僕と陸王くん!
「たっ…大変です!秋山キャプテン!校門の所に…り…陸王が!」
「…ええっ?!」

ここは峰小学校のグランド…
授業も終わって、僕達峰小闘球部は放課後の練習中。
遅れて練習に合流した部員の一人が慌てて僕に駆け寄る…どうやら、荒崎小のキャプテンである陸王くんが、僕に会いたいと校門のところで待っているみたい…

荒崎小といえば、暴力的な試合をする怖〜いチーム…この間の全国闘球選手権の試合で闘った相手。僕の峰小は残念ながら負けてしまったけど…
その試合では、荒崎の人達に僕のチームの部員達が大怪我をさせられたり…僕も負傷させられたりと負けた上に散々な結果だったけど、その時出会った球川小の弾平くんにどんな強い相手にも逃げないで闘う事の大切さを教えて貰ったんだよね。
そのお陰で僕達は逃げる事なくあの怖い荒崎小と闘えて…負けちゃったけど悔いの残らない試合が出来たんだ。キャプテンの僕としては、あの荒崎小に精一杯ぶつかっていけたいい試合だったと思ってる。
その荒崎小キャプテンの陸王くんが一体なんの用で峰小に?……

「どうしよう…秋山キャプテン…」
伝えに来た部員がすごく不安そうな顔をしてる…無理もないよね。確かにいい試合だったけど、みんな荒崎小にはひどい怪我をさせられたりしたから…陸王くんって存在感と威圧感がすごくて…怖〜いオーラが滲み出てる感じで…僕も正直言って本当に怖いけど…でも、キャプテンが怖いなんて言ってられないよね!

「…僕……陸王くんに会いに行くよ!」
「ええーー!!でも…あの荒崎の陸王だよ…」
「う…うん……でもなにか大切な用事なのかも知れないし…」
「……大丈夫かなぁ?……」
「多分…大丈夫!」
……と思うけど…………わかんないや…

僕はキャプテンとして勇気を出して校門に向かう…
やっぱり怖くてちょっと足元がおぼつかないけど…でも…頑張らないと!
近くの木陰に隠れてそーっと校門の方を覗くと……いた!!間違いなくあの陸王くん!
陸王くんは校門に寄り掛かりピーナッツを軽く上に投げては口の中へ…久し振りに会ったけど…やっぱり威圧感とオーラがすごい…
…ほ…本当に陸王くんだぁ…うわ〜…どうしよ…やっぱり怖い……
行こうか…行くまいか…僕は木陰を出たり入ったりとオロオロ…ウロウロ…怖いけど…でも…僕はキャプテン!しっかりしなきゃ!
ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ…意を決して校門に向かって歩き出す…陸王くんはそんな僕に気が付いたみたい。

「よぉ!秋山!」
陸王くんは親しげに僕の名前を呼ぶと、僕に近付いてくる…

…うわぁっ!どーしよ!どーしよ!…陸王くんが!陸王くんが!
どんどん近付く陸王くんに、僕は思わず逃げ出したくなったけど…悪い事とかなにもされてないのに逃げるのも失礼だよね…

僕がオロオロしてるうちに陸王くんはあっという間に目の前に…
「久し振り…元気そうだな。」
「陸王くん…いっ…一体…何の用だい?」
「そう警戒すんなって…別にわりぃ事しにきた訳じゃねーんだし…」
「…そっ…そんな警戒なんて…別に…」
「お前のそのちっこい顔に書いてあるぜ…ケンカでもしに来たのか〜…ってな!」
「ええっ?!!本当に?!」
僕は慌てて自分の顔を思いっきり擦る…

…あっ…これじゃあ、陸王くんにそうだと言っている様なもんじゃないか!
自分が陸王くんに対して、ものすごく失礼な事をしてるって気付く僕…陸王くんにそんな事してしまって…僕は反省。

「…ごめんね、陸王くん…失礼な事しちゃって…」
「ははっ…秋山は素直だな〜…」
陸王くんはそんな僕を怒るどころか、笑っている…
…あれ?あんな失礼な事したのに…陸王くん怒ってないの?…

「まぁ〜…無理もねぇよな。俺達はお前らをボッコボコにしちまったんだからな!」
陸王くんはそう言うと、僕に向き直って真剣な顔を見せる…

「実はな、今日は…謝りにきたんだ。」
「……え?」
「この間の試合で、俺達荒崎はお前らに随分怪我させちまったからな…ずっと気になってたんだぜ…」
「それで陸王くんがわざわざ謝りに来てくれたの?…」
「俺は一応キャプテンだからな。俺の仲間も言葉にはしねぇが気にしてる。…お前らの怪我の具合はどうなんだ?」
「……」
あの試合の時とはまったく違う、僕を見る陸王くんの穏やかな優しい顔…
…陸王くんってこんな顔するんだ…
陸王くんの意外な言葉とその顔に、僕は正直驚いてしまって。

