じゃなかったか?」
「…そーだけど……だって五大…いつも本に夢中になっちまって俺の事ほったらかしだし…」
「…寂しいのか?」
「…そっ…そーじゃねーけど…せっかく二人でいるのに…」
「じゃあ、いっそ別々に行動するか?」
「それは絶対やだ!それじゃデートにならねーし!」
「…くくっ…冗談だよ!」
意地悪く笑った後、五大はニッコリと優しい笑顔を見せ俺の髪をクシャリと撫でた。
俺にしか見せないその優しい笑顔…俺はこの笑顔を見る度に心臓が高鳴ってしまう……そして、俺は五大の事をすごく好きだって思い知らされる。

「…じゃあ、本屋はなるべく早く終わらせる!その後、逆巻が見たがってた映画に行かないか?」
「…え!本当か?」
「…実はチケット貰ったんだよな〜」
「…でも、お前はあーゆーの見ないって言ってたじゃんか…」
「…んー…そうなんだけど、逆巻が面白いって言うなら見てみたいな〜って思って…どう?」
少し照れくさそうにそう言うと、五大は俺の頬っぺたに軽く手を当てた。
その掌から五大の体温が伝わり……俺は思わず顔が熱くなる……

「……うん……」
「じゃあ決まり!逆巻、行こう!」
「…あぁ!」
五大が歩き始める。
俺は五大の服の裾を少し握って付いていく。恥ずかしくてさすがに手は繋げないけど……




*五大の設定は全て捏造ですみません……逆巻…本当に可愛い……この幸せ感はどこまで続くんでしょうか……
1/3
next