「秋山?」
驚きのあまり、ボーッとしてしまっていた僕の顔を陸王くんは不思議そうに覗き混む…
「あっ…ごめん…僕もみんなもすっかり良くなったよ!」
「そっか!それなら良かったけどな!」
陸王くんは僕の言葉に安心した様にニコッと笑った。
…あ…陸王くんが笑ってる…いつもの怖い顔と全然違って…なんか……ちょっと可愛いかも…
陸王くんの優しい笑顔…初めて見せたその顔を、僕は思わず「可愛い」なんて思ってしまってさ…見とれちゃったりして…

「…秋山…大丈夫か?さっきからボーッとして…」
「あ!ごめん。なんかすっごく意外で…陸王くんが笑ってるから…そんな優しい顔するんだなって…」
「………」
「あっ!…べっ…別に陸王くんがいつもはすごく怖いとか、笑わないんじゃないかとか、そう思ってる訳じゃなくって!その…なんてゆーか…」
…あっ…もしかして僕はまた失礼な事を言ってるんじゃ…
僕はまたもやオロオロと…

「ふっ…あははは!…お前は正直だな〜…」
陸王くんはそんな僕を見て大声で笑っている…つられて僕もなんだか可笑しくなっちゃって…
「…ははっ…ごめん!つい本音が…あはは!」
陸王くんと僕の間には一気に穏やかな空気が流れる…
あの荒崎の陸王くんとこんな風に笑いあってるなんて…僕が一番不思議だったけど…


「陸王くん、せっかく来てくれたんだから他のみんなにも会っていきなよ。」
「いや…遠慮しとくぜ。みんな俺が怖いだろうしな…」
「…そっ…そんな事…」
「ははっ…無理すんなって!俺はあいつらにひどい怪我負わせたんだ。怖いって思うのが当たり前さ。」
「…でも………」
「それよりさ…俺…お前に…」
陸王くんがなにかを言い掛けたその時…僕達の背後から大きな声が聞こえてくる。

「おっ…おい!陸王!!なっ…なんの用だ!秋山キャプテンから離れろ!」
そこには何故かホウキを手にした部員達の姿が…
…うわぁ〜…マズイ…みんななんか完全に勘違いしてるよ!

部員達は手に持ったホウキで今にも陸王くんに殴りかかりそう…
どうやらみんな、僕が陸王くんになにか酷い事をされてるんじゃないかって思ったみたいで…僕の事助けに来てくれたみたい…でも違うんだよ!
…ちゃんとみんなに説明しなくちゃ!僕は慌てて止めに入る。

「ちっ…違うんだ!陸王くんは謝りに来てくれたんだよ!」
「………謝りに?…」
「そう!この間の試合で僕達に怪我をさせた事を謝りに来てくれたんだ!だから…もうやめるんだ!」
僕の必死の制止に、部員達の勢いも少しずつ収まる…

陸王くんはそんな部員達の様子に少し驚いてたみたいだったけど…みんなに向き直ると少し頭を下げたんだ。
「お前らもすまなかったな。怪我させちまって…でも思ったより早くよくなったみたいで良かったぜ…」
「…はぁ………」
みんなもあの時とはまったく違う陸王くんに戸惑っている…

「じゃあ、俺の用事は取り合えずこれで終わりだけどよ…その…」
陸王くんの顔がちょっと照れてる様に見えるのは気のせいかな…?
「…秋山にちょっと話があって…」
「…え?なんだい?」
「ここじゃちょっとな…俺これから帰るのにバスに乗るんだけどよ、バス停まで送ってくんねーかな…なんて……」
「……いいけど…?」
…陸王くん、なんだろ…
ここじゃ言えない用事って?…もしかして…やっぱり酷い事される?!でも、陸王くんそんな感じじゃないし…
僕は疑問に思いつつ…振り返って部員達の所に駆け寄る。

「僕、陸王くんをバス停まで送ってくるよ!」
「ええっ?!キ…キャプテン一人で大丈夫ですか?!」
「……だって僕にまだ用事があるみたいだし…それが何なのかちょっと不安だけどね。でも、陸王くんはわざわざキャプテンとして謝りに来てくれたんだ。僕もキャプテンとしてきちんとしたい!」
「でも………」
「平気だよ!みんなも見ただろ?陸王くんあんなに僕達に謝ってくれて…本当に悪い人だったらあんな事出来ないよ。」
「…キャプテン一人になった途端になにかするかもしれないよ…」
「陸王くんはそんな卑怯な事しない!僕はそう思うよ!」
僕は心配する部員達をなだめる…
確かにあの時の陸王くんはすっごく怖かったけど…でも、今僕達の目の前にいる陸王くんはすごく穏やかで優しそうで…とても悪い事するなんて思えない雰囲気でさ。僕はそんな陸王くんの事、信じてもいいかな〜って!

「じゃあ、ちょっと行ってくるね!」
僕と陸王くんは校門を出て、肩を並べて歩く…といっても僕よりかなり身体が大きい陸王くんの歩幅に必死でついて歩くって感じだけど…

僕は隣を歩く陸王くんをちらっと見る…
…改めて見ると…陸王くんってすごい身体だな〜…どのぐらい鍛えたらこんな身体になれるんだろ…力も強くて逞しくて…チームの人達も陸王くんの事すごく頼りにしてるみたいだし…統率力もあって男らしくてすごいキャプテンだよね…
それに引き換え僕ときたら…身体も小さくて気も弱いし…
僕は陸王くんとのあまりの違いに、ちょっと落ち込んだりして。

「陸王くん…どうしたら君みたいになれる?」
「…なんだよ、急に…」
「僕は陸王くんと違って身体も小さいし気も弱いし…キャプテンとしてこれでいいのかなーって思ったりして。僕じゃなくてもっと違う人の方がチームを強くできるんじゃないかって…」
…日頃キャプテンとして感じている僕の悩み…僕は何を弱気な事を言ってるんだ…と思いつつ、僕の理想のキャプテンそのものな陸王くんについそんな事言っちゃって…

「…どうしたら君みたいに…」
陸王くんは立ち止まってうつむく僕をじっと見ている…そして、僕の頭にポンッと手を置く…

「別にいーんじゃね。お前のまんまで。」
「え?……」
「別に力が強いからキャプテンって訳じゃねーんだし…チームの事考えられて、仲間の事思いやれるヤツがキャプテンだろ!」
「…陸王くん……」
「俺は逆にお前のその優しいとこが羨ましいけどな!…さっきだってお前の事助けようとして…みんなお前をキャプテンとして信頼してるんだってよく解ったぜ。スゲーいいチームじゃねーか!」
「……」
「それにな、あの試合の時、最初はなんて情けないチームだと思ったりしたけどよ…試合では俺達に負けねーぐらいいい根性してたぜ!…お前のチームのヤツらはちゃんとお前についてきてる。だから、お前はお前らしいキャプテンでいればいいんじゃねーの!」
そう言うと、陸王くんは僕の頭を優しく撫でてにっこり笑いかける…
僕は陸王くんの優しい言葉に驚いて…なんだか嬉しくなって…

「…ははっ…なんか…ありがとう………」
陸王くんの笑顔に僕はなんだか涙がじんわり…
…やっぱり陸王くんって悪い人なんかじゃないんだ…

「僕も、陸王くんと弾平くんの試合もすごくて…見ていて感動したよ!」
「…ははっ、感動かよ!弾平にはいろいろ教えられたからな…ありがとな、そう言ってくれて…」
僕と陸王くんの間には優しく穏やかな空気が流れる…

「なぁ…また練習試合してくれねーかな?」
「…え?!」
「もちろん!今度はあんな試合はしねーよ…」
「ああ!ぜひお願いするよ!僕達のチームももっと君達みたいな強さを勉強しないと!」
「強さか…じゃあ〜俺達もお前らみたいな優しさとかを勉強するとしようか!…でもうちのヤツらが優しくなったら…気持ちわりーか…」
僕はあの荒崎の人達の優しい姿を想像する…あ…確かに逆に怖いかも…

「そうかもね!やっぱりなんか変かも!」
「…ははっ!しっかしお前って本当に正直だな〜」
「あ…ごめん……」
…僕ってばまた失礼な事を…
僕と陸王くんは顔を見合わせて笑った。
…陸王くん…本当はこんなに優しくていい人なんだ…僕は陸王くんといい友達になれるかも…なんて思ったりして…

僕と陸王くんはバス停に到着する…
時刻表を見ると、あと少しで陸王くんの乗るバスが来るみたい…僕と陸王くんはベンチに並んで座った。
僕は陸王くんと過ごすこの時間がなんだかとっても居心地良くて…何となくもうちょっと陸王くんと話をしていたいな〜…なんて思ったりして…
帰ったらみんなに話さなきゃ!陸王くんが本当はこんなに優しくていい人なんだって!

…ふと気付くと、陸王くんはジーっと僕を見ている…
陸王くんの鋭く熱い視線…
…な…なんか陸王くん…僕の事すっごい見てる…なんだろ。なんか僕の顔に付いてる?…なにかしたかな…?
僕はなんだか急に緊張してしまって…

「…ど…どうしたの?!じっと見て…」
陸王くんの鋭い視線に耐えられなくなった僕は思わず聞いてしまう…陸王くんはそんな僕の手をぐっと掴んで、すぐ側に身体を寄せてくる…
そして…少しずつ近付くと、僕の顎に手をかけて顔を自分の方に向かせた。…なっ…なに?!

「…俺さ…今日ここに来たのは謝るためと、もう一つお前に大事な用事があってな…」
陸王くんの真剣な顔…

「…あの時も思ったけどな…今日久し振りに会ってやっぱり…」
「なっ…なんだい?…」
「…お前…可愛い顔してんなぁ…目も大きくて色も白くて…俺んとこの白川と同じか…それ以上か…」
陸王くんは僕の顔を真剣な顔で見つめている…

「りくおーくん…?な…なに言ってるの……?…」
「俺…お前みたいのタイプなんだよな…可愛いくて…優しくて…素直で…いい女だな〜…って…」
「…ぼっ…僕は男だけど…」
「細かい事気にすんなよ…お前みたいなちっこいヤツ…俺から見たら女みたいなもんだぜ…」
「…細かい事って…そんな………」
…男か女かって一番大切なところだよね?…

「一目惚れってやつかな?…可愛いぜ…秋山……俺と付き合わねぇ?…」
「…えっ?………」

予想外の陸王くんの言葉に僕は動揺…
陸王くんの顔が少しずつ近付く…なんか…すごく変な展開で…逃げなきゃって思うけど…僕は身体が動かなくて…
…わわわ…陸王くんの顔が…
「…ちいせぇ唇だな………」
次の瞬間…僕の唇に陸王くんの唇と思われる熱い感触が……

「……!」
…僕の唇には今まで感じた事のない感触…ほんのすぐ前には目を瞑った陸王くんの男っぽい顔が…
陸王くんは暫くすると唇をそっと離す…

僕は陸王くんからの突然のキスに…固まる…
「…もしかして…ファーストキスだった?…」
「………」
完全に固まってしまって言葉が出ない……
「…そーみたいだな…貰ったぜ…お前の初めて。ごちそーさん…」
陸王くんはそっと耳元で囁くと軽くウインクする…
僕は…僕は…

「お、バスが来たみたいだ…次に会えるのを楽しみにしてるからな…返事はその時に…」
陸王くんは呆然とする僕にそう言うと、意地悪げにニヤッと笑ってあっという間にバスに乗り込み…行ってしまった…

僕はまったく動けずそのまま…
暫くすると、道を走る車のライトにハッと我に返る…
「わーーーーーー!!」
…陸王くんなにしたの?!もしかして…もしかしたら?!
僕の唇に陸王くんの熱い感触がはっきり残って…じんじんと疼いている。
…一目惚れって?可愛いって?付き合うって?僕は男だよ!確か陸王くんも男だよね?!…
さっきの陸王くんの言葉が僕の頭の中をぐるぐると回って…目には、さっきとは違う意味で涙が浮かぶ…
僕は思わず唇を擦るけど…何度擦っても消える事のない陸王くんのキス…

…陸王くん…やっぱり悪い人なのかも…
僕はなんだかよく解らなくなっちゃって、そのまま暫く動けなかったんだよね。

茫然としながら部室に戻ると部員みんなが僕に駆け寄って来て…
「お帰りなさい!秋山キャプテン!…大丈夫だった?!」
「陸王に何か酷い事されなかった?!」
みんな口々に心配してくれる…

「…う…うん。酷い事とかはされなかったよ……けど……」
「…けど?」
みんなは僕の意味深な言葉に疑問顔…
…うわーーん!絶対言えない!!陸王くんに一目惚れされたとかキスされたとか絶対言えないよぉーー!
「なっ…何でもないよ!」

さっきの陸王くんの僕に向けられた優しい笑顔とキスした時の男っぽい顔が僕の脳裏に甦って…急に胸がドキドキと高鳴って…
…そう言えば…次に会う時に返事とか言ってたよね?!どーしよ!どーしよ!
一人動揺する僕…

「…秋山キャプテンあんなに動揺して…なんかあったみたいだね……」
「うん…酷い事じゃないみたいだけど…なんだろ…」
すっごい動揺しちゃって…部員達のひそひそ話も僕の耳には聞こえない…

…あぁ〜…!!困ったよぉ!
僕はいつまでも一人でオロオロ…ウロウロ…
どうしよう…次に会うときまでに答えがだせるかな…?





*なんて可愛い秋山くんなんでしょう…本当に女の子みたいで…管理人にとって、強気の陸王に攻められる女の子みたいな弱気な受けの秋山くん…というこの設定がかなりツボなCPなんですね…秋山くん可愛いく受けるので、陸王は好きなタイプだと思います…第2話も準備中…
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